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2020.05.02.Sat / update:2023.12.07

技能実習生の失踪者数、2022年は9,006人

大勢の技能実習生を前に朝礼する日本人中年男性。グエンという青年が来ていないことについて尋ねると同僚が「イナクナリマシタ…」と答える

2022年末の時点で、外国人技能実習生として働く外国人の数は32万4,940人。2012年は約15万人でしたから、10年前と比べて倍増したことになります。
毎年新たな実習生が日本にやって来る一方、多くの実習生が失踪しています。2022年には、全体の2.7%にあたる9,006人の実習生が失踪しました。彼らは、なぜ失踪するのでしょう?

1993年に始まった「外国人技能実習制度」は、主に「開発途上国」と言われる国々からやってくる実習生に、日本の職場で働きながら技能・技術・知識を伝え、開発途上国の経済発展を担う人づくりに協力することを目的として作られた制度です。技術移転を目的にしているため、単純労働は禁止されています。しかし、実態は少子高齢化で人材不足となった産業に、安価な外国人労働力を提供するための仕組みとして機能してきました。しかし近年は、さまざまなメディアでこの制度の問題点が取り沙汰され、「国際貢献」という美名とはかけ離れた運用実態が明るみになっています。

厚生労働省による賃金構造基本統計調査では、賞与や残業代を除いた技能実習生の1ヶ月の賃金は平均17万7,800円。彼らの平均年齢は27.9歳なので、日本の同年代の労働者の平均賃金25万1,200円(正社員以外は21万2,300円)と比べると、7割にとどまっています。(2022年)
法律では、技能実習生には「日本人と同等以上」の賃金を支払わなければならないとされているにも関わらず、実態はそうしたルールは守られていません。

2019年の法務省の調査では、2017年1月~2018年9月の間に不法残留などで摘発された5,218人の失踪実習生のうち、少なくとも721人は「賃金未払い」や「不適切な長時間労働」といった不正行為の被害にあっていた疑いがあるとわかりました。
さらに、失踪した実習生のうち、約7割は最低賃金未満で働かされていたことも判明しています。

低賃金や長時間労働だけではありません。2022年度の労働災害(仕事中の事故)の発生割合を見てみると、すべての労働者の平均が1000人中2.32件なのに対し、技能実習生は3.79と1.63倍。技能実習生は、日本人労働者に比べて危険な職場で働かされているのです。
こうした各種調査結果は、実習生の人権保護が適切に行われていないことを示しています。2022年の厚生労働省の調査では、技能実習生を受け入れている事業者の73.7%が法令違反をしていたことが発覚しています。

ところで、実習生はなぜ転職でも帰国でもなく、「失踪」を選ぶのでしょうか。
そもそも、技能実習生は原則として転職を認められていません。仕事がきつくても、職場が自分にあわなくても、他の会社に転職するという選択肢がありません。
また、実習生のの多くは来日するために「送り出し機関」に高額な手数料を支払う必要があり、そのために多額の借金を抱えるケースが少なくありません。帰国しても返済の目処がないため、自分の将来のためにも、故郷に残した家族に迷惑をかけないためにも、日本での新たな雇用を求め、失踪するケースが後をたたないのです。

様々な問題を抱える技能実習制度に対して、日本国内だけでなく国外からも非難の声が上がっています。
2010年、日本における移住者の人権状況に関する訪問調査を行った“移住者の人権に関する国連専門家”は、技能実習制度の廃止を勧告しています。また、アメリカ合衆国国務省が2021年に発表した世界各国の人身売買に関する報告書(2021 Trafficking in Persons Report)でも、日本の技能実習制度が、強制労働や人身売買だという指摘されており、世界からは外国人労働者の人権搾取を構造的に生み出す制度だと認識されています。

国際貢献をうたいながら、実際日本人が嫌がり人があつまらない産業に、低賃金の外国人労働者を調達する仕組みとして機能している「外国人技能実習制度」。しかし近年は、日本の国力の減衰、日本以外のアジア各国の発展、円安の影響などにより、日本で働く魅力はなくなり、実習生として来日を希望する若者も年々減っているといいます。

「稼げる」から日本に働きに来る時代は終わりを迎えます。しかし、さんざん外国人労働者に依存し続けた日本の産業は、外国人なしではもはや立ち行きません。経済的な優位性の代わりに、彼らに価値を感じてもらうための施策を考えなければ、日本の未来はありません。

「稼げる」から日本に働きに来る時代は終わりを迎えます。しかし、さんざん外国人労働者に依存し続けた日本の産業は、外国人なしではもはや立ち行きません。経済的な優位性に代わり、彼らに価値を感じてもらえる労働環境を整えなければ、日本の未来はありません。

過去の数字は?

外国人実習生の失踪
「外国人技能実習制度」のもと、日本で働く外国人の多くが失踪しています。 2019年の一年間に失踪した外国人実習生は9,052人。同年の実習生51万7,232人のうちのおよそ1.7%にあたります。 技能実習生は年々増加していて、2015年からの5年間で倍増。毎年1.7%〜2.2%の間で発生する失踪者の数も、増加傾向にあります。
外国人実習生の失踪
「外国人技能実習制度」のもと、日本で働く外国人の多くが失踪し、行方不明になっています。 2018年の一年間に失踪した外国人実習生は9,052人でした。同年の実習生42万4,394人のうちのおよそ2.1%にあたります。 失踪者は年々増加していて、2015年からの4年間で2万7,000人にも上っています。

この問題に取り組んでいる団体

「移民・移民ルーツをもつ人びとの権利と尊厳が保障され、誰もが安心して自分らしく生きられる社会」の実現を掲げるNPO法人。全国にあるネットワークを活かし、技能実習制度だけでなく、入管法や社会保障制度に係る様々な課題の解決に取り組んでいる。Facebookでの情報発信にも力を入れている。

「誰もが安心して生活し、働くことができる社会」を目指して労働や貧困問題に取り組むNPO法人POSSEの学生メンバーが立ち上げた団体。技能実習生や留学生向けに英語での労働相談など、外国人労働者の権利を守るための活動を展開している。

技能実習制度の問題に取り組むため2008年から活動している弁護士のネットワーク。35の都道府県から140人の弁護士が技能実習生への相談、法的サポートに取り組んでいる。政府に対して技能実習制度の廃止を求める意見書や声明も発信している。

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