猫ブーム、その裏で。保護猫カフェで里親を待つ猫たち
先日の記事チャリツモでも記事にした岡山県のペットショップ”chouchou岡山店”。同店ではペットショップであるにもかかわらず子犬の生体販売をやめ、保健所や動物愛護センターに収容されている保護犬の譲渡事業(里親募集)に切り替える決断をしたというニュースだった。
犬を売らないペット店が岡山で人気の事情/東洋経済ONLINE
この話題はネット上でも広く拡散され、既存のペット業界の常識を打ち破るchouchouの取り組みは、多くの人に歓迎されているようだ。
今回はその話題を受け、動物の保護活動をしている団体の現状を聞くため、埼玉県上尾市にある一般社団法人アニマルエイドに伺った。
アニマルエイドでは野良猫(公園猫)や飼育放棄された猫、保健所や愛護センターに収容されている猫などを保護し、新しい里親さんを募集する「猫シェルター」の活動をしている団体。
里親募集の一環として、保護猫とふれあうことができる猫カフェも運営している。一般的な猫カフェとは違い、人に慣れていない猫や生活環境の変化に戸惑っている猫もいるため、触ったり抱いたりできない猫もいるという。
このカフェスペースにいる猫は現在20匹ほど。ほかに奥の母屋の方には50匹ほどの猫がいて、現在は全部でおよそ70匹程を収容している。
活動について知りたいと申し出ると、スタッフのTさんがいろいろとお話を聞かせてくれた。
以下Tさんにお聞きしたお話。
飼い主が保健所に持ち込んだ犬猫は、即日殺処分されている。
―今日は保護猫を取り巻く現状をお聞きしたくて来たのですが、そもそも猫を保護しなければいけないケースにはどのようなものがありますか。
今ケースとして最も多く、また私たちが一番危機を感じているのは、持ち主による犬猫の保健所への持ち込みです。
持ち主がそれまで飼っていたペットを飼育できなくなってしまうケースですね。
具体的にどういうケースかというと、飼い主が高齢になって老人ホームなどに入ることになったケース、あるいは飼い主が死去してしまったケースなどがあります。
そのような場合、飼い主の親族が保健所に持ち込むパターンがほとんどです。それが悲劇的な結果を招きます。
通常迷い犬や迷い猫などの場合、保健所は保護してから1週間程度の猶予を設けます。もしかしたらその間に飼い主が名乗り出たり、見つかるかもしれないからです。
ところが飼い主本人や親族から連絡を受けた場合は猶予はありません。
所有者からの引取依頼に関しては、即日殺処分されてしまうことになっているのです。
―それって、持ち込む側はすぐに殺処分される事を知っているんですか?
保健所の方でも持ち込みされた際、所有者に対してはそのような説明をきちんとしています。
それでも残念ながらそうした飼い主やその親族による持ち込みが保健所持ち込みで一番多いケースなんです。
私たちアニマルエイドではそうした”どうしても飼えなくなってしまった飼い主さん”からの保護要請や引き取り相談も受けています。
飼えないからといって、安易に保健所に持ち込んでしまう前に、私たちに一度連絡してもらいたいと思っています。
―いきなりすごい話ですね。私も猫を飼っていますが、同じ飼い主として信じられません。
発見されるまで1ヶ月。
閉めきったマンションの一室に置き去りにされた23匹の猫たち。
―そのほかにはどんなケースがありますか?
