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2017.12.01.Fri

社会に最適化された性犯罪『痴漢』【後編】/ 斉藤章佳

インタビュー前編の内容

「男が痴漢になる理由」(イーストプレス)を出版した斉藤章佳(あきよし)氏のインタビュー。前半では斉藤氏が依存症の臨床現場に関わるようになった経緯や、性犯罪や性依存症の治療プログラムを提供する施設がなぜ少ないかなどの話をお聞かせいただいきました。

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痴漢の実態は「性欲モンスター」ではなく「普通のサラリーマン」

斉藤先生はふだん、痴漢加害者の他にも強姦・小児性犯罪・盗撮・露出・下着窃盗などさまざまな性犯罪加害者の治療にあたっていると伺っています。
今回特に痴漢に特化した著書を出版しようと思った理由をお聞かせください。

日本の性犯罪の中で最も件数が多いのが痴漢です。このクリニックの受診者の中でも、痴漢が最も多い。これだけ多い性犯罪なのに驚くべきことに、今までそれを扱う専門書はありませんでした。

また、加害者臨床の中で彼らに関わっていると、いわゆる世間が共有している加害者像と、目の前に現れる加害者の実像が明らかに乖離していることが問題だと思っていました。
みなさんが痴漢と言われて想像するのは、「性欲を持て余した男」や「女に相手にされない非モテ男」のような加害者像。しかしこの本にも書きましたが、実際の痴漢は“四大卒のサラリーマンで、家庭を持っている人”という、いわゆる“普通”の人々がほとんどなのです。それは痴漢のみならず、実は他の性犯罪の加害者の大部分がこの“普通”の層です。

世間の人々は加害者を性欲モンスターとか変態扱いし、自分たちと彼らは絶対違うと一線を引くことで安心する心理があるんじゃないかと思います。これは痴漢冤罪論者にも潜んでいる心理的メカニズムに似ています。しかし、加害者にとってはその世間の思い込みこそが非常に好都合なんです。

加害者像とともに、被害者像の乖離についても指摘されていますね。

はい。被害者に関しても世間のイメージとその実態には大きなギャップがあります。

先日某学会で聞いた発表ですが、地方のDV総合センターが性被害者の実態調査をし、被害を受ける女性の特徴を分析したらしいのです。その中で挙がった被害者の特徴で最も多いのは「被害を訴えでない」でした。警察に届出る勇気がない、大人しそうな人。「この人は泣き寝入りするだろう」という人が狙われやすいということです。
加害者臨床の中で痴漢の逮捕歴がある患者さんに聞いても同じで、やはりターゲットにする女性の特徴は「訴え出なそうな人」。痴漢する人は逮捕されないためにあらゆる努力をします。だから彼らは自己主張が強そうな人は本能的に選ばないのです。

しかし、社会で共有している被害者像は、真逆ですよね。露出が多い服装や短いスカート、派手な化粧が痴漢などの性犯罪につながるという思い込みがあり、それがセカンドレイプの温床になっています。
私はこの本で痴漢の実態を正確に伝え、世間の中に根強く残っている加害者像・被害者像を覆す必要があると思ったんです。

僕らが持つ間違った被害者像・加害者像は、脈々と受け継がれてきた男尊女卑的な価値観に影響を受けていると、斉藤先生は著書の中で指摘されていますね。そうした社会の歪んだ認知を痴漢が巧みに利用しているという意味で、僕らの社会に最適化された犯罪として痴漢が生み出されているとも考えられますよね。

痴漢などの性依存症に限らず、依存症自体が、個人の問題に矮小化されるものじゃなく、その環境への適応行動なんです。
アルコール依存症にしても薬物依存症にしてもギャンブル依存症にしても、彼らの生活の中での“生き抜くための適応行動”という側面があります。その1つとして、電車などの人混みの中で性暴力を介して表面化するもの、それが痴漢なんです。

斉藤先生は本の中で、男性がストレスへのコーピング(対処方法)の手法として痴漢行為に耽溺する構造を解き明かした上で、「すべての男性には加害者性が存在している」と書いています。男としてはとてもショッキングな指摘ですが、男性読者からはどのような反応がありましたか。

この本を読んだ男性の興味深いエピソードがあります。
今回の本の出版にあたり、原稿の段階で著者が私だと伝えずに何人かの男性に読んでもらいました。
その中の一人、平成生まれの20代で、学歴も立派な若者の反応が印象的でした。

