障害者・高齢者とマスターベーション/TENGAヘルスケア×社会【後編】
TENGAヘルスケアにおジャマして、同社取締役・佐藤さんと広報・西野さんへのインタビュー。
前回はTENGAが取り組む「男の妊活」サポート事業について伺いました。
その中で出てきたのは、男性由来の不妊の背景にある、「腟内射精障害」。
不適切なマスターベーションを続けることで、強い刺激に慣れすぎて、セックスで射精できなくなってしまうというこの障害は、日本国内で270万人もの推定患者がいるのだそう。
そして、話は「性教育」に。マスターベーションを覚える時期が早く、早熟な日本にも関わらず、正しいマスターベーションの方法や、危険なマスターベーションを続けてしまったときのリスクなどをきちんと教育していない日本の実情について語っていただきました。
後編の今回は、TENGAヘルスケアが取り組むもう一つの領域、「障害者・高齢者の性」についてお聞きします。
前回の記事はこちら→『TENGA×社会【前編】成人男性の20人に1人が『腟内射精障害』。誰も教えてくれない、正しいマスターベーションの方法。』
プロフィール
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佐藤 雅信
1982年生まれ。2005年当時誕生直後のTENGAに入社。製品開発や海外事業に携わった後、極度の性欲減退に悩み自分を見失う。自らの人生を振り返ると性の悩みに満ちていたことに気づき、同じように性の悩みや問題を抱え、性を楽しめなくなってしまっている人のサポートをしたいと考えTENGAヘルスケアを設立。
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西野 芙美
1989年生まれ。学生時代から性をタブー視する風潮に疑問を抱き、大学卒業後に人材紹介会社、出版社での勤務を経て2017年TENGAに入社。男性向けブランド「TENGA」、女性向けブランド「iroha」のほか、TENGAヘルスケアの広報を兼任。
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ライターふな
チャリツモライター。はじめてのマスターベーションは小5くらい!
障害者の性について
タブーにすらならなかった「障害者の性」
ふな:今回はTENGAヘルスケアが取り組む、もう一つ大切な事業である「障害者」向けのサービスに関して伺いたいと思います。
早速目の前にTENGAヘルスケアが開発した障害がある方向けのプロダクトをご用意いただきました。
これは、どのように使うのでしょう。
佐藤:手に障害がある方でも、簡単にTENGAを使っていただけるように開発したもので、私たちは「カフ」と呼んでます。身体障がい者の性をサポートするNPO法人ノアールさんと、作業療法士の方のご協力のもと作りました。
西野:TENGAを握ることができない方でも、このように手を差し込んでいただいて上下に動かすだけで、TENGAを使っていただけるという、補助器具です。
ふな:なるほど。そういうニーズもあるんですね。
西野:実はこの商品も、トレーニングカップと同じく、当事者の方からのご要望をいただいて作ったんです。手に障害があって、握れなくても使えるTENGAを開発してほしい、と。
TENGAヘルスケアが会社化する以前から、TENGAにはそうした医療や福祉の当事者からの声が届いていたんです。
そうした様々なニーズを踏まえて、医療・福祉・教育に特化した「TENGAヘルスケア」を作ろうという流れになりました。
ふな:ということは、TENGAヘルスケア自体がお客様の声から生まれた会社ということですね。
前回のインタビューで、性の話がタブーになっているとおっしゃっていましたが、「障害者の性」に関しては、特にタブー意識が強いと思います。障害者の性に関しては、どのようにお考えですか?
佐藤:障害者の性について、2004年に「セックスボランティア」という本が出たころに、一時的に盛り上がりましたよね。ですが、それも一過性のものでした。
タブーというよりはタブーにすらならなかった。社会に認知されなかったんです。
その後今に至るまで、障害者の性にまつわる問題解決は、あまり前進があるとはいえないのではないでしょうか。
ふな:それは何故でしょう。当事者や介助者があえて見えないようにしているのか、当事者以外の社会が見ないようにしているのか。
佐藤:社会、というか当事者とその周囲以外の人にとって障害者について思いをはせるきっかけがないですよね。身近に考える機会がない。
また、発信しようとしている当事者もいるものの、それを取り巻く人たち、介助者や家族などがバリアをかけてしまっている可能性もありますよ。
ふな:実態はわかりませんが、母親が息子の性介助をしているケースもある、などと聞いたことがあります。
佐藤:そういう話はよく聞きますよ。「素手でやるよりもTENGAを使う方がよい」という声もあるんです。でも、自分がそんな介助をやっているなんて、介助者同士でもなかなか言えません。
障害者の介助者の方は、介助について勉強する際にそうしたことは教えられていません。知らないまま現場に来るから対処する術がないんです。
性介助に関する知識共有がされていない現状は、少しづつ変えていきたいと思っています。
ふな:介助者が知識をシェアしたり、相談し合ったりできる仕組みや場作りは必要ですね。
ちなみに、高齢者に向けては何か取り組みをされていますか?
