自分の人生は 自分で選ぼう! /株式会社ハッシャダイ 久世大亮
そのTシャツには真っ赤な文字で「CHOOSE YOUR LIFE(自分の人生は自分で選べ)」という90年代のイギリス映画を彷彿とさせるメッセージ。
久世大亮、23歳。株式会社ハッシャダイの代表取締役だ。
皆さんはご存知だろうか。日本の若者たちのおよそ6割は中卒・高卒だということを。
「大学全入時代」などと言われて久しいが、実は“大卒”の肩書を持つ若者は少数派で、多くの若者たちは非大卒だ。
非大卒者は、社会の大部分を占めるにも関わらず、世間的にはあまり認知されずにいる。就職などでも学歴フィルターによって選択肢を狭められ、自分の可能性を切り拓く機会は大卒者に比べて圧倒的に少ない。
そんな大卒者と非大卒者の「選択格差」のない社会を目指す株式会社ハッシャダイは、「よそもの・ばかもの・わかもの支援」を掲げ、2015年にスタートした。
主な事業として、中・高卒者向けのインターンシップ「ヤンキーインターン」がある。
ヤンキーインターンの対象は、地方在住の16歳から22歳までの中・高卒者。東京と地方の格差の是正もコンセプトのひとつだ。
参加者にはマーケティングや英会話などの座学、経営者や著名人の講義、実際の企業でのインターンの機会が与えられる。
さらに、インターン生には食事や住まいなど、生活インフラを無償で提供。熱意ある若者の上京とインターン参加への障壁を限りなく取り除いている。
そうした取り組みが話題を呼び、「自分を変えたい」という思いを持ってハッシャダイの門を叩く若者は増え続けている。
今回チャリツモでは、株式会社ハッシャダイ代表取締役の久世氏へのインタビューを通して、彼が中・高卒者向けのインターン事業を始めた経緯や、中・高卒者の置かれた現状、インターン事業継続のための経営哲学などを伺った。
まずはヤンキーインターンの紹介ムービーをご覧いただきたい。
ミスマッチを生み出す慣習と制度が、中・高卒の離職率を上げている
ヤンキーインターンのプロモーションビデオの中で、日本国内でも約半数の人が中・高卒者だと説明されていますね。いろいろと調べましたが、中卒・高卒の割合について明確なデータがネット上にはなかったのですが、どのような指標をもとに計算していますか。
私たちは進学率をベースに計算しています。現在、16歳〜22歳の人口はおよそ700万人います。そのうち高校卒業後、進学し大卒などの肩書を得る人数はおよそ50%。残りの半数は中卒ないし高卒ということになります。
「大学全入時代」という言葉があるので、全員入れると思っている方もいますが、「全入」というのは進学希望者を全員受け入れるだけの教室数があるというだけのことです。
大学進学組からしたら、高卒での就職ってわからないことばかりですね
高卒の新卒市場って、面白いことに民営化されてないんです。
絶対にハローワーク介さないとダメで、企業が高校に直接求人を出すことってできないんですよ。
ハローワークがまとめて、精査し、高校に求人を出すというのが、職業安定法という法律で定められているんです。
高卒OKの求人などをネットで見たりしますが
それは最初についた仕事を辞めてからの転職だったり、高校を卒業したあとの就職の場合なんです。卒業と同時に就業する「新高卒」の求人は別なんです。
なるほど。「新高卒」の求人というのはどんな特徴があるんでしょう
とにかく制約が多いです。新高卒の求人はハローワークが管轄していると先程言いましたが、ハローワークから企業の新高卒者の採用活動に対して様々な注文を付けます。
たとえば、企業側は就職希望の学生と顔を合わすことができるのは1日だけという制約。学業の妨げにならないようにとの配慮からこうした制約があり、一次面接合格者に二次面接を実施したいという場合は、一次面接と同じ日に面接をしなければなりません。
大卒の就職の場合は、会える回数は定まっていませんので、何回でも面接をすることができますよね。
直接顔を合わせるのが1日だけでは、企業も学生もお互いを理解するのは難しそうですね。
そもそも新高卒の就職活動は「1人1社制」という独特なシステムがあります。
例年9月半ばに設定される「解禁日」から一定期間、学生は1人1社しか応募できないんです。
期間は都道府県によってさまざまですが、概ね10月〜11月まで。その期間中に決まらなかった生徒は2社目以降、複数併願で就活することができます。
企業は募集人数を超えない限り、応募してきた学生を必ず雇用しないといけません。
大学生の就活と全然違いますね。なんでそんなシステムなんでしょう
“未成年”である学生たちが、無秩序な就職活動をして学業に支障をきたすことを防ぐための措置と言われています。成人してない彼らは保護する対象という観点です。
…と言うのは表向きの理由で、実際には地元の企業が確実に人材を確保できるようにするという、地元企業保護の役割もあるんです。
なるほど。学生と地元企業の両者を保護する目的なんですね。1人1社制など新高卒特有の制度はどんな弊害をもたらすのでしょう?
