日本の一日あたりの中絶件数398件。その多くはWHOが「時代遅れで安全性に劣る」と指摘する搔爬(そうは)法

2020年度、日本国内では14万5,340の人工妊娠中絶が行われました。ピーク時である1955年の約117万件からは大幅に減少しましたが、今も一日あたり398件のペースで人工妊娠中絶が行われています。
年齢別でみると、30歳以上が45%(6万8,416件)、20〜24歳が25.2%(3万6,573件)、25〜29歳が20.2%(2万9,293件)、また20歳未満でも8.4%(1万1,058件)存在し、10代に限れば1日に約30人が中絶していることになります。
特に10代の若者の中には、学校で十分な性教育を受けなかったために、望まない妊娠をし、様々な理由で人工妊娠中絶を選択せざるを得ないケースがあります。(性教育の問題についてはこちらの記事をご覧ください)
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時代遅れな日本の中絶方法
人工妊娠中絶の方法を見てみると、世界でスタンダードとなっている手法が日本では用いられておらず、日本の女性は選択肢が極端に少ない現状が見えてきます。
現在、WHO(世界保健機関)が中絶に関して安全な手法であると推奨しているのは「薬剤」による中絶と、「手動真空吸引法(MVA)」の2つです。
中絶のための薬剤(中絶薬)は、1988年にフランスで開発され、2000年頃から世界中で急速に普及するようになり、現在では世界60カ国以上で認可されていますが、日本では中絶のために用いることが未だに認められていません。
手動真空吸引法(MVA)というのは、子宮のなかに細く柔らかいチューブを差し込み、手動吸引器で内容物を吸い取る方法です。1961年からアメリカで開発が始まり、1980年代以降に世界各国で普及、現在では100ヵ国以上で使われている方法です。日本でも2015年にMVAが認可されましたが、使い捨ての器具の費用が1キット2万円程度かかります。
中絶薬が認められておらず、MVAもコスト面で高いハードルがある日本で多く行われている方法は「掻爬術(そうはじゅつ)」と呼ばれる金属棒で子宮から掻き出す手術、あるいは金属の吸引器具を子宮内に入れ電動で吸引する「電動吸引法(EVA)」という手法です。
2012年の調査によると、12週までの人工妊娠中絶手術のうち約33%は掻爬法、約47%が掻爬法と電動吸引法の併用によるものだったということです。
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WHO「掻爬法は、時代遅れの外科的中絶方法」という警告を受けた日本も、ようやく変わろうとしている?
特に日本で用いられることの多い掻爬術について、WHOは「掻爬法は、時代遅れの外科的中絶方法であり、真空吸引法または薬剤による中絶方法に切り替えるべき」とアナウンスしています。
日本国内でも、より安全な中絶の選択肢を求める人々の声が上がる中、ようやく厚生労働省も重い腰を上げました。日本産科婦人科学会(日産婦)と日本産婦人科医会に対し、各団体の会員に「吸引法(MVA、EVA)」を周知するよう求める文書を通達し、暗に搔爬法から吸引法に切り替えを求めました。
また、中絶薬についても治験が進められてきて、製薬会社は年内をめどに中絶薬として国内で初めて承認の申請をする予定です。
これまでリスクの高い搔爬術しか実質的に選択肢のなかった中絶や流産。MVA、EVAがより広く普及し、中絶薬などの新たな選択肢が広がることで、近い将来にはより安全な人工妊娠中絶・流産が可能になるかもしれません。
過去の数字は?

年齢別でみると、20〜24歳が24.9%で最も多く、30〜34歳が19.4%と続きます。また20歳未満でも8.4%(1万3,588件)存在し、10代に限れば1日に約37人が中絶していることになります。