川口こども食堂に行って、こども食堂の意義を考えさせられた。
昨年から話題になっている「こども食堂」。
今やこどもの6人に1人が貧困に陥っているという日本。もはや貧困は特別なものではなく、多くのこどもたちが常にお腹をすかせて暮らしている現状がある。
そんなお腹をすかせたこども達に、無料もしくは安い値段で、栄養バランスの整った食事を提供しようという試みが「こども食堂」という名で、全国に広がっている。
今回はそんなこども食堂がいったいどんなところなのか、その実態を知るために、私の住む埼玉県内の「川口こども食堂」にお邪魔した。
川口市は東京都に接し、都内の通勤にも便利な立地。
人口60万人の街だが、平均年収は全国平均よりも80万円程度低く、こどもの貧困率も高いと言われている。
そんな川口市のこどもたちのために有志が集まって立ち上げた「川口こども食堂」は、今年の3月に初めて開催。
私が訪れた6月25日(土)は4回目の開催日だった。
みんなで持ち寄って作る。
みんなで揃って食べる。
17:30開店だったこの日、私が訪れたのは18時過ぎだった。
会場の川口ふれあい館2階の料理実習室とその隣の会議室。
階段を上がると広いフロアには、会議室からあふれるこどもたちの歓声で満ちていた。
部屋の入り口に、大きな茶色い着ぐるみがこどもたちに囲まれていた。
どうやらこの日は川口市のゆるきゃら「きゅぽらん」がやってくるというのが目玉企画になっていたそうで、こどもたちがテンションマックスで騒ぎまくっていた。
川口こども食堂では、毎回食事の前にはこうしたイベントを行っているのだという。
その後「ダイナモ」というバンドが登場。大学生くらいだろうか、とてもさわやかな男性3人組で、歌も演奏も素晴らしかった。
ダイナモは3月の初回から毎回参加しており、こどもたちもすっかりファンになっているのだそうだ。
ダイナモがきゅぽらんのテーマを演奏し、こどもたちがきゅぽらんと一緒に歌ったり、踊ったり、大盛り上がり。
そんな会議室のなりの料理実習室では、お母さんたちが和気あいあい楽しそうに料理づくりをしていた。
野菜を箱から出していた男性に「立派なバジルですね」と声をかけると、「わたしが育てているんですよ」と嬉しそうに話してくれた。
料理の材料の多くは寄付で賄っている。この男性はサラリーマンから農家への転身を図り、現在川口市の就農セミナーで農業の勉強中なのだという。
他にも定年後に趣味で野菜作りをしている方が、「自分の野菜をこどもたちに食べて欲しい」と野菜を持ち込んで参加していた。
調理しているお母さんたちは、ボランティアスタッフといった感じではなく、今日のイベントの参加者。
ここには支援者と利用者という分け目がない。自分のできることを持ち寄って、みんなで作るこども食堂という印象を受けた。
催しが一段落ついた所で、みんなで食事。
この日のメニューはカレーとポテトサラダとフルーツ。
カレーはこども向けの甘い味付け。小学生時代にキャンプで食べたカレーを思い出した。そんな懐かしい味のカレーだ。
こどもたちは力いっぱい遊んだあとの、大好きなカレーを美味しそうに平らげていた。
今回始めて参加したというお母さんは、
「平日は私が仕事で遅いので、なかなかこどもと一緒の時間を作ることができません。だから土曜日のこの時間なら子どもと一緒に参加できます。
うちの子は学校で友達関係があまりうまくいってなくて、学校以外に同世代のこどもたちと一緒に遊べる場が欲しいと思っていたので、こういう機会はとてもありがたいです。
それにこどもと外食すると、どうしてもうるさくなって周りに気を使ってしまいます。ここならこどもたちが主役なのでうるさくしても安心してゆっくりたべられます。」
そうお話してくれた。
最初に思っていた「貧困のこども支援」というような印象よりは、親子が集まって作るコミュニティといったような印象。
スタッフの方も現状を「児童館の延長のようでしょ」という言葉で表現されていた。
食事が終わった頃、川口こども食堂代表の佐藤 匡史さんにお時間をいただきお話を伺った。
イベント盛りだくさん!