新高卒特有の就活システムは、“雇用のミスマッチ”という結果をもたらします。当たり前の話ですが、今の制度では企業側も学生側もお互いのことをよく知らないまま雇用関係を結ぶことになる。実際に働きはじめてから「なんか違うぞ」というギャップが生まれるのは当然です。
新卒離職にまつわる言葉で「七五三現象」という言葉があります。
これは新卒者が就職した企業を3年以内に離職する割合を示したもので、中卒だと7割、高卒だと5割、大卒だと3割という具合に、学歴が低くなるほど離職率は高くなるんです。
就職するタイミングが若ければ若いほど、ミスマッチが起きている。その原因のひとつが先程の1人1社制などの昔ながらの制度です。
中卒・高卒で離職する若者は、まともな就職活動をしたことがないわけですから、再就職先を見つけるのに苦労します。
僕の周りで多いのは、新卒で入った職場を辞めた後、フリーターになって、飲食店などのバイト先で就職するってパターンですね。
ミスマッチのために生まれたような制度ですね
昔は正しかったんですよね。それが高校生の雇用を守ることにつながっていたし、高度経済成長期はミスマッチで離職した後も、高卒者を迎え入れる職場はたくさんあった。
中・高卒者が再就職に困るのは仕事自体が減っているため?
仕事が減っているのと、企業が中・高卒者をどうやって受け入れればいいのかわからずに、門戸を閉ざしているんだと思います。
企業は大学生に慣れすぎているんですね。「大卒」というのが普通だと思われてるんです。
昔は高卒が普通で、大卒者が来たら“ラッキー”だった。今はその前提が逆転して大卒が普通で、高卒者は“劣っている”ように見えてしまう。
「大学全入時代」っていう言葉の捉え方にも問題があると思います。
4年で差がつく中・高卒者と大卒者。決定的な3つの要素
中・高卒者向けにインターンをやろうと思ったきっかけは?
僕は京都の山科の出身で、周りの友達はほぼ全員ヤンキーという環境で育ちました。
高校時代の僕は、世間で言う「ダメなやつ」。
毎日学校をサボってパチンコ三昧の日々。高校も中退するつもりでした。
そんな僕に、ある先生がこんな言葉をかけてくれたんです。
「今は目標なんて持たなくていい。でも世界を広げるほどに、見える景色が変わり、人生の選択肢が増えていくんだよ。それで初めて目標が持てるんだよ。学歴を得る過程が大事なんだ。」
その言葉に触発されて、僕は猛勉強の結果大学に入りました。
なるほど。いい先生に出会えたんですね。大学ではどんなことをされていたんですか?