西野:はい。高齢者の方向けの取り組みも始めています。
株式会社いきいきらいふというデイサービスを展開する企業さんと提携して、高齢者の方向けにTENGAを広める試みを始めています。
彼らの施設の売店や、ECサイトでTENGAを扱ってもらったり、彼らと提携する介護施設でも取り扱っていただいています。
ふな:高齢者の方の性についても、障害者の方と同じようにタブー視されているように感じますが、やはり高齢になっても性欲が衰えない人は少なからずいるのですよね。
西野:まだまだ元気な高齢者の方はたくさんいらっしゃいますよね。でも世間では「高齢者」という枠に当てはめて高齢者らしい振る舞いを求められ、彼らの性欲は「はしたない」とか「高齢者らしくない」とか言われ、見て見ぬふりされてしまいます。
でも、高齢者にとっても「性」はとても大事なものです。性の満足を得られないと生活の質の低下につながってしまうんです。
ふな:介護施設のスタッフがセクハラ被害にあうこともかなり多いと聞いています。
佐藤:「日本介護クラフトユニオン」 という介護職員の労働組合のアンケート調査によると、回答者1,054人のうちのおよそ3割が「セクハラを受けた」と回答しました。
高齢者が増え続ける時代ですから、介護スタッフへの高齢者によるセクハラの問題は、これからも増えていくと思います。
性欲が解消できないこととセクハラに直接の因果関係があるのかはわかりませんし、ましてやTENGAを使うことでその抑止になるかは不明です。
ですが、社会全体として取り組むべき問題であるのは間違いありません。
ふな:高齢者の方がマスターベーションをすることで、なにかわかりやすいメリットが提示できればいいですね。例えばマスターベーションを続けることで認知症予防になるとか。
佐藤:そういったマスターベーションの有効性を示せるデータは出して行きたいですね。
私たちにとって、マスターベーションとは
ふな:さて、ここまで前・後編にわたってTENGAヘルスケアが手がける各領域(医療・教育・福祉)のお話をお聞かせいただきました。
そこで見えて来たのは、「性を語ることの難しさ」だなと思います。
妊活で悩んでいる人も、教育を受けているまたは教育に携わっている人も、障害者や高齢者も、みんな語れずにモヤモヤしたものが溜まっている。
特にマスターベーションというのは、だれもが(?)やっていることなのに、全然語られることがない。中学生男子なんかは食事・風呂と同じく、毎日欠かさずやる行為なわけなのに、その重要性は認知されていないし、正しい作法が議論されることもありませんでした。
10年前、TENGAが出てきたときに、僕はかなり衝撃を受けました。
まず、デザインがかっこいいし、プロモーションもラッパーとか芸人さんとかを使っていて、それまでの卑猥な「性玩具」のイメージを一新しましたよね。
ゲイの人が「TENGAは女性器を模してないから、男性カップルの性行為中にも使いやすい」なんて語っているのを聞いたこともあります。
また、TENGAはダサくて、キモくて、モテないやつがやるものというネガティブな印象しかなかった「マスターベーション」そのものを、生活の中であたりまえに行われるものとして捉えなおそうとチャレンジしてきたようにも思えます。
そんなTENGAが、医療や福祉、教育といった公益的な意味合いが強い分野に乗り出す意味は大きいと思いますし、今後の展開に期待しています。
そして、最後に質問させていただきたいのですが、ズバリ、お二人にとって「マスターベーション」とはなんでしょう。
西野:おっしゃる通り、生活の一部ですね。
私、寝つきが悪い時にマスターベーションするとオーガズムで副交感神経が優位になってリラックスして寝つきが良くなるんです。
私にとってマスターベーションは日常的な行為であって、その行為をしている自分をエロいとも全然思いません。じっくりたっぷり時間をかけてすることもあるし、サクッとするマスターベーションもある。そんなふうに違和感なく生活に溶け込んでいるもの、ですね。
佐藤:私にとってマスターベーションとは、自分だけでできる「セクシャルウェルネス」の実現です。
性的な意味での自己実現をセクシャルウェルネスとした場合に、その一部を担っている。
マスターベーションなくして自己の性の理解はないですし、自己の性の理解無くしてセクシャルウェルネスの実現はないと。
ふな:もっとやさしくいうと?
佐藤:性器だけじゃなくて、個人によって性感帯はいろいろあるじゃないですか。
その自分の体を探求する、それがマスターベーション。その中で自分の気持ち良いポイントを探す。おしりの穴の快・不快を探求するという事もしましたし。
そうした自己探求が満たされることによって、外に向かっての探求につながっていくのだと思います。たとえばそれが受験勉強だったり、仕事だったり。
集中力の向上という意味でもマスターベーションは必要なものでもあると思います。
ふな:内的な探求心が、外に向かって行くと。
自分を愛することで他者も愛することができる、とも考えられますね。
佐藤:はい。マスターベーションとは自分を満足させるための探求ではありますが、自分を満足させられる人こそ、他人も満足させられるのではないでしょうか。
(書き起こしライター:槻 くみこ)