毎日、楽しく生きてます/ダウン症のイケメン・あべけん太さん

東京都内のIT企業に勤める、あべけん太さん。
本業のかたわら「ダウン症のイケメン」として、タレント活動もしている。
NHKの「バリバラ」を始め、数々のテレビ番組やシンポジウム、イベントで活躍している。
趣味は、ボクシング、絵画、ビールを飲むこと。
今日はそんなけん太さんと、けん太さんのお兄さんである安部俊和さんの兄弟に、お話を聞きました。

ライタープロフィール
-
-
Universal Movement
湘南在住のライター。キーワードは、障害、人権、共生社会。Instagramを中心に共生社会を目指し情報発信をしている。
「障害がある人に対するネガティブなイメージ、世の中にありすぎやしませんか。UMはそのイメージをとことん壊していきます。」が活動モットー。SF映画と、ワインと、ねこちゃんが好き。
Instagramはこちら→@universal.movement UMの記事一覧
まずはダウン症の解説から!


インタビューは
ここから!
前向きに働くのがいいですよ。前向きに働けば、ビールも美味いですから。
毎日欠かさず日記をつけるけん太さん。日記の最後は必ず「今日も一日楽しかった!」という一文で締めくくられています。
どこまでも自由でハッピーなあべさんの日々をのぞいてみましょう。

まずは、お仕事について教えてください。
クレオというIT企業で総務のお仕事をしています。もう10年くらい働いています。
どんな仕事をされているんですか?
来客受付、社内郵便の集荷と配布、コピー機の管理、会議室他の清掃などなど、色々な仕事をやっています。とても楽しいです。でも、1番苦手なのはシュレッダーのゴミ出しです。
なんで苦手なんですか?
腰がピリピリ痛くなっちゃって。だからわざと「どっこいしょ」なんて言ってみるんです。そうすると、「大丈夫?」と手伝ってくれる人がいて、そういう時は嬉しいですね。
けん太はまわりを巻き込むのが上手なんです。
それも才能ですよね。仕事で楽しい事はなんですか?
パソコンの入力が結構好きです。毎日、日報を入力します。
どんなことを書かれるんですか?
その日の仕事で良かった点とか反省点とか。
日報を打っていると、前向きに働くことっていいなぁ、と思います。前向きに働けば楽しいし、ビールも美味しく感じますから。
晩酌をされるんですね!
はい。同居している父とです。至福の時間ですね!
いいですね。毎日ですか?
いや、毎日は飲まないです。水木金は休肝日にしています。
何を飲まれるんですか?
家では500mlのビール1缶と350mlのサワー系を1缶だけ。それ以上は飲みません。
決めてらっしゃるんですね。
はい。そんなに量は飲みません。健康第一を意識しています。健康でビールが飲めることが幸せだと思っています。

ダウン症は太りやすい体質らしいんです。だから運動は意識してやっています。
毎週金曜日はボクシングに行きます。兄貴の影響でボクシングを始めました。兄貴は元プロボクサーだったんです。

けん太は毎日欠かさず筋トレ(腹筋を35回×3セットで、計105回)しています。今では腹筋が割れているんですよ。そもそも腹筋が割れている成人男性って、少ないでしょ?ましてダウン症があって腹筋が割れているなんてそれこそ少ない。

すごいですね!
手加減はしていませんということです(笑)。「ダウン症だからできない」というのはあまり言わないようにしていますね。
兄貴とボクシングすると結構疲れるんですよね。あ、言っちゃった!
言っちゃったじゃないよ(笑)。
ぼくはトレーナーとしてはかなり厳しい方なので。「もう兄貴とは行きたくない」なんて言われちゃって。
不屈の精神でやっています。あとは、ダウン症って太りやすくて。今は体を絞ろうと思って腹筋をやっているんです。
そういえば、絵画も習われているんですよね。
はい。月に2回、絵画を習っています。
綺麗な女性を描くことが好きだとか。
はい、美人を描くのが好きなんです。特に壇蜜さんが好きです。いつか一緒にお仕事をやることが夢ですね。
きっかけは何ですか。
なんだったっけな?
父の知り合いに画家の方がいて。けん太が中3の頃「絵、習ってみる?」と声をかけてくれて、軽い感じで始まりましたね。
第1、第3土曜日の朝10時からが絵のレッスンです。絵の勉強が終わって、阿佐ヶ谷のなか卯でうどんを食べながらビールを飲むことが好きなんです!