近年増えているのは”多頭飼育崩壊”です。これはかなり悲惨な現場が多いです。
私たちもつい先日、1月19日に一件、多頭飼育崩壊の現場に入りました。
現場はさいたま市南区の賃貸マンションです。一人暮らしをしていた高齢の男性が1ヶ月前夜逃げ同然でいなくなってしまったそうです。
部屋に複数匹の猫たちが置き去りにされているとの連絡を、リフォーム業者からもらって現場に駆けつけました。
3LDKのマンションの部屋は、入ると床一面排泄物で汚れ足の踏み場もなく、部屋中には汚臭が充満していました。汚物にまみれた座布団の上で猫がうずくまっていましたね。
部屋の各所に大きな袋入りの餌がいくつか置かれていましたが、1ヶ月の内に食べ尽くされ、どの猫もお腹をすかせていました。
1匹の猫が背中が大きくえぐれて、ピンク色の肉が見えていました。お腹を空かせた他の猫に食べられてしまったのか、ストレスのたまった猫たちのはけ口にされてしまったのか、わかりません。
この猫はすぐに病院に連れて行き縫合手術をおこないましたが傷が大きすぎて両側の皮膚がとどかず、大変でした。
幸いこの子は退院後すぐに里親さんが決まって、引き取られていきました。
今度こそ、温かい家庭で幸せになって欲しいです。
―置き去りにされた猫たちはすべて生き延びていたのですか?
残念ながら1匹は死んでいました。
私たちが保護した猫が15匹。他の団体がひきとったのが7匹。計22匹が現場から救出されました。
キッチンの水道のレバーが上がっていて水が流れていたので、猫たちも辛うじて生き延びていましたが、それも飼い主が水道のレバーを上げていったのか、それとも猫がレバーを上げたのかはわかりません。
ただ、餌を大量に置いていったことから、飼い主も猫たちが死ぬ事は望んでいなかったでしょう。
現場の猫たちはどれも去勢・避妊手術を受けていませんでした。おそらく最初は2匹くらいだったと思います。
それがどんどん、どんどん数を増やして、結局は自分ではどうしようもなくなる。世話しきれなくなって放り出して逃げてしまった。そんなところだと思います。
去勢・避妊をしない間違った飼い方をしているうちに数が増え過ぎて手に負えなくなる。そうして飼い主が逃げてしまったり、あるいはケガで入院したり、施設に入ったりして世話が出来なくなってしまう。
こうしたケースが「多頭飼育崩壊」と言われ、今非常に問題になっているケースなんです。
あと、今回の場合よりさらにひどいのは、ブリーダーの多頭飼育崩壊のケース。
たくさんの犬猫を置き去りにしてブリーダーが逃げてしまうんです。
ブリーダーの場合、犬や猫が本当に小さな、身動きも取れないような大きさのケージの中で飼われています。
崩壊後、私たちが発見するころにはそのケージの中で皆死んでしまっていたということも実際にあるんです。
殺処分数減少の支えになっているのは、行政でなく、民間で活動している団体
−犬や猫の殺処分数は年々下がっていると聞いています。そうした改善の支えになっているのはなんなのでしょう。
確かに、日本の犬猫の殺処分数は年々下がっています。
神奈川県や熊本県では殺処分ゼロを達成できたと聞いています。
私たちが活動している埼玉県も殺処分ゼロを目指して活動しています。
でも、実際に殺処分を減少させている要因は私たちのような犬猫の保護活動をしている民間団体や個人のボランティアの力です。
私たちのような団体が、保健所や愛護センターから犬や猫を引き出し、シェルターに収容して里親を募集しています。
行政が犬猫の保護から里親探しまでをしているというケースはほとんどありません。私たちのような団体・ボランティアに丸投げしているのが現状です。
事実私たちは行政からの補助金や助成金などのお金は一切頂いていません。応援していただける皆さんからの寄付や、里親さんからの実費負担金、足りない分は理事の持ち出しなどでなんとかやっているのです。行政からはワクチン代も払われていないんです。
―埼玉県内にはこうした活動をされている団体は他にもたくさんあるのでしょうか?
