3331で聞いてみた。アーティストインレジデンスってなーに?
秋葉原から歩いてほど近く。少し開けた場所に、地域の人や観光客集まる場所があります。
3331 Arts Chiyoda(サンサンサンイチ アーツ チヨダ:以下、3331)。
閉校になった千代田区の中学校を改修して作られたアート施設です。
ガラス張りの外観は、学校の面影を残しながら、スタイリッシュなデザインになっています。入口手前にあるカフェは、団体の観光客の方でにぎわっていました。
今回、チャリツモが3331を訪れた目的は、地域とアートをつなぐ取り組み「アーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence、通称AIR)」についてお話を聞くため。
聞くところによると、アーティストが世界を旅し、それぞれの滞在先で作品の制作・発表をする、というものだそう。
ここ3331でも「AIR 3331」というAIRプログラムを運営し、世界中のアーティストを受け入れているのだそう。
いったいぜんたい、AIRって何が面白くて、私たちの生活にどうつながっていくのでしょうか?
まずは、3331の岩垂さんに
お話しを伺ってみました♪
本日は宜しくお願いします!
AIRについて、お話を聞くのを楽しみにしてきました!
ようこそいらっしゃいました。AIRの話に入る前に、まず3331についてお話しましょうか。
3331は、閉校した千代田区の中学校を改装し、2010年にオープンしたアート施設です。
地下から3階と屋上まであって、3階はシェアオフィスやクリエイティブ企業のオフィスになっています。
現在約40の企業が入居しています。また、2階はギャラリーが主に入居していて、国内外の作家を紹介するギャラリーのほか、大学が運営するギャラリーもあります。
今階段の壁には、亡くなった作家の佐々木耕成さんの作品をオマージュしたペイントが施されているんですよ。制作風景も動画に残っているのですが、ペイント業者の職人の方々が佐々木さんの作品をトレースして作りました。
1階のコミュニティスペースは、もともと職員室だったところをリノベーションしたんです。あえて黒板をそのままにして、学校らしさを残しています。
入口にあるお店は、昼はコッペパンを売るカフェ、夜はフレンチのレストランになります。日本の学校の雰囲気が珍しくて、外国人観光客の方にも人気のスポットになっています。
また、セレクトショップもあって、若手アーティスト支援として、若手作家の作品も販売しています。
地域に開かれた施設を目指しているので、フリースペースとして自由に使っていただけるエリアも設けているんですよ。
また、地方のコミュニティを活性化させたいという想いも持っているので、東京だけでなく、日本各地のご当地フリーペーパーもおいています。
地域に根ざしたアートセンターへ
3331では地域の人を巻き込んだプロジェクトも数多く行っています。
例えば3331の1階に展示している「トイザウルス」を作った藤浩志さんは、「かえっこ」というプロジェクトを実施しています。
いらなくなったおもちゃをカエルポイントに交換して、そのポイントで新しいおもちゃに交換できる、というものです。
これがアート?と思われるかもしれませんが、プロジェクトを通して生まれたコミュニケーションや喜び、すべて含めてアートプロジェクトなんです。
そこで集まったおもちゃを使って作品を作ったものが「トイザウルス」という作品で、1階に展示されています。
他にも継続しているプロジェクトとしては、アーティストの日比野克彦さんが始めた「明後日朝顔プロジェクト」があります。これは全国各地で朝顔を育成し、種を交換することで生まれる人と人、人と地域、地域と地域の交流をテーマとした活動です。
このプロジェクトを通して、地域ごとのつながりを強くします。
地域連携は、3331として大切にしていることです。
この施設を地域に根付かせるために、町会のメンバーになって、地域のお祭りにも積極的に参加しています。
ここの町内会では、隔年で2つ大きなお祭りがあり、私たちは実際に行列に参加するほか、撮影班、記録係としてかかわっています。
ほかにも餅つき大会を主催したり、地域の人向けのワークショップを開催したりしています。
3331がオープンしたころ、はじめは「よくわからないアート集団」と、思われていた節もあると思います。しかし、施設に地域連携担当のスタッフをおき、徐々に時間をかけて関係を築いてきました。
よくわからないものに対して、人は警戒してしまいがちですが、地域の人との積極的な取り組みが、つながり作っていったのですね。
近所にこんなアート施設があったらうらやましいです。
“世界”と“地域”をアートでつなぐ「アーティスト・イン・レジデンス」とは?
それではここからは、3331が行っているアーティスト・イン・レジデンス(AIR)「AIR 3331」について、事業担当の吉倉さんとエミリーさんからお話いただきましょう!
はじめまして。吉倉です。
エミリーです。
宜しくお願いします。まず初めに、初歩的なのですが、「アーティスト・イン・レジデンス」ってなんなのでしょう?アーティストが旅をしながら、滞在制作をする…、とざっくりとしたことはわかるのですが、定義はあるのでしょうか?
