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2021.08.01.Sun / update:2021.08.02

選手村の食事が好評な裏で。日本の卵の不都合な真実

国際卵委員会(IEC)の発表によると、2018年に日本人が食べた卵の量は、一人あたり年間337個。世界平均である166個の倍以上で、メキシコ(368個)に次ぐ世界第2位のタマゴ消費大国となっています。

これだけ卵が好きなのですから、さぞかしニワトリを大切にしているのだろうと思いきや…どうやらそうでもなさそうです。

日本国内で飼育されている採卵鶏(卵を産ませるために育てられるニワトリ)の数は、2019年時点で人間の数より多い1億8千万羽超。そのうち94.2%がケージ飼いで、さらにそのうちのほとんどが世界的に問題視される「バタリーケージ」を用いて飼育されているのです。(国際鶏卵委員会による2019年の調査による)

iPad一枚分の面積に詰め込まれ、卵を産み続けるニワトリ

「バタリーケージ」とは、ワイヤーでできた小さなケージのこと。その中にニワトリを詰め込んで育てます。1羽のニワトリに与えられるスペースは平均B5サイズ(257mm×182mm)とも言われ、iPadと同じくらいの面積しかありません。しかも、ケージは何段にも積み重ねらて狭い面積でたくさんのニワトリを育てられるように“工夫”されています。

メスのニワトリは狭いバタリーケージのなかで年間300個ほどの卵を産み続けます。その間、羽ばたいたり、地面を歩いたり、毛づくろいしたりすることはできません。本能的な行動を制限された環境に置かれ、ストレスで病気になったり、密着したニワトリ同士が攻撃し合ったりして命が消えていくこともしばしばです。

1年〜2年間ほど経って卵をあまり産まなくなるとニワトリは産卵の役目を終え、新しいニワトリと“交替”させられます。
ようやくケージから開放されたニワトリはと畜・解体され、捨てられてたり、ミンチにされてハンバーグなどの加工品となって最後の役目を果たします。
ちなみに、卵を産まないオスは生まれた瞬間に処分されます。

時代はケージフリーへ

このように狭いケージに閉じ込めて飼育する方法に対して、近年世界中で反対の声が上がってきました。
動物の健康や幸せを大切にする「アニマルウェルフェア(動物福祉)」という考え方が浸透するにつれ、動物の本能を無視し、狭い環境に押し込めて飼育するバタリーケージ飼育は、非人道的だとして批判されているのです。

海外では多くの国や地域でバタリーケージが禁止され、平飼いや放し飼いで育てる「ケージフリー」の飼育方法に移行しています。

国外のケージフリーの流れ

EU EU指令「産卵鶏の保護のための最低基準」により、2012年からバタリーケージを禁止した。ケージ飼育を続ける場合は一羽当たりの750㎠の最低面積、巣、砂場、止まり木が設置された「エンリッチドケージ」でなければならないとされた。
その後、エンリッチドケ−ジから平飼いへの移行も進み、2020年時点では流通する卵の52%が平飼いや放牧などケージ飼育以外の卵となっている。
さらにEU議会は2021年6月にケージ飼育廃止を決議し、欧州委員会に禁止法の策定を要請。近い将来、EUではケージ飼育がゼロになると考えられる。
米国 2012年には5.8%だったケージフリー卵の割合は、2021年3月には29.3%にまで上昇。
多くの企業のケージフリーコミットメントにより、2025年末には66%の卵がケージフリーに切り替わると推定されています。
また、州によってはより厳しい措置をとっていて、マサチューセッツ州・カリフォルニア州は2022年から、ワシントン州・オレゴン州・ネバダ州は2024年から、ミシガン州・コロラド州は2025年からケージ飼育禁止とケージ飼育の卵の売買禁止が決まっている。
タイ 2020年にタイ政府がケージフリー認証を策定し、すでに大手企業が認証を取得。この認証では平飼いであることだけではなく、エンリッチメント等5つの自由を満たすアニマルウェルフェア基準が規定されている。
韓国 2017年、農務大臣は「放し飼いの農場を拡大するためのインセンティブを提供する」としてアニマルウェルフェアを推進。2018年、農林畜産省 (MAFRA) が鶏の飼育密度を750㎠に拡大。 同年、卵流通量の12%を占める鶏卵企業Pulmuoneが2028年までにケージフリーに切り替えることを宣言。
オーストラリア 各州政府、連邦政府、業界団体などからなる委員会により鶏肉および鶏卵のアニマルウェルフェアに関するスタンダード・アンド・ガイドラインの策定作業中。
2021年の草案で「ケージ卵を2032年から2036年の間に段階的に廃止することを推奨」が盛り込まれた。決定すれば2036年までに段階的に廃止される可能性がある。
スイス ケ−ジ飼育率0%

