逃れた先で絶望する、日本の難民認定制度(前編)
外国人労働者は使うけど、難民は救わない日本。
2019年4月、改正出入国管理法(入管法)の施行が始まりました。
今回の入管法改正で変わった点は、一定の技能を持つ外国人に対して、「特定技能」という新たな在留資格を与えられることになったこと。
日本はこれまで外国人の就労を厳しく制限してきました。大学教授やアーティスト、宗教家、報道関係者、医療関係者や研究者など、高度な専門性や公共性を就労の条件としてきたのです。
しかし、今回追加された「特定技能」という枠では、あらかじめ決められた特定産業分野において“相当程度の知識や経験”を持っていれば在留資格が与えられます。
特定産業とは、介護業、ビルクリーニング業、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、宿泊業、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業。
これまでとは比べ物にならないくらい、広い業種、低いハードルで、日本での就労と在留が可能になるのです。
「特定技能」での在留資格を定めた今回の入管法改正により、今後5年間でおよそ34万5,000人の受け入れが見込まれるのだそうです。
「移民政策だ」とも言われるほど門戸を広げた背景には、日本国内の生産年齢人口の減少にともなう労働力の不足、特に若い働き手が圧倒的に不足している現状があると言われています。
介護や建設、清掃業や飲食業など、若い日本人がなかなか集まらない業界から、外国人労働者受け入れを希望する声が大きいのです。
実は、こうした流れはこれまでもありました。
東京都内のコンビニでは、外国人留学生が店員として働いている光景が日常になっていますし、農業の現場や工場などの生産現場でも外国人が猛烈に働いる姿は、随分前から当たり前の光景になっています。
これまで日本で働く外国人は、先ほど紹介した(1)高度な専門性や技能を持っていて在留資格を与えられたひとのほか、(2)日本に勉強しにきた“留学生”、(3)技能を学びに来た“技能実習生”などがいました。
高度な技術や知識を必要としない職業に関しては、(2)留学生や(3)実習生という期限付きかつ様々な制限がある状態でしか雇用できなかったのです。
しかし新たに「特定技能」枠を設けることで、より長期に、幅広い業種で外国人労働者を雇うことができるようになりました。
今後、人材不足がさらに深刻化する日本で、外国人労働者の受け入れは加速していくことが予想されます。
国内の労働力不足解消のために外国人を利用しようとする一方、日本は窮地に陥っている外国人に対しては、とても冷淡な対応で排除しようとする国でもあります。
これまでも、日本国内での外国籍の人に対する差別的なコミュニケーションについては何度も報じられてきました。
外国人実習生に対する人権侵害ともいえるような対応の数々、主に在日韓国・朝鮮人の人々に対するヘイトスピーチなどは、もう何年も問題になっていながら、なかなか改善の兆しは見えません。
そうした外国人をめぐる話題として、2019年新たに話題になったのが入国管理収容施設での長期にわたる不当収容問題でした。
入管施設では、命をかけたハンガーストライキが行われている。
2019年6月、入国管理収容施設(入管施設)に収容されているナイジェリア人男性が亡くなりました。ハンガーストライキの末に、餓死したのです。
2019年に入り、入管施設内では抗議のために食事を拒否するハンガーストライキを行う収容者が急増しました。抗議のために命を落とした人も、一人ではありません。彼らはなぜ、命を削ってまで入管施設で抗議をするのでしょうか?