オクスフォードの辞書によると、「定められた期間、アーティストが公式に大学やカレッジ、地域などに所属して働くこと」とされています。
といってもこれはあくまで辞書的な定義です。今日本には、多様なAIRが存在しています。
例えば、マイクロレジデンスという少人数のレジデンスがあります。
アーティスト1人に対して、スタッフ1人で、アーティストの要望に対して、丁寧に答えていきます。アーティストと地域がとても近いことが特徴です。
対照的に、大規模なものもあります。日本で一番大きいところは、北海道にある迎賓館をホテルに改装したレジデンスで、一度に50人ほど滞在することもあります。
辞書の定義でいうと「働くこと」とありますね。この条件が、普通の旅との違いなのでしょうか。
行政のプログラムだと、定義の通り、コミュニティとの共同作業やワークショップが必須になっていることもありますが、主催者が民間の場合はそうでないこともあります。
滞在の目的も、制作活動だけでなく、地域とのコネクションづくりの場合もあるので、普通の旅とAIRの境目は薄くなってきています。
日本の地方自治体が、AIRの取り組みをするのはなぜでしょうか。受け入れ側にはどんなメリットがあるのでしょう。
地域活性や国際交流、文化交流を目的にで取り入れているところが多いです。そういう意味で、アートができる地域貢献のかたちだと思いますよ。
AIRの起源って、実はとても古いんです。17世紀ごろから、ヨーロッパにはアーティストをサポートするAIRの原型のような仕組みがありました。
今でもAIRが最も盛んなのはヨーロッパです。最近はインドネシアのジャカルタに急激に増えていると聞いていますが、アジアにはまだまだ少ないです。
日本に渡ってきたのは80年代から90年代あたりで、はじめは行政のプログラムとして取り入れられました。3331のような民間の団体が取り組むようになったのは2000年代に入ってからです。今では50くらいの受け入れ施設があります。
一般社団法人コマンドNが運営しているAIRプラットフォームのMove Arts Japanには、現在37~40ほどの施設が掲載されています。
オランダの団体が主催している、世界中のAIR施設が集まる国際会議もあって、2019年は2月に京都で実施されました。この会議はアーティストが施設間をスムーズに移動することができるよう、AIR施設同士が連携することを目的とするものです。
日本に来るアーティストも、東京に滞在したら、次は四国、など日本全国を回ってもらえるように連携しようと動いています。
AIRがどういうものか、イメージがつかめてきました。 日本にはたくさんのAIRがあるようですが、3331のプログラムはどのようなものなのでしょう?
3331のAIRには2種類あって、メインは「オープンコール」と呼ばれるものです。年に2回ほど募集をかけていて、ジャンル不問。3331のスペースで対応できるものであれば、世界中だれでも対象になります。アーティストが参加費を払い、自主的にプロジェクトに取り掛かります。
もう一つは「招聘(しょうへい)プログラム」。オープンコールがアーティスト主体であることに比べ、こちらは3331がプログラムを作ったうえで、アーティストをお呼びします。
どちらも1か月から3か月くらい滞在する人が多いです。
3331のAIRは、2010年に3331が設立される前から、代表でアーティストの中村政人が取り組んでいた事業です。
AIRの規模としては中くらい。最大5人まで同時に滞在でき、1年間で約50人受け入れています。
3331の特徴は、地域とのつながりが強いことはもちろんですが、代表自身がアーティストだということです。そのため、加えて現代を生きる日本の作家とのコネクションを作ることもできるのが魅力です。
3331は東京の中心にあるということも、海外からのアーティストから見て魅力的に映りそうですね。
おっしゃるとおり、3331がある千代田区は、日本のアートシーンに近いだけでなく、画材などにアクセスしやすいという点でも、制作活動をしやすい場所だといわれているんですよ。
参加するアーティストの中には、日本の伝統工芸やアキバカルチャーに関心がある人もいます。
実際に滞在したアーティストの「千代田区ならでは」のものが反映された作品は、どんなものがあるんですか?
例えば、あるアーティストは、千代田区の中を歩き回って、区民のインタビュー動画を収集しました。
インタビュー中に、ある清掃員の方から怒られるということがあったのですが、翌日同じ清掃員さんにお会いした際には、きれいな絵を描いて渡してくれたそうです。プロジェクトを通して区民とつながり、隠れた才能を拾い上げていたんです。
また、カナダのアーティストが制作したのは、観葉植物を切り取った作品です。駅や道端に、観葉植物がぽつんと置いてあることがあるじゃないですか。それが珍しい、と。私たちからすると、当たり前の風景なので気づかなかった視点を取り上げて見せてくれる例ですね。
アーティストの視点にはっとさせられることも多々あります。
例えば、オーストラリアから来たアーティストは、菊の展示会に行って”暴力性”を感じたといっていました。どういうことかというと、菊という自然のものを、型にはめて思い通りに育成させるということは、自然に対する暴力だ、というんです。
なかなか日本人だとない発想ですよね。
他には、カプセルホテルに着目したり、日本にいる孤独さを作品にしたり、多様な視点があることを日々感じます。
外から来た人だから気が付くもの。その気付きが眠っていた町の魅力を切り取った作品を、一般の人に無料で公開しています。
千代田区を切り取った作品について、地元の人たちからはどんな反響がありましたか?