いつもはおとなしいその彼が、私の原稿を読み進めていくうちに徐々に反発してきました。彼は「これは読みたくありません!」って若干怒り気味で、すごく強い抵抗を示してきた。普段、感情を表に出さない冷静な彼がそんな反応をしたことに、私はびっくりしました。

でもこれって実はすごく大事な反応なんです。
加害者臨床の中でもよくあるんですが、反発や抵抗っていうのは、その人の重要な部分に触れたときに出る反応です。普段大人しいその彼は何かの核心に触れられて、それ以上読むのが辛くなったわけです。でも「読むのが辛い」とは言えず、怒りと言う形で表した。

その方は加害経験が…?

ではないと思います。加害者性が自分の中にもあるという指摘を本当に受け入れ難かったんだと思います。なので強く反発した。

ちなみに彼は原稿の作者のことが男か女かわからなかったようで、どうやら女性が書いたと思ったらしいのです。たぶんそれもまた潜在的に、「女がまた男を貶めるようなことを言っている」という反発を生じたのでしょう。

そこにもやはり女は男よりも下だという男尊女卑的な価値観が背景にあるのだと思われます。自分よりも下だと思っている女性に、貶められることは非常に受け入れがたい体験です。特に男性はこのあたりに反応する人が多いのですが、一方で自分自身がなぜ反発や抵抗を示すのかについてはよく理解していません。

新しい価値観を“インストール”する。

斉藤先生は、今後性犯罪を減らしていく、撲滅する為に必要なことは何だと思いますか

私はたくさんの性犯罪者や性依存症者を見てきました。彼らに共通してるのは、やはり女性を下に見て、つまりモノ化して「女は男の性欲を受け入れて当然である」というような価値観を根っこに持っているということです。

だから例えば夫婦関係でもしばしば性暴力やDVは起こります。「結婚してるんだから自分の性欲に応じるのは当たり前だろう」と性的関係を強制する。そこに合意という考えや、相手を尊重するという思いがない。そうした男尊女卑の価値観が根底にあって、それが認知の歪みにつながっています。そして認知の歪みは問題行動をくり返すことで強化されていくのです。

そしてまた、認知の歪みは世代を超えて継承されています。私も、親の夫婦関係を見てきたし、私の親はその上の夫婦関係を見てますよね。時代とともに、少しずつ対等になってきてはいますが、なかなか根強く残り続けているものです。

私の出身は地方の田舎です。そこでは今でも地域の寄合などに「女は出てくるな」という風習があります。女性側も「女性が出る所じゃない(意見できない)」という認識が刷り込まれています。
また、家の中でも「男性(長男)最優先」という価値観が浸透しているんです。

このテーマについては最近エッセイストの酒井 順子さんが出した「男尊女子」(集英社)という本にも書かれていました。本の中で酒井さんは、男尊女卑という考え方は男性だけが持っているものではなく、女性もその考え方に取り込まれ、それを社会の前提として受け入れていると指摘されていました。今年風にいうと“女性側が男性を忖度する”というイメージでしょうか。

そうした「社会の中の歪んだ認知」に対して敏感になる人が増えて来ているのも事実です。この本の編集を担当してくれているイーストプレスの圓尾さんはすごく面白い表現を使っていました。「僕ももともと男尊女卑的な価値観はあったけど、この痴漢本を読んで新しい価値観をインストールしました」って。この本の編集の仕事を通して、今までの価値観やモノの見方が偏っていたとわかって、それをちゃんと“インストール”しなおした。“インストール”とはつまり“再編成(再教育)”ですよね。新しい発想を取り入れて、そのフィルターで現実を見ていく、という。
つまり、私たちは何歳になっても、今までの歪んだ認知に向き合い、新しい価値観を学習し取り入れていくことは十分できるはずなんです。私はそう考えています。

なるほど。新しい考え方をインストールするとは、しっくり来る言い回しですね。
それを加害者臨床に携わる斉藤先生がおっしゃると、すごく説得力があります。

今回はお忙しい中、お話お聞かせいただき、ありがとうございました。

ライター:
船川 諒
埼玉県久喜市在住のフリーランス。
WEBデザインをすることが多く、
このサイトも作っています。
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