現在、日本全国にある入管施設では、多くの外国人が非人道的な長期収容を強いられています。入管施設とは、オーバーステイによる不法滞在など退去強制の理由がある人を収容する施設で、法務省が管轄しています。
2019年6月末時点の収容人数は1,253人。そのうち42.3%にあたる531人が、1年以上もの長期にわたって拘束されているのです。
以前から長期収容は問題になっていましたが、2016年以降は事実上の無期限収容が増加していて、こうした実態は「不当な人権侵害」として、多くの専門家や人権団体などから批判されています。
また、入管施設に収容されている人の中には、母国で迫害の対象になっているなどの理由から、難民として日本にたどり着き、難民申請中の方も多くいます。2018年時点では、収容されているおよそ1500人のうち600人ほどが難民申請中でした。
「帰国すると命の危険があるために、母国に戻りたくても戻れない」という人々が、日本の入管施設の狭い部屋に1年以上も長期収容されています。 人権を尊重し、身体的自由を保障し、奴隷的拘束を禁じる憲法を持つこの国が、難民申請中の外国人にこのような非人道的な対応をしているのです。
映像で暴行を受けている男性は、少数民族クルド人への迫害が続くトルコから2007年に来日した、難民認定申請者。男性は、2011年に日本人女性と結婚したものの、法務省・入管は在留資格を与えず、2016年に東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容され、収容期間は3年以上にも及んでいる。長引く収容や妻と一緒にいられない苦悩、入管職員による虐待などから、収容中に幾度も自殺未遂。現在、男性は入管職員に暴行を受けたとして、国を相手に損害賠償の訴訟を行っている。(引用:入管収容者制圧の映像を公開 クルド人悲鳴の様子、国賠訴訟/共同通信)
こうした入管の対応と、それを黙認する日本政府に対して、ハンガーストライキという形で収容者たちが抗議の意を示し、それが明るみに出たのが2019年でした。
必要なときには外国人を都合よく使い、不要になったら排除する。そうした日本の姿勢は、難民認定の状況にも如実に現れています。日本は難民認定者数、認定率ともに、世界的に見て異常に低いのです。
2018年、日本で難民申請したのは10,493人。しかし、認定されたのはわずか42人。認定率はわずか0.3%※でした。
他の先進国を見てみると、ドイツ23%、アメリカ35.4%、フランス19.2%、カナダ56.4%、イギリス32.5%…。諸外国に比べて日本がいかに難民を受け入れていないかは一目瞭然でしょう。
2018年 G7の難民認定数と認定率
国 | 認定者数 | 認定率 |
---|---|---|
カナダ | 16,875 | 56.4% |
フランス | 29,035 | 19.2% |
ドイツ | 56,583 | 23.0% |
英国 | 12,027 | 32.5% |
米国 | 35,198 | 35.4% |
イタリア | 6,448 | 6.8% |
日本 | 42 | 0.3% |
どうして日本はこれほどまでに難民を受け入れないのか?
いったい難民として日本にやってくるひとたちは、どんな人たちなのか?
そして難民認定されなかった人たちは、その後どうなってしまうのか?
そんな疑問が次々湧いてきて、難民についてもっと知りたくなったチャリツモメンバー。そこで今回は、日本国内で難民の支援活動を行う認定NPO法人難民支援協会の広報・野津さんにお話を伺いました。
難民支援協会(JAR)って何?
-
1999年に設立された非営利団体。
「難民が新たな土地で安心して暮らせるように支え、ともに生きられる社会を実現すること」をミッションに掲げる。
日本に来た難民の方々に、法的支援や生活支援、就労支援を提供するとともに、難民政策に対して日本政府に対して政策提言をするなど幅広い活動をしている。
WEBサイトはこちら
- 聞き手はばんゆかこです!
ここから
インタビュー!
報道よりも先に、人がやってくる
ようこそいらっしゃいました。ここは、難民支援協会のオフィスです。毎日多くの難民の方が、こちらを訪れるんですよ。
私は難民支援協会の野津と申します。よろしくお願いします。
本日はよろしくお願いします。
さっそくですが、「難民」とはどういう人たちを定義する言葉なのでしょうか?
私たちはよく「電波難民」とか「ネカフェ難民」みたいに難民っていう言葉を比喩的に使っていながら、本当の難民の人たちのことを知りません。
難民というと、多くの方はニュースで見るような海外の難民キャンプを思い浮かべると思います。
難民の基本的な定義は「迫害を理由とした命の危険から逃れるため、母国を離れざるを得なかった人々」のことを言います。
母国に居続けると、殺されてしまうかもしれない。だから、外国に逃げなければならないというわけですね。
これから日本は移民をたくさん入れるんだ、というお話をよく聞きますが、「移民」と「難民」はどう違うんですか?
