あなたは今日、何人のひととおしゃべりしましたか?
電車、学校、会社、スーパーマーケット...日々さまざまな場所で、たくさんの人とすれ違っているけれど、ほとんどの人とは言葉を交わすことなく日々を過ごしていませんか?
「たまたまおなじ時代を生き、おなじ社会に住む人たちの話を、もっともっと聞いてみたい」と思ったチャリツモライターのひもっち。この連載では、自称“ひも”の彼がこれまで培ってきた“人たらし”の力をフル活用し、街行く人のホンネを探ります。
今日のお話し相手
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生活保護ケースワーカーの
泉谷隆さん(仮名)
第1回は、都内で生活保護のケースワーカーとして働く社会人1年目の男性、泉谷隆さん(仮名)が、匿名を条件にインタビューに答えてくれました。
それじゃあ
いってみよう!
なぜ公務員に?
生活保護のケースワーカーとは?
頼れるものが生活保護しかなく、駆け込んできた人がほとんどです。生活保護に関し、賛否両論ありますが、この制度がなかったら街は死人で溢れていると思います。
その時は、初めてのことばかりで頭がパンクして倒れそうになりました。
生活保護の不正受給問題
2017年に小田原市の職員が『生活保護なめるな』と書かれた服を来て、受給者の家を訪問していた事件※1がありましたが、同じケースワーカーとしてあの事件をどう思いますか?
あくまで私の推測ですが、当初は彼らも熱い気持ちを持って受給者に向き合っていたんだと思います。でもその気持ちが報われなくて、逆の方向に気持ちが動いてしまったのかなと思います。
様々な事情を持った人に対し、全員同じ対応をとると失敗する。1人1人にあった対応を取らなければならないと同時に、受給者とケースワーカーは対等であり、私たちが上から引っ張り上げるのではなく、手と手を取り合ってゴールに向かう感覚を忘れてはならないと思います。
生活保護者を1箇所に集めて管理すべきだと言う人もいます。例えば「NHKから国民を守る党」※2は昨年の8月頃まで、HP上にもう1つの公約として“現物支給と公共施設への入所”を掲げていました。これらはどのように思いますか?
確かに、生活保護者は国からお金を貰って生活しています。だからと言って自分の人権を売り渡しているわけではありません。国が認めた権利を行使しているだけです。
一箇所に集めるということは、そこに出入りするのは生活保護者しかいないため、余計偏見を増やし、受給者が今まで以上に後ろ指を指されながら生きていくことになります。そんな社会から分断された状況では、生活保護制度の趣旨である自立更生も実現しません。
“自立更生” とは?
1つ目は、定職に就き自立するパターン。
2つ目は、定職に就くことはできないけど、金銭面以外、自分の力で生活をする精神的自立パターンです。年齢的に働くことのできない高齢者は、後者に当てはまります。
多様性を知って人に優しくなれた
だからこそ、自分の視点だけでなく相手の立場になって考えて欲しいと思います。
自閉症スペクトラム障害の人は声を出すことで自分を落ち着かせている、ということを知ってからは、大声で独り言を呟いている人を見ても以前のような感情は湧きません。
何も知らずに、イラッとしたり冷たい視線を送っていた自分を、恥ずかしく思います。
少し知っているだけで、心の持ちようも変わりますよね。
これが、ケースワーカーになって1番良かったと思えることです。
だからこそ、他の人にも知ることをやめないで欲しいし、多様な情報や人々に触れて欲しいと思います。
あとがき
泉谷さんとの出会いは、偶然行った合コンでした。「ナヨナヨしていて、この人絶対にモテないだろうな」と思っていたら、案の定みんなの輪に加われず1人で黙々と枝豆を食べていました。
そんな彼になぜか興味が湧き、女の子そっちのけで話しかけてみると、やっぱりナヨナヨしてる人でしたが、自身の仕事に関しては自信満々で語ってくれました。
彼の人間性に興味が湧き、連絡先を交換し後日会うことになったのが、このインタビューのきっかけです。
社会へ対し無関心という、いかにも今時の若者感を醸し出していたインタビュー前半。それとは打って変わって、生活保護を切り口に社会問題について話す泉谷さんは、まるで別人のようでした。
いくら社会へ無関心を装っていても、そこの中で生きている以上どんな人でも何かしらの意見を持っていることがわかり、次回以降のインタビューがとても楽しみになりました。
泉谷さんが最後に言っていた「様々な境遇の人と出会い、多様なものを知ることで、今まで以上にたくさんの人や物事に優しくなれました」この言葉に、自己責任論や他者への不寛容が蔓延する現代社会を立て直すヒントが隠れていると私は感じました。