大学時代は勉強はほとんどせずに、インターンでビジネスに没頭しました。
インターン先の企業で、売上成績がよかったため、販売セクションを一任されていたんです。
管理者の立場になってからは学生インターンを積極的に受け入れる体制を作り、たくさんの大学生と関わらせてもらいました。
当時東京では学生インターンが一般的でしたが、大阪ではまだ知られておらず、受け入れ企業も少なかった。だから多くの若者が応募してきたんです。
大学生たちと関わることで、感じたことはありますか
僕自身は仕事で30代や40代などの大人の方たちとも話す機会が多かったのですが、年代によって感覚が全然違うということに気づきました。
まず価値観が違いますね。
上の世代の大人の人たちは、マネーモチベーション。車や時計、家や洋服などの所有する“もの”に重きを置いているなと。
何を持っているかが大切で、それがアイデンティティとか自己肯定感につながっている。マネージメントの仕方もマネーがベースになりますね。
でも今の学生たちは“マネー”や“もの”に、そこまでこだわらない。
何を持っているかではなく、どんなつながりを持っているかや、どんな趣味を持っているかにこだわるように思います。
「SNSで何をアップできるか」とか、「一緒に写真を撮れる友達がいるか」とか、「休みの日に何処かに出かけている」とか、そうしたものが自己肯定感につながっているように感じます。
マネージメントの方法も、「経験を与えること」や「承認欲求を満たすこと」、「限られた期限内で自分がどのように成長できるかという、“未来”をイメージさせる」ということかと思います。
世代間の価値観の差を肌で感じたんですね。その後はどうなりましたか
結局その会社は2年半ほど続けました。
徐々に大阪でも学生インターンの文化が普及してきて、他の企業も学生インターンを受け入れるようになってきました。そうした背景から、自分のインターン事業の存在意義が希薄になってきたと感じ、会社を辞めて一旦地元の京都に戻ったんです。
久しぶりの地元で、何をみたのでしょう
地元の友人たちに再会したのですが、彼らはまったく変わっていませんでした。
僕は大阪の大学に入ってからの3年間、新しいことをたくさん経験させてもらえた。インターンでビジネスを経験し、行ったこともなかった大阪や東京で働きました。海外にも行ったし、パソコンもいじれるようになった。
でも地元で再開した友人たちは、高校時代いっしょに素っ裸で海を泳いだときのまま、変わっていなかった。
そこで「かわいそう」なんておこがましいことは思わなかったけど、単純になんでだろうと不思議に思ったんです。
高卒で地元に残った友人たちと、大阪の大学生たち。両者をよく知る久世さんは、その違いをどう捉えていますか?
大学1回生と、中卒・高卒で自分で働くって決めた奴らで比べた場合、同じ18歳時点では、間違いなく後者の方が優秀なんですよ。でも22歳になったときには、それが逆転している。4年後には、大学に進学した方が優秀になっていると感じました。
なぜ逆転されるのでしょうか
大学に進んだ場合に得られるものって、たくさんありますよね。その中でも3つ、決定的なものがあると思います。
1つめが“時間”。社会に出るための準備期間としての4年間がある。自分の将来像のために動ける時間があるということが高卒と決定的に違います。触れられる知識の量も格段に違いますよね。
2つめが“友人”。大学には趣味・経験・出身地などさまざまな学生が集まります。多様な価値観に触れることで、自分の視野を広げることができます。
3つめは“環境の変化”。新高卒者に比べて、大卒者は高校卒業時と大学卒業時の2回環境を変えることができます。それは単純に、人生の選択のチャンス(機会)が多いということだと思います。
その3つの要素(時間・友達・環境の変化)が中・高卒者と大卒者の差につながると
そうですね。
新高卒で就職した場合、自分の人生を考える時間も期限もなにもない。
ついこないだまで高校生だった子が60歳のおじさんに仕事を教わりながら、「俺あと40年こんなことすんのか」って思う。
そして多くが離職する。
だったら、大卒者が手にする時間・友だち・環境変化の機会を中・高卒者にも提供すれば、彼らも変われるんじゃないかと考えて始めたのが「ヤンキーインターン」なんです。
株式会社なら、社会課題解決後は事業転換すればいい。
ヤンキーインターンをNPOなどの非営利団体ではなく、株式会社の形でやろうと決めた理由はなぜですか?