国境を越えて移動し、一定期間または永続的に暮らす人を移民とすると、 難民もそのなかに含まれますが、違いを分かりやすく説明すると、「移民」の多くは経済的な理由など自らの希望や選択で国を出た人のことを指しますが、「難民」は自ら望むのではなく命の危険などから国外に出ることを強いられた方々を指します。
自分で選択してきたのか、他に選択肢がなく逃げざるを得なかったか、ですね。
現在、世界中にはどれくらいの難民がいるんですか?
2018年の推計で7,080万人です。難民の数は年々増えていて、今では2秒に1人が故郷を追われていると言われています。日本にたどり着く方は、そのごくごく一部です。
世界の難民等の数
年々難民の方の数が増えているのは、何が原因なのでしょうか?
最近だと、シリアの紛争がありますよね。
またアフリカでも、長年続いている紛争がなかなか収束のめどが立っていません。
ここ20年間、そうした長引く紛争が逃げざるを得ない人々を生み出す状況が慢性化しています。
新たな紛争も起こっていて、最近だと、アフリカのカメルーンという国。数年前から、難民支援協会にも多くのカメルーン人の方がいらしています。
カメルーンでは、フランス語話者が多数派を占め、英語話者は少数派です。そのマイノリティの英語話者の人々は、長い間迫害や弾圧を受けていました。ところが近年になって、英語話者の人々による活動が盛り上がったことで、それを迫害する動きが大きくなっているのです。
私たちも、近年カメルーンの方が多く来訪することにまず気づき、調べてみるとフランス語メディアを中心にカメルーン国内で報道が出始めていることがわかりました。
どうやら非常に深刻な状況のようで、徐々にBBCなどのメディアでも取り上げられるようになりました。日本ではほとんど報道されていませんでしたが。
メディアの報道より先に、人が逃げてくるのですね。
そうなんです。メディアよりも早くわかることは多いです。カメルーンの場合は特に顕著だったのですが、その少し前にはウクライナの方がよく来るようになったと感じた後に、ウクライナでの紛争について報じられるようになりました。
日本にいらっしゃる難民の方は、どこの国籍が多いのでしょう?
みなさん本当にいろんなところからいらっしゃいます。
難民支援協会に来る人は、日本に難民申請する人の一部なので、ここに来る人と日本政府に難民申請する人全体の国籍の内訳は異なります。
全体では、アジア諸国、例えばフィリピンやベトナム、ネパール、スリランカなどから来る人が圧倒的に多いです。ただ、そうした人は日本に既にある同郷のコミュニティを頼ることが多いのか、難民支援協会にはあまりいらっしゃいません。
一方、難民支援協会にいらっしゃる方々は、半数以上がアフリカの国からです。
続いて南アジアや中東。要するに、日本に難民としてたどり着いたものの、難民支援協会以外に頼る先が全くない人たちが大半です。
日本に難民申請をする人の出身国は、74か国にも上ります。(2018年度)
難民に至った背景は、本当に多様で様々です。皆さん命の危険から逃れるためにやってきた、ということが共通していますが、一人一人が異なるストーリーを持っています。
“たまたま”やってきた先進国、そこは難民鎖国の日本だった
前にシリア難民のニュースを見ました。何十キロも歩いて、ヨーロッパに向かうとか…。でも、日本は島国ですよね?難民の方は、どのようにして日本にたどり着くのでしょうか?
