【性犯罪厳罰化】110年ぶり刑法改正のポイントと、残る課題。
刑法改正のポイント4性犯罪の非親告罪化
最後の重要な改正点が非親告罪化です。
これまでの強姦罪や強制わいせつ罪は被害者からの告訴がなければ検察官が起訴できないという親告罪規定がありました。起訴するかしないかの判断を迫られる被害者に大きなプレッシャーがかかっていたんです。
今回その親告罪規定を撤廃することで、被害者の告訴がなくとも検察官が起訴できることになります。
被害者が告訴をするというのは、とても勇気のいることです。
多くの被害者はセカンドレイプを恐れて、警察への届出すらしていないのが現状です。
(2014年に実施された内閣府男女共同参画局実施の調査によると、異性に無理矢理性交渉をされた人のうち、「警察に連絡・相談した」人は4.3%にとどまる:性犯罪被害者の置かれている状況/警察庁)
日本の刑事司法を批判的にとらえるならば、親告罪規定があるということは司法としては「私たちは裁判になってもあなたたちをしっかり守れませんから、それが嫌なら告訴しないでください。」というメッセージとも受け取られてしまうのではないでしょうか。
今回の改正で、その親告罪規定がなくなり非親告罪になったというのは「あなたが望むと望まないとに関わらず、きちんと被告人を起訴して裁かなければなりません。」というメッセージですね。
その上で「あなたには証人として協力してもらわないといけないかもしれないけれど、私たちは(その負担が軽くなるように)全力であなたをサポートします」というメッセージも当然含まれていなければなりません。
しかし現状、被害者をサポートする対策がきちんと整備されているかというと、まだまだ不十分です。
今後は証人となる被害者にどういう支援を用意するべきかを議論する必要があるでしょう。
具体的にはどのような支援が必要となるのでしょう
一例をあげると、強姦致傷罪などで裁判員裁判になった場合、被害者は裁判官のみならず、市民(裁判員)の前でも事件について話さなければなりません。もちろん被害者の精神的負担は大きくなります。
頑張って出廷して証言したり、あるいは被害者参加の形で意見を陳述したのに、そのことで傷ついても十分なサポートは用意されていません。
背景には変な自己責任論があるように思います。
「被害者参加制度はご自分が望んで利用したのですよね?それによって傷ついてもそれは自己責任ですから、何らかのサポートを自分で探して受けてください」というような空気です。
もちろん、私は非親告罪化という方向性自体は望ましいと思います。
これをきっかけに、もっと被害者の人を守る刑事司法にするべきだという議論が起こることを望みます。
裁判の中でも被害者を侮辱するような攻撃を受けると聞きますが、裁判の進め方についてはどうお考えですか
性犯罪の裁判の場合、特に合意があったかなかったかを争うような場合、被害者は被告人の弁護士から反対尋問において攻撃されることがあります。
事件とは関係ない被害者の性的な体験や、男性関係が派手だったなどプライベートなことまで持ち出されることもあります。
そうした事件とは無関係な事実を引き合いに、「同意があったと思われてもしょうがないんじゃないですか」と精神的に追い詰めるような例もあります。もちろんそこまで露骨な言い方はしませんが。
アメリカなど海外では被害者の性的な経験や遍歴などの事件と直接関係のないことを裁判に持ち込ませないための『レイプシールド法』という証拠法があります。日本にはそれがないので、場合によっては人格まで非難されているのではないかと被害者が考えることも少なくないのが現状です。
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<改正点のまとめ>
- 強制性交等罪(旧・強姦罪)、強制わいせつ罪などで親告罪規定が撤廃。被害者が告訴をするしないに関わらず、検察が起訴できるように。
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<課題>
- 海外のレイプシールド法のように、被害者を保護するための証拠法がなく、証人や参考人となる被害者へのサポート体制が手薄である。