楽しく明るいこども食堂
— すごい盛り上がりですね。びっくりしました。
そうですね、他のこども食堂とはちょっと違うかもしれません。
去年の後半くらいからこども食堂が話題になっていて、私が耳にしたのが秋くらい。自分も手伝いたいと思ったんですが、川口にはこども食堂がなかったので、自分で立ち上げました。
一番最初にお金をどうやって集めるか考えて、クラウドファンディングで集めようと思ったんです。でも後発組なんである程度目立つやり方をしないと目が向かない。だからできるだけ目を向けてもらえるようイベントをたくさんやったんです。
おかげ様で3月の初回にはボランティアさん含めて70名の方にきていただきました。
他のこども食堂では30名満たないくらいが普通で、開いたけど身内の5〜6人しか集まらなかったという話も聞くので、成功したほうじゃないかな。
FACEBOOKなりブログなりで情報発信していたのも奏功したかと思います。
2回目以降も一定の集客はできているので、今後の課題は、“こども食堂の本来的な目的である経済的貧困のお子さんであったり、孤食を強いられているお子さんにどうやってリーチしていくのか”ということだと思っています。
— 参加者を見ていると皆さん普通の母子に見えますが、本当に貧困のお子さんが来ているのでしょうか?
そのあたりは正直曖昧な所があります。
来てくれたお母さんやお子さんが、経済的貧困を抱えているのかいないのかわかりづらいのです。それをあえて分からないようにしているところもあるので。
今後は利用後のアンケートで食卓事情に関するアンケートを取って把握していきたいなとは思っています。
ただわれわれのコンセプトとしては、「貧困のこども」にリーチするために、あえて「貧困」というキーワードを強調せずに、“誰でも楽しく明るいこども食堂”という形でやって、どんな人でも気軽に来てくださいというスタンス。
来てくれたお子さんの20人に1人くらいの確率で、もしかしたら貧困のご家庭の子がいるんじゃないかなという想定でやっています。
今の段階の目的は貧困の解決ではない。
貧困で孤立している人々をつなげる場所。
— 貧困を謳うと来づらいから、あえて全てのこどもをターゲットにしているということですか?
そうですね。
今全国の子供食堂は2極化しているように見えます。
ひとつが映画「さとにきたらええやん」のような西成の貧困街にあるシェルターみたいな場所。なんだったら泊まっていってええよっていうシェルター型のこども食堂。
そうした要支援のこどもを対象に本気でやっているところとわれわれのような地域コミュニティ再生型。児童館や子供会のような雰囲気があり地域のお祭みたいなノリです。
先ほど調理をしていたボランティアの中に、昼間は看護師として働き、仕事と家事に追われて煮詰まってしまうそうです。
月に1回ここに来て、みんなと料理をしながら喋ったり、ご飯を食べたりすることで、精神的なバランスがとれるといいます。
それもまたは、子ども食堂ができる支援の形の一つなのかな、と。
こども食堂は、こどもやその親御さんを支えているようで、実は運営側も支えられている。
支えているつもりが自分たちも支えられていた。それが子ども食堂の性質なのだと思います。
普段の職場の人間関係やママ友たちとは違った、いろいろな人達と月イチで一緒に御飯をつくり、食べる。
なんのしがらみなくあとくされなく話して帰る。それがこども食堂のひとつの側面です。
話をきいてくれる人がいない子供が、友達を作れる。
悩みを抱える孤独なお母さん同士ががつながり合える場所。
川口こども食堂はそんな場所を目指してます。
もちろんそれだけで終わらないようにも気をつけています。
毎回アンケートを取ったり、こどもやお母さんをよく見て、なにか問題を抱えていそうな場合は「なにかできることはないですか」と声をかける。
児童相談所関係の人たちなどは、そうしたケアを必要とするこどもや親を見つける「見つけ」の場としてのこども食堂に期待しているそうです。私もこどもの権利・人権などに関わるNPO団体さんとつながっていて「こういうお子さんがもし来たら、ちょっと連絡頂戴ね」みたいなそういう連携もとれるようにはしています。
— 本当に問題を抱えている母子にリーチするのは難しそうですね。
そもそも問題を抱えて孤立している親やこどもに、存在を知ってもらうことが難題のような気がしますが。
どこのこども食堂も本当に貧困のこどもに届いているのかというのが課題になっていますね。
こども食堂ワークの中でもその話題をやりとりしています。
他のこども食堂で実践されて効果をあげている事例が、民生委員や学校などと協力・連携するというものです。
こどもの状況を家族の次に把握できるのは、学校で毎日彼らに接する先生方です。
「この子は毎日給食1食のみで過ごしているようだ」と気づいたら、さり気なくこども食堂を紹介してもらう。もちろん他の子も含めて話し、自然に見えるように。
そうしてピンポイントにリーチすることで、結果的に必要なこどもに食事を届けることができているこども食堂があります。
私たちもその例に習い、川口市内の小中学校・保育園幼稚園などに働きかけていくつもりです。
— 利用者の反応はどうですか?