昔はボート・ピープルと言って、小舟で海を渡ってやってくる難民の人たちがいました。しかし現在は、飛行機で来る人がほとんどです。
「難民」という言葉と飛行機でやってくる、というのは少しイメージにギャップがあるかもしれませんが、今では途上国でも格安航空券が手に入るので、飛行機が利用されているんです。
難民の方は、「命の危険」がある状態なので、移動方法や避難先を自由に選ぶ余裕はありません。複数の国にビザ申請をして、たまたま最初に下りたのが日本の観光ビザだった、という理由でやってくる方が多い印象です。
国を選んでいる暇もないんですね。ほとんど何も知らず日本に来るとなると、なかなか苦労も多そうですね。
日本というと「アジアの中の先進国」というイメージがあるので、はじめは安心・安全、というイメージを持っている方が多いです。実際は難民認定がすごく厳しい国なのですが…。
日本の難民認定率は、他の先進国と比べても非常に低く、2018年のデータですと申請者が10,493人いても42人しか認定を受けることができないと言う非常に厳しい状態になっています。難民認定率は0.3%(認定数÷難民申請の処理件数で計算)です。
日本の難民認定者数の推移
年 | 申請者数 | 認定者数 | 人道的配慮による在留許可者 |
---|---|---|---|
2009 | 1,388 | 30 | 501 |
2010 | 1,202 | 39 | 363 |
2011 | 1,867 | 21 | 248 |
2012 | 2,545 | 18 | 112 |
2013 | 3,260 | 6 | 151 |
2014 | 5,000 | 11 | 110 |
2015 | 7,586 | 27 | 79 |
2016 | 10,901 | 28 | 97 |
2017 | 19,629 | 20 | 45 |
2018 | 10,493 | 42 | 40 |
日本の難民認定率は、世界的に見ても低いのでしょうか。
低いです。例えば難民を受け入れているイメージがあるドイツは認定率にすると23%。それに比べて、日本の難民認定率は0.3%ですから、桁外れに低いことがわかります。お隣の韓国でも、難民申請数が日本の半数にもかかわらず、認定は100人を超えています。
【再掲】2018年 G7+韓国の難民認定数と認定率
国 | 認定者数 | 認定率 |
---|---|---|
カナダ | 16,875 | 56.4% |
フランス | 29,035 | 19.2% |
ドイツ | 56,583 | 23.0% |
英国 | 12,027 | 32.5% |
米国 | 35,198 | 35.4% |
イタリア | 6,448 | 6.8% |
韓国 | 118 | 3.1% |
日本 | 42 | 0.3% |
日本はこれまでもずっと、難民をほとんど受け入れてこなかったのでしょうか?
日本が難民政策に取り組み始めた1970年代には、多くの難民を受け入れていたんです。
1975年にベトナム戦争が終わり、ベトナム・ラオス・カンボジアのインドシナ3国が社会主義体制に移行するときに多くの難民が生まれました。その際、日本にも多くの難民がやってきたんです。先程お話した「ボートピープル」と言われる人たちですね。
当時日本は、国外からの「経済大国の日本も難民を受け入れるべきだ」という声を受け、インドシナ難民の受け入れを決定。家族の呼び寄せなどもあわせると2005年までのおよそ30年間で1万1,000人以上のインドシナ難民を受け入れてきました。
しかし、あくまで特例的なもので、その他の国の難民はほとんど受け入れてこなかったのです。
インドシナ難民に限って、たくさん受け入れてきたのですね。
異常に低い難民認定率の背景その1
日本には難民保護を目的とした「専門機関」がない
日本の認定率がこれほど低い理由を具体的に教えてください。
おそらくその理由の一つは、日本で難民認定を担当している機関が法務省の出入国在留管理庁※であることだと思います。
※ 2019年4月に「入国管理局」から庁に昇格した。
出入国在留管理庁が何のためにあるかというと、通常は日本に入国してくるさまざまな外国籍の方を「管理する」、言い換えれば危険がないかどうか、という視点で外国人の入国を制限したり取り締まる役割をもつ機関です。難民を「助ける」ための機関ではない。
入国管理をすることはもちろん大切です。しかし、危ない人かどうかを見極めるために必要な知識・経験と、この人を国に送り返したら、どれくらい迫害のリスクがあるか見極めるために必要な知識・経験は全く異なります。難民を「保護」するという観点にたって作られた組織ではない、というのが審査の厳しさの根本にあるのではないでしょうか。
この構造を変えるためには、世論を巻き込んでいかないといけませんが、まだまだ社会の問題意識は高くなく、政治課題としての優先順位も低いままです。
なるほど。入管というと日本に入国する外国人が、日本の滞在にふさわしいかどうか判断するという大事な働きがありますよね。その前提としては「人を疑ってかかる」必要がある。
それに対して難民保護は人道的な見地から受け入れようという概念ですから、根本的に異なる論理で動く別組織である必要があるということですね。
異常に低い難民認定率の背景その2
難民認定を妨げる高い壁「個別把握論」と「立証責任」
難民認定を担う専門機関がなく、入管が行っているという点以外にも、問題はありますか?
