日本の一日あたりの中絶件数、346件
2021年度、日本国内では12万6,174件の人工妊娠中絶が行われました。ピーク時である1955年の約117万件からは大幅に減少したものの、今も一日あたり346件のペースで人工妊娠中絶が行われています。
これまで日本では人工妊娠中絶をするには、外科的な手術を受けなければなりませんでした。
現在、世界保健機関(WHO)が中絶に関して安全な手法であると推奨しているのは「薬剤(経口中絶薬)」による中絶と、「手動真空吸引法(MVA)」の2つです。しかし、これまで日本では経口中絶薬が認められておらず、中絶のためには中絶方法は手術をするしかありませんでした。しかも主流となっているのは、WHOが「時代遅れだ」として推奨しない掻把(そうは)法という、金属の器具で子宮内を掻き出す方法です。
日本国内でも、より安全な中絶の選択肢を求める声が上がる中、ようやく厚生労働省も重い腰を上げました。日本産科婦人科学会(日産婦)と日本産婦人科医会に対し、各団体の会員に「吸引法(MVA、EVA)」を周知するよう求める文書を通達し、暗に搔爬法から吸引法に切り替えを求めました。
また、経口中絶薬についても、2023年にようやく日本でも認可されました。フランスで合法化されたのは1988年ですから、35年の遅れを取ったとはいえ、日本でも少しずつ安全な中絶方法の選択肢が増えています。
安全な中絶の選択肢が増えることも大切ですが、望まぬ妊娠を減らすための性教育や相談窓口などの支援体制を充実させることも重要です。
12万件超の人工妊娠中絶のうち7.2%にあたる9,093件は10代の中絶です。10代の妊娠の大部分は「思いがけない妊娠」で、10代で妊娠した女性は約6割が中絶を選択すると言われています。こうした10代の妊娠・中絶が多い背景に、学校で十分な性教育が行われていない現状があります。日本の中学校で性教育に費やされる授業時間の中央値は、3年間でたったの7時間。年間で2時間ちょっとしかありません。妊娠・避妊や性感染症予防、ジェンダーやセクシュアル・マイノリティー、性的同意や性暴力など、様々な内容を教えなければならない性教育を、年間2時間に凝縮して教えることは不可能でしょう。正しい性の知識を得られなかった子どもや若者が、思いがけない妊娠をして中絶を選ばざるを得ない状況に追いやられる責任は、それを教えない大人の側にあるでしょう。
人工妊娠中絶の方法をはじめとした性に関する選択肢が増え、自己決定ができるようになる権利を、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)といいます。
これまでの日本社会は、男尊女卑的な価値観が蔓延し、SRHRをはじめとした女性の人権が尊重されてきませんでした。子どもを産む、産まないという、自分の人生を左右するような決定も、女性自身が決めることができなかったり、選択肢が極端に限定されたりしていました。
これからの日本は、すべての女性がが自分の性や身体について、自己決定ができる社会に変えて行く必要があります。
過去の数字は?
年齢別でみると、20〜24歳が24.9%で最も多く、30〜34歳が19.4%と続きます。また20歳未満でも8.4%(1万3,588件)存在し、10代に限れば1日に約37人が中絶していることになります。
参考情報
母体保護関係(厚生労働省、2021年)
安全な中絶 医療保健システムのための技術及び政策の手引き(日本語版)(世界保健機関)
人工妊娠中絶等手術の安全性等について(依頼)(公益社団法人日本産婦人科協会、2021年)
いわゆる経口中絶薬「メフィーゴパック」の適正使用等について(厚生労働省)
経口妊娠中絶薬 どう使う?安全性は?費用は?(NHK、2023年)
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)(ジョイセフ)
16~18歳の妊娠・出産・人工妊娠中絶の検討―統計資料を用いた都道府県の比較―(瀧澤 透,浜中 のり子,宮澤君子、2018年)
現代性教育ジャーナル No.136(日本性教育協会、2022年7月)