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2018.11.28.Wed

認知症は「かわいそう」? 当事者とともに作るウェブメディア『なかまぁる』が伝えたい、社会が持つ「先入観」とは

9月22日(土)、認知症当事者とともにつくるウェブメディア『なかまぁる』のリリース記念イベント「認知症フレンドリーイベント〜誰もが安心して暮らせる社会を目指して〜(朝日新聞社主催)」が、東京コンベンションホールにて開催されました。
『なかまぁる』は朝日新聞社が「認知症になっても、当事者が“自分らしく”生き続けていくための情報を発信すること」をビジョンに掲げ、認知症当事者とともに作るメデイアとして9月18日に公開されました。

今回チャリツモでは、「1億人のスイッチを切り替える」というテーマで行われたトークセッションの様子をお届けします。

認知症当事者とともにつくるウェブメディア

『なかまぁる』

https://nakamaaru.asahi.com/

3つの違った立場から、「認知症」を考える

トークセッションでは、認知症に様々な形でアプローチしてきた3名が登壇し、各々の体験談をユーモラスに語りました。会場は、ときおり訪れた人々の笑い声で溢れ、終始ポジティブな雰囲気に包まれていました。

ファシリテーターはこれまでジャーナリストとして認知症の取材を行ってきた「なかまぁる」編集長の冨岡史穂氏。
パネラーとして自らも認知症の母を介護する当事者であるフリーアナウンサーの岩佐まり氏、認知症の方がホールスタッフとして働く「注文を間違える料理店」プロジェクト発起人の小国士朗氏。

セッションのなかで、三者三様の経験を語り合ううちに、「徘徊」や「前後不覚な行動」という部分的な症状だけでイメージを抱かれがちな認知症を、「当事者の行動の背景を想像すること」、「“認知症を当事者の人生の一部”と視点を変えることの大切さ」、「認知症当事者の“行動”が問題なのではなく、実はそう捉える社会の“偏った物の見方”が問題である」という視点を持つことで捉えなおすことができる、という意見に登壇者3名が互いに共感を示していたシーンが印象的でした。

プロフィール

  • ファシリテーター

    冨岡史穂

    朝日新聞社 総合プロデュース室所属。
    認知症当事者とともにつくるウェブメディア『なかまぁる』編集長。

  • パネラー

    岩佐まり

    陽だまりオフィス所属。フリーアナウンサー
    55歳で若年性認知症を患った母を15年間在宅でシングル介護するかたわら、大学生として福祉の勉強もこなす。著書に「若年性アルツハイマーの母と生きる」がある。

  • パネラー

    小国士朗

    フリープロデューサー 「注文を間違える料理店」発起人。
    2003年にNHKに入社。ドキュメンタリー制作ディレクターとして『クローズアップ現代』『プロフェッショナルー仕事の流儀ー』などに携わる。

グループホームへの取材がきっかけで始まった「注文を間違える料理店」

昨年9月に3日間限定でオープンし話題となった『注文を間違える料理店』。プロジェクト発足のきっかけは、小国氏のNHK時代の取材活動だったと言います。

小国

(『注文を間違える料理店』を企画した)きっかけはグループホームへの取材なんです。
取材時に、その日の献立はハンバーグと聞いていたんですが、実際に目の前に出てきたのは餃子だったんです。そのとき自分は、「違いますよね、今日はハンバーグですよね」と言おうとしたんですが、グループホームの職員や入所者は間違っていることを気にしていなかった。
自分だけが間違いを気にしていて、そのことにすごく恥ずかしさを感じたんですね。
餃子が美味しければどっちでもいいし、その場にいる周囲の人たちが間違いを受け容れれば、間違いではなくなると言うことに気づきました。
間違いを気にしない社会のほうが絶対いいし、素敵だと思ったんですよね。

自分は取材者でたまたまそういった様子を知れたんですが、取材者ではない一般の方は、なかなか知ることができません。僕のプロジェクトへのモチベーションは、街中にそういう気づきのある場を作りたいというところから来ています。

僕は、恥ずかしながら認知症についてよく知らず、徘徊や物忘れが激しいといったネガティブな印象を抱いたまま取材に向かっていました。
ところが実際、思っていたのと全然違う世界が広がっていて、びっくりしたり、感動することが多かったんです。
そして、僕みたいに、認知症を知ったかぶっているひとって実は、多いんじゃないかと思ったんですね。

この経験から、認知症って何かをよく知らずに、自分みたいに知ったかぶっている人が気軽に認知症に触れられる場所を作りたいと思いました。

根底にあるのは、シェアイシューという考え方です。課題(イシュー)を複数の方と共有(シェア)し、一緒に解決しようよ、という考え方です。「間違えちゃったけどまあいっか」という価値観を社会に根付かせたいんです。

