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2018.11.02.Fri

やっぱりヘンだよ医学部入試/卒後9年間地元に縛り付ける『地域枠』

医学部の入試での得点操作の問題が発覚し、大きな話題となっています。

東京医科大学での不正発覚を皮切りに、順天堂大学や昭和大学などの他大学でも得点操作をしていたことが判明し、女子受験者や浪人生に対して不利な扱いをしている医学部入試の実態が明らかになってきたました。

でも単純に疑問に思うのは「大学側はなぜそんな不正を働いたんだろう。」ということ。
今回僕はこの答えを知りたくて、メディアで医療業界の問題を指摘し続けている山本佳奈医師に話を聞いてみました。

そこでわかったのは、入試=入社試験になっていて安定的な労働力を求める医学部の構造と、その背景にある医師不足問題。

さらに山本医師は医学部の入試においてもう一つ深刻な問題である「地域枠」に関しても教えてくれました。

入学試験=入社試験。大学病院の働き手を確保するのに必死な各医学部

船川
山本先生、今日はよろしくお願いします。まず簡単に自己紹介をしていただけますか?
山本
よろしくお願いします。山本佳奈といいます。 東京と福島を行ったり来たりしながら内科医として働いています。
船川

早速ですが、昨今話題になっている東京医大の女子入学者の一律減点騒動と、それに付随するカタチで次々に明るみになってきた各大学医学部の得点操作の問題に対して、どうお考えですか?

山本

女子受験生を経験をしてきた身としては、やっぱり女子だけ一律減点するというのはあまりにもひどいなと思っています。

そして単に女子差別という問題ももちろんあるんですけれど、それだけではなく、その裏に潜んでいる医学部の問題というところもしっかり議論すべきだと考えています。

船川
医学部の問題とは、どんな問題ですか?
山本

一番大きな問題は、医学部に入る、いわゆる入学試験が、入社試験になってしまっているというところですね。

どこの医学部にもそれに紐づく大学病院があります。そして医学部入試が、その大学病院で将来働いてくれる医者を選別するための採用試験のようになってしまっているということなんです。

医学部以外の学部の場合、大学に入ったからといって就職先が必ずしもあるというわけではないし、ちゃんと就職活動をしなければなりませんよね。

医学部だけは別なんです。もちろん大学病院にそのまま進まなくてもいいんですが、やはり大学と病院がくっついちゃっているから、経営陣としては、いかにちゃんと自分の大学に残ってくれる人を選ぶかという選別のための試験になってしまっているように思います。

船川

青田刈りのような状況ですね。将来長く働いてくれるということは、子育てなどで職場を離れてしまう女性医師よりも男性医師を求めるということにつながってしまうんですね。
「女性=出産で離職」という考え方自体がすごく古いですけど。
それにしても、入試で得点操作するなど教育機関としては絶対に許されないことだとわかっていたはずです。
それでも、そこまでして囲い込まなければいけないのはなぜなのでしょう。

山本

その根底にあるのは医師不足です。これは近年よく話題になるので、皆さん聞いたことがあるかと思います。
特に大学病院などの大きな病院は、たとえて言えば「百貨店」みたいなもの。

医療の世界には専門科がたくさんあります。産婦人科や外科、内科、さらに外科や内科の中でもいろいろ分かれていたりしますよね。
大学病院の多くはそれら全ての科を標榜しているために、各々の科として成立させるために相当数の医師が必要になります。それをなんとか確保しなければいけないというのが本音なのでしょう。

船川

現在得点操作で問題になっているのは東京医科大学や昭和大学、順天堂大学など東京にある大学ですね。

地方にある大学の医学部でも、入試の段階で医師の囲い込みを目的にしたバイアスがかかっていたりするのでしょうか。

地方の医師不足を解消するために、受験時から医師を囲い込む「地域枠」

山本

地方では特に医師不足が深刻です。ですからどこも必死で医師を確保しようとしていますが、地方の大学の医学部入試で、私が問題だと思っているのは「地域枠」という制度です。

船川

地域枠? なんですか、それ。

山本

いわゆる入試の中で一般枠とは別に用意されたもので、卒業後にその県内に残って一定期間その地域医療に従事する、それを条件に募集している枠のことです。

一言で言えば、その都道府県に残る医者を確保する入試制度ですね。

船川

地方の大学の医学部が、卒業生をその地域に縛り付ける、ということですね。
学生側にはどんなメリットがあるんですか?

山本

メリットはいくつかあって。
まず、基本的に奨学金を与えてもらえるということです。奨学金の額は大学によって差がありますが、ほとんどの大学で卒業後一定期間地域で勤務することで返還の義務がなくなる仕組みになっています。

もうひとつのメリットとして、一般枠に比べて「入りやすい」と言われています。
卒業後の制約があるぶん、一般枠に比べて倍率が低く、偏差値も下がる傾向にあるんです。

船川

なるほど。地域枠はいつごろから始まったんですか?