近隣の方からは「これもアートなんだね」といった感想をもらうことが多いです。地域を題材にしたアートから、アートには様々なかたちがあることを知ってもらうきっかけになっていると感じています。
「アート」というと、額縁に入っているもの、というイメージが強いですが、作るプロセスとか、もっと広い「表現」もアートになるのですね。
自分の住んでいる町が題材だと、アートに関心がなくても、足を運んでみるきっかけになりそうです。
時間・空間・関係性…すべてが作品なんです。
また、AIRで滞在している海外からくるアーティストが、近隣を歩いている、ということを自然に体感できることで、街の国際化にもつながります。地域の人が、海外からの人を受け入れる対応力をつけることにも役立っていると思っています。
アーティストたちも、餅つきや畑の土づくりなど地域のイベントに参加したり、滞在自体を楽しんでもらっています。
アートを通して、街の人とアーティストがコミュニケーションしているみたいですね。アートとして出力された街の姿にきっと、近隣の方もわくわくしますね。
施設としても3331も、AIR事業も順調なように見えますが、課題や今後の新たな取り組みの計画はありますか?
AIRに参加したいアーティストが増えていて、場所の確保が難しくなってきています。ニーズに応じて、私たちの運営体系も変える必要があると思っています。
今構想にあるのが、Artist in Familyというもの。レジデンスに滞在するのではなく、一般家庭に滞在して、3331で制作活動をする、というスタイルと考えています。ホームステイ型のAIRですね。
まだまだクリアしないといけない問題もたくさんありますが、実現に向けて動いています。
私自身、複数国でホームステイの経験がありますが、宿泊施設に滞在するのと全然違いますよね。家庭での経験から、新たな視点の作品が生まれてくると思うと、わくわくしますね!
自分の住む町でも、AIRがあれば面白いんだろうなあ…。
スコットランドから参加したリリーさん。浮世絵からインスピレーションを得た作品を制作
この日、ちょうど取材日に3331のギャラリーで展示をしていたAIR参加アーティスト、リリー・マクレーさんにお話を伺いました。
リリーさんの作品は浮世絵の技法や日本の名画から色彩のインスピレーションを得て、再構成したものだといいます。よく見ると、人の足のような形が見えたりするのは、日本の江戸時代の絵のエッセンスが入っているといいます。
日本には1か月滞在していました。その間、たくさんの浮世絵を見て、色彩や作品の構成などをリサーチしました。もちろん西洋の絵画とは大きく違いましたが、同時に共通点も多く見つけました。西洋の会だと影響しあっている要素も多いように感じます。
なぜ日本でAIRに参加しようと思ったのでしょうか?また、東京に滞在してみて、印象的だったことはありますか?
日本の文化には昔から関心がありました。また、ほかのアジアの国には何度か行ったことがありましたが、日本はなく未知の場所だったので、アジアで滞在制作するのであれば、日本がいいと思い、インターネットから探して応募しました。
日本の中でも東京は、たくさんの美術館があるので、多くの作品をみることができました。
あと、東京は物事が効率的で整理されていて、ここなら住めるな、と思います。
日本に滞在して制作することで、作品は変わりましたか?
大きく変わりました。
作品は同じ手法で描かれているので、大きく違っては見えないかもしれませんが、特に色合いが影響されています。
浮世絵の色は、やはり独特なのでしょうか?
そうですね、特に青の色合いが異なるように感じます。浮世絵からだけでなく、東京はとても色にあふれた場所なので、常にインスピレーションをもらっていました。
例えば街の看板とか、電子的な光だったり、ほかのアジアの国とも違ってすごく独特です。
スコットランドでは、すごく寒いところに工房があって、作業するのが大変なのですが、今回のAIRでは作品作りに集中できる環境があってすごく良かった。短い時間に集中して描いたもの、良い経験でした。
またほかのところでも、AIRに参加したいです。
チャーリーのひとこと(あとがき)
アート、美術、芸術…といわれると、ちょっと難しいそうだし、素人が何か言えないような気がしてきてしまいます。しかし、実はもっと手の届くところにアートの面白さがあるんじゃないか。3331を訪れて、そのように感じました。
何かを表現してみること。日常を違う視点で切り取ってみること。そんなところから、アートが生まれます。当たり前にすぎていく毎日や普段気にも留めていないものも、ちょっと視点を変えればアートになるのです。
AIRは、私たちの日常を、海外から来たアーティストの視点で切り取ることで、住んでいる私たちが今まで気が付かなかった、地域の新たな魅力を引き出すところに、一番の面白さがあるのかもしれません。