団体の規模の大小は様々ですが、たくさんあるはずです。
団体の他にも、個人のボランティアさんが自宅で猫を保護し、里親探しをしているケースもあります。
規模の小さな団体や個人ボランティアの場合はインターネットの検索結果などにも表示されなかったり、そもそもwebサイトを持っていなかったりして里親探しに苦労しているケースも多いのではないでしょうか。そうした小規模で活動している方々は、動物病院で里親募集の張り紙を掲示していたりする場合が多いです。
うちの団体でも個人で猫を保護している方から依頼されて猫を預かることがあります。うちの団体の場合、ブログを閲覧してくれる方や、猫カフェにいらしてくれる方が比較的多いので、うちで預かった途端、すぐに里親さんが見つかるというケースもありました。やはりひと目に触れること、出会いの機会をより多くつくることが里親探しでは大切なんです。
そのため各地で小規模な保護活動をしている方たちが定期的に集まって里親募集をしたりするイベントがあってもよいかと思いますが、今のところ埼玉県ではそうした動きはありません。
―里親になるためにはどうすればいいのでしょうか
まずは猫シェルターに足を運んでください。
私たちの団体では猫カフェという形で猫たちとケージの外でふれあうことができます。
猫を飼いたいと思っていても、実際に触れてみないとわからない事がたくさんあります。
猫はそれぞれ個性を持っていますから、べったりなついてくれる子もいれば、ちょっと臆病な子もいます。
飼い始めてから「思っていたのと違う!」では済まされません。まずは飼う前にちゃんとその猫を知る必要があります。
またうちのカフェにいらしたお客さまで、自分でも知らなかった猫アレルギーが発覚したという事もあります。
そうした飼う前に知っておくべきこともありますね。
また、実際に猫を引き取りたいとなった場合は里親さんにはそれまでその子にかかった費用をお支払い頂いています。
ワクチンを打ったり、駆虫をしたり、去勢・避妊手術をしたり、その猫にかかった費用は予めアニマルエイドが負担していますが、その実費分を負担していただくというわけです。
またこの費用をいただくということには、ちゃんとした里親さんに猫を引き渡すという意味もあります。
誰でも無料で引き取れるようにしてしまうと、虐待目的で猫を引き取ったり、実験用動物として売却するために引き取ったりという悪意を持った人が利用することが考えられます。
そうした被害を防ぐためにも、ある程度の金額を里親さんに負担していただいているという事を理解していただいています。
―最後に犬や猫などペットをめぐる現状についてどうお考えですか?
まず、日本は生体販売をしているペットショップがこれだけたくさんあることを恥じるべきだと思います。
欧米の多くの国では、ペットショップでの生体販売は日本より圧倒的に少ないです。
ドイツなどの先進国ではペットショップが存在せず、私たちのようなシェルターから譲り受けるかブリーダーから譲り受けるのが当たり前です。
日本は動物愛護に関しては、本当に後進国だと思います。
またブリーダーに関しても規制はありません。お金儲けのために子供を産ませ、殖やし続け、使い捨てるという悪徳ブリーダーもいます。
やはり一年に何頭までしか産ませてはいけない等の規制をするべきでしょう。
そしてなんといっても私たち消費者が、ペットに対する考え方を改めるべきなのではと思っています。
今回アニマルエイドで聞いた話はどれも胸が痛むような話ばかりだった。
ペット業界の話は、闇の深さが半端じゃない。強烈な話を聞いていて、人間のエゴイズムの強大さへの怖さと、罪悪感を感じた。
スタッフのTさんは「今世の中で猫ブームでしょう。ブームで飼いはじめた人も、ブームが終わればもういらなくなってしまうかも。だから、2〜3年後、行き場を失くした猫が増えてしまうんじゃないかって心配しているんです。」と言っていた。
ペットを捨てるのが人間であれば、こうして捨てられたペットを助けているのも人間なのだと思うと、少し希望が持てるような気がする。
<今回訪れたところ>
一般社団法人アニマルエイド
WEBサイト:http://kanaboo.wix.com/aniei
ブログ:http://ameblo.jp/animalaid-jimunikki/