やっぱりみんなで一緒にご飯を食べることが楽しい。という声が一番多いです。
私たちがこどもの頃は大人数で食卓を囲む機会がありましたが、ここ20年くらいで急激に減少しました。
昔も貧困などの問題を抱えたこどもはたくさんいましたが、それを気づいて手助けしたり、頼ったりできるひとたちのつながりがあった。
いまはそうしたつながりがなく、ブツブツと途切れて孤立してしまっている。
だからみんなで食卓を囲み、つながり合う空間を意図的にでも作り出す必要性が出てきたんだと思います。それがこども食堂という名の活動なのかと。
だから少なくとも今の段階では、こども食堂=貧困を解決しようと言う動きでは無いと思うんです。
貧困を解決するというところは、やはり行政が入ってこないとできないと思います。
こども食堂は、「貧困状態で孤立している人たち」を貧困状態のままだけど、くっつけてあげる。孤独な人たちの不安の要素をちょっと取り除く。それだけです。
こどもたちにお金をあげるわけでもなく、また来週おいでっていうだけの話なので。
「なにもしてあげられないけど一緒に御飯を食べようよ」っていう活動。でもそれがとても大切だと思っているんです。
— なんか今のお話で私の中でも納得するものがありました。週1回や月1回の子供食堂で、意味があるのかな?と正直思っていた部分があります。
カロリーベースの話になると、1ヶ月に90食のうちの1食分なので、カロリー的にはなんの足しにもならないはずなんですよ。
ただやっぱり精神的なつながりと、なにかあったときに誰かに、どこかに相談できるっていうのが少しでも頭に入っているだけで辛さを共有できる。
今の段階のこども食堂はそういう存在なんじゃないかなと。
こども食堂の一歩先。
親子の生活再建の力になれる事業を
— 今後の展開はどう考えていますか?
今後はこども食堂を継続しつつ、一般社団法人を立ち上げて「空き家で社会貢献」をするビジネスをやろうと思っています。
空き家をリフォームして生活に困る母子の人たちに貸してあげようと思ってます。
そこで生活しながら、社会復帰できるための職業訓練のトレーニングにつなげてあげたりするんです。
借り手の方には、空き家に安く住める代わりに「月に1回でいいんで子供食堂やらせてください」と。
そういう家がすこしずつ増えてくれば、月一回こども食堂になる家が、30ヵ所できれば毎日子供食堂が開催できます。
そうなっていくと先ほど話した現段階のつながり提供の場という意味の他に、実質的な貧困のサポートという使命も果たせるようになるのではと考えています。実際はそう簡単にはいきませんがw。
でも現状として、空き家が増えて困っている一方で、住む家がなくて困っている人達がいる。夫のDVから逃げている親子や経済的理由で家を追われるケースなどです。
両者をうまくマッチングするしながら、うまくこども食堂を拡げていけたらいいなと思っています。
<あとがき>
昨年来ある種のムーブメントとなっているこども食堂。
しかしその目的である貧困のこどもたちへの支援という難しさに苦戦を強いられているところは多い。
スティグマを感じて利用をためらってしまう親子や、そもそもこども食堂の情報に触れる機会のない孤立した家庭も多い。
佐藤代表はじめ、川口こども食堂はそうした課題に向け様々な試みを始めている。
彼らの挑戦が、多くの貧困で困っている家庭に届いてほしいと心から思った。
川口こども食堂の詳細はこちら
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