東京オリンピック経費の総額3兆円オーバー。夏季オリンピック史上最高額に
東京2020組織委員会が2020年12月22日に発表した「組織委員会予算V5(バージョン5)」によると、東京オリンピック・パラリンピックの開催にかかる“大会経費”の総額は1兆6,440億円なのだそう。
大会経費の支払いは公益財団である組織委員会と東京都、国の三者がそれぞれ分担するとされていて、その内訳は以下のとおりです。
(1)組織委員会が7,060億円
(2)東京都が7,170億円
(3)国が2,210億円
組織委員会はIOCからの負担金やスポンサー収入、ライセンス収入やチケットの売上などを支出に充てます。
しかし、東京都と国の負担をまかなうのは都民や国民の税金です。
ちなみに、もし中止や無観客開催となり、900億円売り上げたチケットを払い戻さねばならない事態となれば、組織委員会が赤字に陥ります。その場合、まずは東京都が補填し、それでも補えない分は国が補填します。
東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まったのは2013年の9月。招致合戦のなかで東京が訴え続けたのが「コンパクト五輪」。
オリンピック・パラリンピックはかねてから「お金がかかりすぎる」として招致に手を挙げる都市が減り続け、継続可能性が危ぶまれていました。そこで、東京は「コンパクト・低コストの都市型五輪が開催できる」とIOC(国際オリンピック委員会)に訴え、招致を勝ち取ったのです。
当時示された予算は、総額7,340億円。それが今ではじつに2倍以上に膨らみ、コンパクトどころか夏季オリンピック史上最高額の予算となってしまいました。
減り続ける五輪開催の立候補都市
入札年 | 開催年 | 開催地 | 立候補都市数 | |
---|---|---|---|---|
夏季大会 | 1997 | 2004 | アテネ (ギリシャ) |
12 |
2001 | 2008 | 北京 (中国) |
10 | |
2005 | 2012 | ロンドン (イギリス) |
9 | |
2009 | 2016 | リオデジャネイロ (ブラジル) |
7 | |
2013 | 2020 | 東京 | 5 | |
冬季大会 | 1995 | 2002 | ソルトレイクシティ (アメリカ) |
9 |
1999 | 2006 | トリノ (イタリア) |
6 | |
2003 | 2010 | バンクーバー (カナダ) |
7 | |
2007 | 2014 | ソチ (ロシア) |
7 | |
2011 | 2018 | 平昌 (韓国) |
3 |
東京オリンピックの次の夏季五輪(2024年開催)にいたっては、立候補都市はロサンゼルス(アメリカ)とパリ(フランス)の2都市だけになってしまった。(当初は他に4都市が立候補を表明していたが、いずれも国民の反対や財政難などを理由に立候補を取り下げた)
その結果、無投票で2024年のパリ開催、2028年のロサンゼルス開催が決定した。
さらに、問題なのはオリンピック・パラリンピックにかかる費用が冒頭に示した組織委員会が発表している1兆6,440億円の“大会経費”だけではおさまらないということ。
都と国が“大会経費”とは別枠の“大会関連経費(関連経費)”という名目で、巨額の支出を重ねてきました。オリンピック・パラリンピックの開催に直接関わる“大会経費”と、間接的に関わる“関連費用”を使い分けることで、表面的な経費を抑えながら、必要のない支出を繰り返してきたのです。
国の“関連経費”については会計検査院が2019年12月に「国はすでに関連経費を含めて1兆600億円を支出した」と指摘。一方、内閣官房は2021年1月に「国の“関連経費”は3,959億円だ」と発表しています。
東京都の“関連経費”に関しては、東京都みずから7,349億円と発表しています。
“大会経費”と“関連経費”の定義や境界はあいまいで、その総額ははっきりとはわかりません。しかし、会計検査院と東京都の発表をもとにすると大会経費と関連経費で総額が3兆円を超すのは間違いありません。
3兆円超…。これだけの巨額を投じて、私たちはどんな夢を見ていたのでしょう。
「コンパクト五輪」という看板は招致直後にはずされました。「復興五輪」というもう一つの看板もハリボテで、福島原発の汚染水は「アンダーコントロール」できずに海洋放出することが決まりました。「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」としての実現に執着しても、世界的感染拡大が収まらずに無観客開催では「お・も・て・な・し」も「インバウンド」もありません。
たとえ開催にこぎつけたとしても、もはやほとんどなにも得られないことは明らかです。それでも今も毎日、毎日、カネをバラマキながらリスクの雪玉を転がしつつ突き進む大会主催者。招致当初から指摘されている「熱中症」に対してすら、まともな対策を打ちだせない彼らが、新型コロナの予測不能なリスクまで背負い込んで、無事に運営できると考える人がどれくらいいるでしょう。
私たちはそろそろ夢から覚めて、現実に向き合わなければいけません。
最後に、もう一つ特筆するべきは、東京オリンピックを擁護し、問題を隠し続けてきた存在が、マスコミだということです。
日本の大手マスコミは、東京オリンピック開催に対して、ネガティブな発信をほとんどしてきませんでした。その理由は、彼ら自身が東京オリンピックに“スポンサー”として出資し、取り込まれているからです。(朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、北海道新聞といった名だたる新聞社がスポンサー参加しています)
本来、市民の側に立って権力を監視するはずのマスコミが、オリンピックという巨額の税金が投入されるイベントにおいて、主催者(権力)に近いポジションに立ってしまったことで、報道機関の役割を果たしていません。本来であれば、オリンピックに関わるあいまいな予算や不透明な支出をしっかりと調査・報道し、場合によっては開催の是非を問い直すような問題提起をするべきでしたが、そのようなことはほとんどしてきませんでした。
そういう意味では、真っ先に目を覚まさなければならないマスコミ各社かもしれません。自らの使命をもう一度自覚し、本来やるべき“報道”に今すぐ着手するべきでしょう。