【性犯罪厳罰化】110年ぶり刑法改正のポイントと、残る課題。
先の国会で、刑法の性犯罪に関する規定が大幅に改正され、7月13日に改正刑法として施行された。
これまで強姦罪や強制わいせつなど刑法の中の性犯罪に関する規定は、明治時代に刑法が制定されて以来、抜本的な改正はされてこなかった。
今回110年ぶりに改正されることとなった性犯罪規定だが、一体どんな変更点があるのだろう。そして改正後にはどんな課題が残り、また新たに生まれるのか。
白鴎大学法学部教授で刑事法を専門とする平山 真理教授に話を伺った。
平山 真理教授 プロフィール
関西学院大学大学院(法学修士)。フルブライト奨学金を得て、ミネソタ大学ロースクール修了(LL.M.)、UC Berkeley Law School「法と社会研究センター」客員研究員など。2005年4月白鴎大学法学部就任。2016年4月より現職。主な著書に『刑事訴訟法教室』(法律文化社 2013)、『刑事政策がわかる』(法律文化社 2014)等。性犯罪事件を裁判員裁判で審理する際の課題について研究している。コーヒーと映画が好き。
刑法改正のポイント1強姦罪が強制性交等罪に。
これまで「強姦罪」と呼ばれていたものが「強制性交等罪」と改名されました。
「強姦罪」では被害者は女性に限定されていましたが、「強制性交等罪」では男性も含まれるようになります。
私は白鴎大学に勤めて13年目ですが、赴任当初は1年生向けの講義で「男性も性犯罪の被害にあうことがあります」という話をすると笑いが起きることがありました。
特に男子学生がきまり悪そうで、なんとかそれをジョークにしないといけない、そんな風潮があったのかもしれませんね。
でも最近はその話をしても普通に受け入れられるようになりました。
男の人も当然ながら性の被害にあうし、それが深刻な問題であるという社会的な認識が広まったのかなと思います。
また、これまで強姦罪の対象となる「性交」の範囲を、男性器を女性の膣内に挿入する行為として狭く捉えていました。しかし今後は男性が被害者に含まれるということでいわゆる肛門性交や口腔性交も「性交等」ということで対象に含まれることになります。
しかし、「強制性交等罪」の問題点としては、「性交」という名前を残してしまったことで、従来どおり性交(=性器の挿入)に重きを置く反面、いわゆる異物の挿入や、手指の挿入など性器以外の挿入行為は、強制性交等罪の対象には入らないということです。
性器以外の挿入行為はどのように処罰されるのですか
異物や手指などの性器以外のものの挿入だと、強制性交等罪(旧・強姦罪)が適用されずに、一段軽い罪である強制わいせつ罪にしかなりません。
「性交」にこだわリつづけ、挿入されたものの種類によって量刑が大きく変わることに問題はないかどうか、今後議論の余地があります。(強制性交等罪の場合は懲役5年以上、強制わいせつは懲役6ヶ月以上と量刑に大きく差がある)
なぜ「性交」が重視されるのでしょう。
やはり刑法が出来た110年前の価値観を反映しているのでしょう。
女性は男性の“持ちもの”で、自分の子どもを妊娠するはずの女性が、他の男に妊娠する可能性のある行為をされたということは、その男性や家の血統や名誉を汚されたということで、相手の男を処罰するという考え方ではないでしょうか。
ですから性器の挿入(性交)の有無で分ける刑法は非常に男権的であったし、そこは今回の改正でも残ってしまっています。
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<改正点のまとめ>
- ・「強姦罪」が「強制性交等罪」に名称変更
- ・被害者に男性も含むことに
- ・「性交等」に膣性交のみならず肛門性交・口腔性交も含むことに
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<課題>
- 「性交等」の中には性器以外の異物や手指の挿入などは含まれておらず、性器以外の挿入行為は「強制性交等罪」の対象にはならない