僕自身の経験から、ビジネスじゃないと広がっていかないなと感じてたんです。
それと、一昔前だったらビジネスにならなかったことがIT技術の進歩によって、ビジネスにできるようになったという時代性もあります。
逆に、NPOなど非営利の団体が抱えるデメリットや問題は、どのようなものとお考えですか。
若者支援のNPOや社団法人などの非営利な活動をしている団体をたくさん見てきましたが、その中には「どこを向いて活動してるの?」と思ってしまうような団体もあります。「社会からどう見えるか」ばかり気にして、「どうやって寄付をもらうか」に囚われ、本当に解決するべき課題に向き合えていない団体が多すぎます。そうした団体は課題解決を目的にするのではなく、シンクタンクとして調査や情報提供などに徹するべきだと考えます。
それと、そもそも構造的に矛盾を抱えているように思います。
NPOの設立には設立要項が必要で、そこで団体が解決するべき問題を設定します。
非営利といえど、活動には人が必要だから雇用が生まれますよね。
雇用を継続するためには、法人は存在し続けなければならない。
でも、その問題を解決した瞬間にその団体の存在意義はなくなってしまう。
社会問題の解決という目的を見失い、組織存続のために逆に社会問題を保存する力が働いてしまう、と。その点、株式会社だとどうなるのですか
株式会社の存在意義は「利益追求」ですから、社会問題の解決を最終目標にしているわけではありません。
ですから、コミットしている問題が解決されたら、「事業転換」すればいいんですよね。
一般的に事業のライフサイクルは5〜10年と言われていますし、むしろ事業転換するのは当たり前なんです。
だから僕らは「ヤンキーインターン」がなくなる世の中がいいんだと言ってます。
そういう世の中になったら、次はもっとエゴのビジネスをやりたいですね(笑)。
最後に、今後のビジョンについて教えてください
ここ数年、成人年齢の引き下げについて、政治的な議論が続けられてきました。現在のところ、2020年を目処に成人年齢を引き下げるというのが規定路線になっています。
先程お話したとおり、いまだ高卒の新卒市場は民営化されおらず、それが高新卒の就職のミスマッチを生んでいますが、成人年齢が引き下げられた際には、この状況も大きく変わると考えています。
成人年齢引き下げにより、18歳の高校生は成人とみなされることで、現在の制度の前提となる“保護するべき未成年”ではなくなります。
新高卒の市場も開放され、民営化された結果、今の大卒の新卒市場と同程度の規模の新高卒市場ができると考えています。
ただ、今のままではその市場をわかっている企業がいない。制度が変わってもプレイヤーが育っていなかったら、結局労働力の流動は起こりません。
だからそれまでに僕たちが、新高卒の市場を作っておきたいと考えています。
僕たちがヤンキーインターンを提供しながら、スキームを蓄え、他社と連携しながらできる範囲で市場を作っていく。
そして実際に市場が開放されたときに、中卒・高卒の彼らが、現在の大卒者と同じように多様な選択肢を与えられ、その中から自分の生き方を選べる社会を作っていきたいです。
お忙しいなか、お時間いただきありがとうございました。今後の活躍に期待しています。
あとがき
中卒、高卒の若者たちが社会の中で軽視され、自身の可能性に挑戦するチャンスさえ与えられずにくすぶっている。
新高卒の就職においては1人1社制など、多くの制約やしがらみがあり、企業も学生も互いを理解できないまま雇用契約を結ばざるを得ない。
そうした古い制度や慣習は当然のごとく“ミスマッチ”を生み、高い離職率につながる。高校時代にまともな就職活動を経験していない彼らが、思い通りの仕事に転職することは難しい。
中・高卒者の離職率の高さは広く認知されていることだが、多くの人は個人の資質や忍耐のなさなどの自己責任論で片付けてしまっているように思う。そして彼らの困難の裏にある、構造的な問題点にはなかなか気づかない。
株式会社ハッシャダイの代表・久世氏は、大卒と中・高卒、東京と地方などの間にある「選択格差」をなくし、学歴の有無や住んでいる場所に依らず、誰もが自分の可能性と戦い、人生を切り拓くことができる社会を目指している。
彼らのこれからの歩みに注目していきたい。
株式会社ハッシャダイ
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