私たちの見解では、他にも制度的な問題があると考えています。
日本は「難民条約」※に加盟しています。その条約に加盟した国は「難民を保護します」ということになっているのですが、保護の対象となる難民の基準は、各国が独自に定めているんです。
日本の場合は、非常に厳格な基準を設けています。その一つが「個別把握論」と言われる考え方です。「政府から個人的に把握され、狙われていなければ難民ではないと」いう日本独自の見解です。
この個別把握論の下では反政府のデモに参加した、というだけでは迫害の対象になっていると認める理由にはなりません。加えて、同国政府から「この人」を迫害するという指定が明確でなければならないのです。この要件を満たすのは非常に大変です。
もうひとつ、立証責任の所在が申請者に重く課せられていることが日本の難民審査の特徴といえます。
命からがら逃げているときに、自分が難民であることを証明するものを持ち出せるかというと、なかなか難しいのが現状です。
証拠を持ち出す余裕がないこともありますし、証拠を持っていることで、身元がばれて逆に危険な目にあってしまうケースもあるのです。
ほかの国だと、どのように難民認定されているんですか?
他国だと、一人ひとりの個別ケースだけでなく、申請者の出身地域の状況に即して判断されることも多いようです。難民認定機関が各地域の最新情報を詳細にもっているため「この地域にこの時期にいて、このプロフィールに当てはまる場合、迫害の対象になりうる」というように、申請者を取り巻く状況から認定することが可能となっています。
内戦が激しい地域の住人や、政権に迫害されている民族・宗教だったら、その人たちを取り巻く状況から難民認定されると。
でも、「個別把握論」を掲げる日本では“その人たちの状況”ではなく、“その人個人の危機”を具体的に自分で証明しなければならない…。想像しただけでもとてもハードルが高いですね。
難民申請の手続きもとても大変です。これを見てください。(ドン!)
この書類の山は一人の難民のために使われた、申請書類と証拠の書面です。
ものすごい量ですね…。
申請書類は多言語での提出が認められているのですが、証拠書類は日本語訳を付けなければなりません。
難民申請に慣れている人はいませんし、ましてや日本語での文書作成などできる人はほとんどいません。私たち難民支援協会では、そうした申請時の書類作成のサポートも行っているんです。
これだけの書類や証拠を用意するのは、本当に骨の折れる作業ですね。1万人もの申請者がいるということは、入管の担当者も目を通すだけでも大変ですね。
そうですね。出入国在留管理庁の人にとっても酷な作業だと思います。彼らはもともとローテーションで配属されている人たちです。これまで扱ってきた業務と全く異なる難民審査をいきなり任されるわけですから、相当な負担だと思います。専門機関がない故の、限界なのかもしれません。
難民認定されるとどうなる?
ところで、難民認定されると何ができるのでしょうか?
まず、日本に在留することが認められるので、母国へ強制送還される恐怖から解放されます。強制送還の不安と隣り合わせで生きていた人が、難民認定によってようやく安心して日本に滞在できるようになるんです。
それに加えて、健康保険に入ったり、就労の権利、また生活保護などの保証の対象になったり、いわゆる日本の公的サービスを受けることができるようになります。
永住権のようなものなんでしょうか?
永住とはまた違って、定住者という更新可能な5年間の在留資格を得られます。何度か更新すると、永住権の取得や日本国籍への帰化といった選択肢も視野に入れることができます。一度難民認定されれば、基本的に更新することが認められている在留資格です。
そうした社会的コストを抑えるために、認定を厳しくしているという面もあるのでしょうか?