表の内容は、HOPE for ANIMALSのWEBサイトをから引用し、一部表現を短くしています。引用元のサイトには、より詳しい情報が載っていますので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。

ケージフリーの流れに逆行する東京オリンピック

世界でケージフリー飼育への移行が進む中、いまだ採卵鶏のほとんどをバタリーケージで飼育している日本。その問題が広く知られるきっかけとなったのが、東京オリンピックです。
2018年、東京五輪で提供される鶏卵についてオリンピアンたちから「ケージフリーの卵にしてほしい」という嘆願書が提出されました。

オリンピックで使われる食材は、各大会ごとに調達基準が定められていて、直近のリオ大会やその前のロンドン大会などでは、アニマルウェルフェアの観点から厳しい調達基準が定められていました。
しかし東京大会の調達基準には、そうした観点からの配慮が欠けていると選手たちが声を上げたのです。

しかしこうした嘆願を受けても、東京五輪の調達基準にケージフリー飼育が盛り込まれることはなく、東京大会の調達基準は国際的な基準に到底及ばないものにおさまってしまいました。

過去の五輪における鶏卵の調達基準

ロンドン大会
(2012)
「屋内外を自由に出られる放牧卵以上」とされ、ケージ飼育された鶏の卵は使用禁止。
屋外には出られない平飼い卵もNGとされた。
リオ大会
(2016)
ケージフリーでなくてはならない。
放牧か平飼いの卵、さらには地鶏が産んだもので、有機の餌を与えて育てたものでなければならないとされた。
東京大会
(2021)
飼育環境に関する基準なし。地鶏という規定もなし。

バタリーケージ存続の裏に、業界団体の圧力がある?

アニマルウェルフェアにおいて、世界から取り残されている日本。しかし、国はそうした現状に危機感を感じ、課題解決に進み出そうという動きも見せています。

小泉進次郎環境大臣も2021年2月の記者会見でバタリーケージ飼育の問題に触れ、「バタリーケージ含め、アニマルウェルフェアの観点から、連携が深められればと思う」と発言。農林水産省と連携して改善に取り組む姿勢を示しました。

しかし、それに反対しているのが鶏卵業界です。
効率よく鶏卵を生産できる「バタリーケージ」を手放したくない業界団体は、国がすすめるアニマルウェルフェアに関する施策を骨抜きにしようと躍起になって働きかけています。
昨年、吉川貴盛・元農相に多額の現金を渡したことが発覚した鶏卵生産大手「アキタフーズ」元代表の秋田善祺よしき氏は、養鶏業界のまとめ役とも言われる人物。賄賂の授受があった2018年11月〜19年8月は、アニマルウェルフェアの国際基準を策定する政府間機関・OIEからの提言を受け農水省が、新たな飼育方法の基準策定を進めていた時期にあたります。事件を受けて農水省が設置した「養鶏・鶏卵行政に関する検証委員会」の報告によると、秋田氏は吉川元農相に対し「OIEの基準に農林水産省として反対する」よう何度も要望していたのだということです。

結局、2020年3月に改訂された採卵鶏の飼養管理指針(第5版)でも、バタリーケージは禁止されていません。農水省がいまだ「バタリーケージ」を容認する立場を取りつづける背景には、業界団体からの働きかけの影響があるのかもしれません。

ニワトリをケージから救い出すことができるのは誰?

日本のニワトリが健康的とは言えない劣悪な環境で搾取される裏側には、効率的に生産できるバタリーケージを維持したい鶏卵業者がいます。しかし、その先にいるのはできるだけ安い卵を求める私たち消費者です。

卵が“物価の優等生”と言われる日本。私たちは、年中いつでも、安定した価格で、生で食べても大丈夫なほど安全な卵を手に入れられる環境にいます。しかし、そうした環境がどのように作られて、そのために犠牲になっている命について、私たちはどれほど真剣に考えているでしょう。

日本のニワトリをケージから救い出す力を持つのは、私たち消費者かもしれません。

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