ダウン症だから遠慮する?それはないですね。兄としてガチで向き合っています。
3・31胸ぐら事件というのがありまして。
兄貴から胸ぐらを掴まれた事件です。胸ぐら掴まれたんですよ!僕はダウン症なのに!(笑)。
そうそう。日本でダウン症の弟の胸ぐらを掴んだ兄貴、どこ探してもいないと思います。
2チャンネルでたたかれちゃうよ(笑)。
いやいや!でもあれもけん太と本気で向き合っているからやったことで。僕の仲間でけん太のことを可愛がってくれている友人がいるんです。小池くんと言います。とても忙しい人なんですが、「今度けん太を飯に連れてってやるよ」と言ってくれて、随分前から約束をしていました。なのに前日に…。
もうその話やめて!
前日に「やっぱやーめた」と、けん太はその約束をキャンセルしたんです。次の日に飲み会が入って、「小池君と行かなくても次の日にカラオケも行くからいいや」と思ったから断ったと。僕にも言わないし、小池君にも前日にキャンセルの連絡をした。
僕は何も知らず当日小池君に電話をしてみたんです。「あれ聞いてない?けん太から用事が入ったからと連絡がきて、キャンセルになったよ」と言われて。
僕は自宅に帰ってから、けん太に「仕事で理由があって断るんだったらしょうがない。けれど相手が大事な時間を割いてくれているのに、自分の勝手な都合で断るのは絶対にダメだ!!」と伝えたんです。そうしたらけん太は、「分かった」と言いつつもブスッとした顔をしていました。
その後、僕が3階にいる父と話をしていたら、下でガシャンという音がして…。「あいつ、ふてくされて何か物を投げたな」と思って下の階に降りてに行ったんです。そしたらハンドクリームが転がってて…そこでです!「お前分かってねぇなぁ!」と言いながら、僕はけん太の胸ぐらを初めて掴んで、ちょっと持ち上げちゃったんです。
そしたらけん太は「…ボコボコにしないで」と。
もうしません。

その時も「まぁいいか、けん太がダウン症だから、言っても分からないし」なんて全く思わなかったですね。社会性って大事じゃないですか。そういうのって家族じゃないと本気で怒ってあげれないと思うので。
うちの家族は本気でけん太に向き合ってきたんです。
でも同時に父も母も葛藤はあったと思います。
「ここまで厳しくやっても良いものなのか」と。
僕もその気持ちが最近よくわかります。8年くらい前に母が亡くなった後、僕もけん太と一緒にいる時間が長くなって。
頑張っているんだけど、もうちょっと挑戦したほうが彼の人間力がアップするのでやらせてあげたいな…でも疲れていないかな、とギリギリの感じを見てやっています。
あべさんは、「疲れた」とか「ストレスです」というのを家族に言うんですか?
家族が色々と協力してくれているので…、ほどほどにしています(笑)。

知的障害と呼ばれるのは、なんだか嫌です。”ダウン症のイケメン”と呼ばれたいです。
お2人は“ダウン症”について、どう考えていますか?
父も母もダウン症は体質だと思えと常に言っていました。だから僕も姉も、決してダウン症に関してネガティブな気持ちはなかったですね。もし両親から「けん太には大変な障害があって」と言われていたら、僕たちも「そうか、大変な障害なんだ」と受け止めていたと思います。
けれど、全然そんな感じじゃなくて。
なるほど。そうすると、障害者という言葉についてはどう感じますか?
僕は知的障害者という言葉が嫌いです。“ステキ障害者”と言ってほしい。
それに僕自身は、ダウン症のイケメンだと思っています。
ちなみにイケメンっていうのは、「イケてるメンタル」という意味です。顔はズッコケてますので(笑)。
こんなふうに生きられたらみんな幸せに生きられるのになというメンタルを、けん太は持っていると思いますよ!

なぜ、タレント活動を始めたのでしょう?
ダウン症をもっともっと知ってもらうためです。
僕はダウン症について知ってもらうことが1番嬉しいんです。ダウン症ってこんなに頑張っているんだぞって。楽しく生きているんだぞって。ダウン症で何が悪いんだ!という気持ちでやっています。
この気持ちは本当に強いと思います。ダウン症のことを誇りに思っているので、何が悪いんだよと言える。
本人だからできる、そして本人にしかできない社会貢献の一つだと思います。
お兄さんもメディアには一緒に出られるんですか。
そうですね。お声掛けいただいた時は一緒に出ています。この掛け合いが面白いって言っていただけますね。漫才みたいで。
いいツッコミです。
ボケ(弟)とツッコミ(兄)で。
そうですね。コンビですね。3~400人の講演活動にも呼ばれますが、つっこみながらワイワイ話をしています。
ダウン症のあるお子さんのご家族も来られるんですが、ご兄弟の方々には「ダウン症について、腫れものに触るような扱いをしなくても大丈夫ですよ」ということを伝えています。
僕は親としての立ち位置は分からないけど、兄弟としては本気で向き合い、全力で付き合ってきました。気にせず胸ぐら掴んだりなんかして(笑)。
いやいや、あれは本当に怖かった(笑)。

長い時間、ありがとうございました。最後に聞かせてください。けん太さんの夢はなんですか?
今はCMに出たいなと思っています。CMに出て、ダウン症についてもっと知ってもらいたいです。
野望でかいね。いいよ!兄ちゃん仕事とってくるわ。
お願いいたします。
まかせて!

取材を終えた感想〜
あとがき
障害のある人は不幸なのだろうか?
この問いにはっきりと「不幸なんかじゃない!」と答えるのが、このあべけん太さん。
ダウン症や障害についての固定概念を崩していく姿、「ダウン症最高!」と笑顔で話す姿がとてつもなく素敵でした。
私も今度ダウン症について聞かれたら、「ダウン症って体質みたいなものでね」と説明を始めてみよう。
そんなことを思ったインタビューでした。

医療監修
川崎市立多摩病院 神経精神科阿部大樹 先生
写真:Ikuko Ishida