現状として日本の国家予算に比べて、莫大なコストがかかっているわけではありません。
ですから難民認定が厳しいのは、コストとは別の力学が働いているのだと思います。
日本が難民条約に加入しているが故に、UNHCRが深く介入できない
このような話を聞くと、書類の準備やサポートなど、難民支援協会のような団体がいないと成り立たない制度のように思えます。
他にも難民支援の団体として有名なものに、国連機関のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)がありますよね。日本にも支部があります。そうした団体とはどのように協力しているのでしょうか?
私たちはUNHCR駐日事務所のパートナー団体として、日頃から連携して活動しています。
UNHCRの役割は、その国が難民条約に入っているかどうかで異なります。
難民条約に入っていない国であれば、政府に代わってUNHCRが難民の審査を行ったり、難民キャンプを運営したりして難民を直接支援します。ちなみに、UNHCRの審査で難民として認定された人は、「第三国定住」という枠組みで別の国へ行くチャンスがあります。第三国定住とは、すでに母国を逃れて難民となっているものの、一次避難国では十分な保護を受けられないことなどを理由に他国(第三国)へ行くことを希望する人を、受け入れに同意した第三国が迎え入れる制度です。
しかし日本の場合は難民条約に入っているので、日本政府がルールを決めて、日本の法務省出入国在留管理庁が難民の審査をしています。
そうした国ではUNHCRはオブザーバーとしてアドバイスを行う立場になります。それ以上の介入はできないんです。
UNHCRは、政府が行う難民の直接支援には関われないため、私たちのようなNGOと連携し、一緒に日本の難民保護を良くしていこうと取り組んでいます。
こうした枠組みの中で活動していると、私たちも日本政府や出入国在留管理庁に物申したいような気持になることもありますが、批判してばかりだと対話になりません。私たちとしても、提言などをしつつ、対話ができる関係性を構築することを心がけています。
難民を支援する枠組みもなかなか複雑ですね…。
いったん日本に来てしまった難民が、他の国へ行くことはできないの?
日本での難民受け入れが厳しいことはわかりました。これだけ厳しいんだったら、先程の第三国定住のように、他の国に行くことはできないんでしょうか?
基本的にはできないんです。
日本のパスポートはとても強いので、日本国籍の人はあまり意識したことはないかもしれませんが、ビザがないと入国できない国ってありますよね。
例えばアフリカの国出身の人が外国へ渡航しようとすると、どこに行くにもビザが必要になるんです。日本に来る場合も、みなさんまず観光ビザを取得して、入国します。
来日してから今度はアメリカに行きたいと思った場合、新しくアメリカのビザが必要になります。
アメリカのビザを取るには、アメリカ大使館に行って事情を説明しないといけませんが、難民申請のためにアメリカに入国するようなビザはありません。観光ビザを取得するにしても、日本にいる理由(=難民であるということ)を話せば、「日本も難民条約に加盟しているのだから、日本で難民審査してください」ということになります。
一度母国に帰って、アメリカ大使館でビザ申請をすれば、渡米できるかもしれませんが、それには資金もかかるし命のリスクもあります。
加えて、この事務所に来る人をみていると、日本に来るだけで資金を使い果たしている人も多いので、他の国に行くということは、経済的にもなかなか現実的ではありません。
これだけ難民認定が厳しいことがわかっていたら、日本には来なかったでしょうね。
実際に難民の方からも、そうした声が多いんです。
残酷なのは、日本は難民認定は厳しい一方、入国はそこまで難しくないということかもしれません。「一番早くビザが取れたから」という理由で日本に来て、来日後に日本の難民認定の現実を知り、絶望する人をたくさん見てきました。
なんだか日本に来た、というのはハズレくじのようですね。
完全にハズレくじですよ。
あとがき
次回は、日本に来た難民の方々が、どんな生活を送っているのかをお聞きします。
後編はコチラ!書き起こし:あいざわひなこ