「注文を間違える料理店」発起人の小国さん

認知症ってそんなに嫌? 恥ずかしい病気? 実際に母を介護して感じた「先入観」

小国氏に続いて、実際に認知症の母親を介護する当事者の岩佐氏が、自身が体験した認知症への「先入観」について語りました。

岩佐

認知症って、どこか隠さなければいけない、なんとなく、家族同士でもカミングアウトしにくい病気ですよね。でも、認知症ってそんなに嫌でしょうか? そんなに恥ずかしい病気でしょうか?
私の母は、55歳まで子供を育てるため頑張ってきました。55歳で認知症になって、そしたら周りからの視線が一気に変わってしまう。行き場がなくなり、仕事も失いました。でも、これで本当にいいんでしょうか?

この病気って、きっとみなさん誰しもなる可能性がありますよね。そんなときに、認知症の方たちが白い目で見られるような社会であってはいけないと思っています。
そして、病気になったときは、患者のひとりとしてみなさんがその事実を受け入れていかなければならないですよね。

そういう意味でまだまだ日本はそういう社会ではありませんけれども、「注文を間違える料理店」は、ロゴを見たときに、「る」がひっくり返っていることが、とてもシュールで、認知症の人が“間違える”という行為を笑いにつなげてくださったんですよね。
こうすることによって認知症のイメージやハードルを下げてくれていていいなと思ったんです。
このようにして、認知症は、嫌なものではない、苦しいものではない、ということを伝えていきたいですね。

認知症フレンドリーイベント〜誰もが安心して暮らせる社会を目指して〜(朝日新聞社主催)

「認知症である前に、人である」。スイッチを切り替えれば、感じ方はガラリと変わる

認知症に対するネガティブな見方を変えることの大切さを語るお二人。二人はどのように「スイッチ」を切り替えたのでしょう?

小国

岩佐さんのブログや著書では、度々笑える話を書かれていますよね。

自分の仕事と両立しながら、お母様と暮らすと決めるまでの葛藤や、自分の夢との狭間で揺れ動きながら、生活されていく様子を読んでいて、大変だなって思うところは正直ありました。

しかし、一方でお母様との日常をコミカルに描写しておられますよね。
例えば、洗濯物がよくなくなるけれども、ある日見ると扇風機にタンクトップが着せられていて、「あら、私よりスタイルがいいわ」と思った、なんていうお話を書かれている。そういう、かわいらしい生活の表現をされているじゃないですか。どんな意識で発信されているのでしょう?

岩佐

そうですね。私は、「ものって考えようだな」と思っています。

たとえば、認知症になるといろんな物忘れが始まってきますよね。
ほんとうにありえない行動をしたりするんですよ。大好きなくまのぬいぐるみだって、トイレの便器に入れられてたりするんですよ。
経験がある方もいらっしゃるかと思いますが、パジャマやぬいぐるみがトイレの便器のなかに入っていることもありますし、よごれたオムツが洗濯機に入っていることもあります。

けれども、本人は嫌がらせをしようとは思っていないんですよ。本人なりの思いがあってこうした行動を取っていると思うようになりました。そう考えたときに、「私たち家族は、こうした行動に対して怒る必要が本当にあるのか?」と思うようになったんですね。
くまのぬいぐるみがトイレに行きたいといったのかもしれない、パジャマのお話でいうと、トイレの便器の水でパジャマが洗えると思ったのかもしれない。
こうした行動の背景を推理して、見方を変えていくことが介護していく上では重要だと思います。

小国

僕は、グループホームを運営する和田行男さんの「認知症である前に人なんだよなあ」という言葉が衝撃的でした。
「認知症の小国さん」と思うか「小国さんが認知症」と思うかでまったく解釈が異なると和田さんは言いたかったんだと思うんですよね。
「認知症の小国さん」という見方をしている限りは、永久に自分のなかで解釈が変わっていかないと思いますね。

グループホームを取材しているときに、窓から外へ出てしまうおばあちゃんがいて、困った人だなと思っていたんですが、和田さんのお話を聞いてからは、おばあちゃんの見方が変わってきましたね。
よくよく聞くと、おばあちゃんが若いときに陸上をやっていたということがわかり、なるほどな、外で走りたかったのかも知れないと見方が変わったんですね。

お二人の意見に共通していたのは、「周囲が視点を変え、認知症当事者たちへの感じ方を変えることの大切さ」でした。

「認知症当事者の方々の行動の背景を想像すること」、「認知症は当事者の方々の人生のほんの一部にすぎず、彼らも一人の人間であると理解すること」が、認知症当事者の方々が“自分らしく”生きられる理想の社会づくりのきっかけとなるようです。

介護当事者のフリーアナウンサー岩佐さん

介護の話をしたら、男性に逃げられた。知らないものってそんなに怖い?

