戸籍を持たない「無戸籍者」。日本国内に1万人以上?!

日本では赤ちゃんが生まれたら役所へ出生届を提出し「戸籍」が作られます。
しかし、なんらかの事情でこの出生届が提出されず、戸籍のないまま生きている、「無戸籍」の人たちがいます。
無戸籍になってしまう理由はさまざまですが、その一つが民法772条の存在です。
この条文では、「離婚後300日以内に生まれた子どもは、前の夫との子と推定する」と書かれています。
この条文は明治時代に作られた民法をそのまま引き継いだものですが、その条文の目的は、離婚後に生まれた子どもの親子関係を早く確定させ養育環境を整えるなどして「子の利益」を守るためのものです。
しかし、DNA鑑定なども可能となった現代において、この民法772条は、本来の目的とは逆の働きをしてしまっているといわれています。
DV(家庭内暴力)などの理由で離婚した場合、前の夫に現在の場所を知られたくない、といった事情がある場合、出生届を出さないケースがあったり、新しいパートナーとの間の子どもにも関わらず、元夫の子どもだと推定されてしまうことを恐れて出生を届けられないケースが後をたたないのです。
多くの人にとっては戸籍がないことでどんな不利益を被るのか、想像することは難しいかもしれません。が、影響は数知れません。
学校に通えない、健康保険証がなく病院にかかれない、身分証明書を作れず就職できない、住民票がないので入居審査に通らず住居を借りられない、選挙権もない、結婚できない…などたくさんの不利益を被るのです。
是枝裕和監督の2004年の映画「誰も知らない」は無戸籍の子どもたちを描いた作品です。
母子家庭の母親が、ある日突然帰らなくなり、残された兄弟たちは子どもだけでの生活を余儀なくされます。4人の子どもたちはみな無戸籍。学校にも通えず役所も児童相談所も子どもたちの存在さえ把握できておらず、介入できません。社会からの支援の手が差し伸べられることはなく、子どもたちの生活は崩壊していく、というストーリーでした。
この映画は「巣鴨子供置き去り事件」という1988年に実際に起きた事件を題材にしたものです。
法務省は2014年7月から無戸籍者に関する調査を開始。2018年10月の段階で1994人の無戸籍者を把握することができました。うち半数以上が新たに戸籍を取得することができました。
2019年6月時点で法務省が把握している無戸籍者は830人となっています。
しかし、現在行政が把握できている無戸籍者は全体のほんの一握り。
実際は、“すくなくとも” 国内に1万人以上の無戸籍者がいるとも言われています。
この問題に取り組んでいる団体
自治体への相談窓口を紹介しています。
弁護士会の相談窓口一覧を紹介しています。
元衆議院議員、ジャーナリストの井戸まさえ氏が代表を務める非営利団体。井戸氏自らの経験として、離婚後300日未満に生まれた息子が無戸籍となったことから、問題の解決に尽力している。