一方で、現実の社会の「視点」はこんなにも偏っている、ということを岩佐氏が語っています。

冨岡

受容する側の視線、目線というお話で、岩佐さんにお聞きしたいエピソードがあります。
著書にも書かれていた、合コンのときのご経験をお話いただけますか?

岩佐

これは、会場のみなさまにお伺いしたいことでもあるんですが、会場の皆さんがですね、合コンという場に行き、私とお会いして、私を気に入っていただいたとしましょう。二人でお食事に行き、その場で私が介護の話をしたとしましょう。そのとき、みなさまはどんな反応をされますか?

私はこれで傷ついた思い出があるんです。なんと、相手の方から、「僕の家はお金持ちだから、在宅介護をする気持ちがよくわからない。お母様がデイサービスで待っているんでしょう?早く帰ってあげなさい」とその場から家に帰されたんです。その方からその後連絡はありません。この話、いかが思われますか?会場の男性の皆様!(笑)

小国

僕は最後までちゃんと食事しますけどね(笑)
もしかするとその男性は、認知症や介護というものと自分との距離があまりにも遠いため、介護という見たことも触れたこともないものが岩佐さんの背後に見えたとき、それに怯えたんじゃないかなあと思います。

僕もそういう怯えの気持ちってわかるところがあって、かつてグループホームを取材する際にも、これは取材者として本当にお恥ずかしいですけど、「認知症の方から暴言を吐かれるのでは」とか「そもそも認知症の方と会話って通じるのかな」といった不安を感じ、怖かったんですね。認知症を知らないこと、あるいは、認知症を知ったつもりでいる、知ったかぶっている状態は、恐れにつながると思うんですよね。

その男性も介護や認知症に対して知ったかぶっているゆえに、岩佐さんではなく、その背後にある介護、認知症を見て、そういう発言になったと思うんですよね。
もちろんとんでもなく失礼なやつだと思いますが。

冨岡

知らないものが怖い?

小国

僕は怖かったです。毎回知らないものを取材するときは怖かったですね。

岩佐

介護をしているというのは、そんなに怖いことなんですかね…。
私は、「知らない世界にいる人だから面倒くさい」とか「未知なる世界だからあまり関わらないようにしよう」という周囲の反応に傷つきます。

たとえば世の中では離婚されている方もいらっしゃいますけど、お子さんがいらっしゃっても再婚されていたりしますよね。子供を抱えていることと、介護をしていることと、いったい何が違うんでしょうか?何か差別的な目線があるんでしょうか?

冨岡

いま子育ても、子供が少なくなってきている社会ですので、なかなか話題にしにくくなってきていますが、介護というテーマが身近ではない方からすると未知のもの・怖いものであるという気持ちになるのはわかります。

岩佐さんが、介護は生活の一部だとテレビ取材でおっしゃっていましたが、今日のお話を通じて、認知症の方にとっても、その方の生活や人生のごく一部でしかないと感じました。

あとがき

取材を終えて感じた「多角的視点」の大事さ

これまでの認知症のイメージを壊すべく、認知症をあらゆる側面から情報発信し、認知症のポジティブな側面を伝えようと立ち上げられたウェブメディアの『なかまぁる』。

編集長の冨岡氏は、今後目指したい姿をこう語りました。

「認知症は昔の癌と似ています。かつて癌も周囲に隠すような病気でしたが、いまや、癌サバイバー、癌と共存しながら働く、といった価値観が定着してきています。認知症もそうあるべき病だと思っているのです。
これまで数々の取材を通して、認知症は「完治させる」あるいは「克服する」ものではなく、日常生活の一部として受け入れ、うまく付き合っていく病気であるという考えに至りました。
認知症を受け入れ共存していく病として、社会が認知症のイメージを変え、関心が持てるような情報発信がしたいと思い、このウェブメディアを創設しました」

今回の認知症当事者たちのパネルディスカッションで掲げられた、「一億人のスイッチを切り替える~認知症フレンドー社会を目指して~」の実現には、『なかまぁる』のようなメディアを通じて先入観に捉われない認知症への理解に取り組むこと、当事者の方々の置かれている現状や心情にまずは思いを馳せることが、大切な第一歩であると言えるでしょう。

WEBメディア「なかまぁる」をぜひご覧ください。

ライター:
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内山祥子
人材系企業勤務。学生時代に5年間途上国支援に携わり社会課題に関心がある。トロント留学中に記者としてインターン勤務した経験から情報発信に関心を持ち今に至る。

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