山本

いつごろからなんだろう…はっきりとはわかりません。
でも、少なくとも10年前に私が受験したときにはすでにありましたね。自治医大をモデルケースにしたという話を聞いたことがあります。

船川

自治医大って名前は聞いたことがありますが、どんな大学なのでしょう?

山本

全国の僻地医療・地域医療に従事する人材を育てる大学です。一応私大です。全国の各都道府県ごとに2〜3人の受験生を合格させます。いわゆるその県の代表になるみたいなものなんですよね。

自治医大に入った子は基本的に卒後10年または9年、その出身地の病院で勤務します。そのかわり授業料はすべて免除。
そのモデルを他の大学でも導入したのが各大学の地域枠というイメージですね。

船川
なるほど。ちなみに、地域枠を導入している大学はどのくらいあるんですか?
山本

次第に増えていて、2017年度は全体の9割近い71大学が導入しています。

すべての医学部の定員のおよそ17.8%にあたる1674人が地域枠で入学していますが、大学によっては地域枠の定員が全体の半分近くを占めている大学もあったりします。
北海道だと地域枠の方が多かったり、福島県でも半々になっていますね。


在学期間と合わせると15年間。一括返還でも年利10% +「ブラックリスト」

船川

地域枠の危険性やデメリットを教えてください。

山本

やっぱり、卒業後9年間もその地域に縛り付けられるということですね。

船川

9年ですか?めちゃくちゃ長い!

山本

医学部の在学期間が6年間で、さらにそれから9年間となると、合計で15年、その地域に縛られるということです。
現役で入学しても「お礼奉公」を終えたころは30代半ばになっちゃいます。

それに、大学にいる間にもいろいろな先輩や医者に出会って、新たな生き方や考え方に出会うでしょう。
実際に実習に出てみたら、「自分に合う合わない」とか、「コレをやりたい」と医療の中でも別の道を選びたくなるかもしれません。

なにより、6年もあれば医学は進んでいきます。既存の概念が来年には全く新しいものに置き換わっているかもしれません。日進月歩で進んでいる医療の世界で、医学部の6年間+9年間の15年間同じ地域で働く、そんな未来の選択を高校生ができるのでしょうか。

船川

卒業後にその地域から出ることを選択できないのですか?

山本

奨学金を一括返還すれば、その縛りから抜けられます。
でも、そこにもう一つ大きな問題があります。 一括返還を選択した場合の金利がべらぼうに高いんです。

都道府県によって差はありますが、金利を年利10%としているケースが全体の6割近くもあります。
今の時代に、10%の金利って、どう考えてもおかしな話です。
しかもそれを高校生に選択させるんですから。

船川

懲罰的な意味合いですね。教育ローンが1%台から借りられる時代ですもんね。

山本

それでもやっぱり一括返還して、その地域から外に出る人もいます。
そうした「足抜け」への対策のひとつとして、最近厚労省が通称「ブラックリスト」と言われる通達を臨床研修病院に送付しました。

船川

ブラックリスト?臨床研修病院?

山本

医学部は6年かけて卒業しますが、卒業後すぐに勤務医になれるわけではありません。2年間の臨床研修を経験しなければいけないんです。
そして、その研修医を受け入れるのが「臨床研修病院」です。
地域枠で入学した人は、卒業後の臨床研修も、その大学の医学部がある地域の臨床研修病院で行わなければならないんです。
ところが、卒業時に奨学金を一括返還して、別の地域の臨床研修病院の研修医となるケースがあとを絶ちませんでした。

そこで厚労省は昨年、そうした地域枠からの「足抜け」を防ぐ目的で、「卒業予定の地域枠学生」のリストを各臨床研修医病院に送付しました。
その上で、正当な理由がなく、地域枠から足抜けした学生を研修医として採用した病院に対しては、補助金を減額するなどの措置をとるとしたんです。
このリストが通称「ブラックリスト」と言われているんです。

船川

それじゃあ地域枠の学生は、卒業後2年間の研修期間もその地域から逃れられないですね。

入試の段階で自由を奪う「地域枠」は日本だけ?

船川

地域枠は日本特有なんですか?

山本

他の国にもあるのは事実です。アメリカなどでも地方に医師が足りないのは問題になっています。

私が調べた中では、アラスカにも同じようなシステムがあり、金利は日本と変わりませんでした。ただし、アラスカでは卒後の勤務年数は2〜3年です。なおかつ入試の段階で選択させるのではなく、入学後に説明があって、選択できるシステムです。
日本の場合は入試の段階で選択をさせますから、まるで違いますね。

船川

9年って異常な長さだと思いますけど、そもそも人権侵害にあたらないのでしょうか。
医師というのはもちろん公共性の高い仕事ではあるのでしょうけど、憲法に明記されている「居住・移転の自由」や「職業選択の自由」に抵触するんじゃない?とも思います。

山本

そう…ですよね。 ただ、そうした自由を侵害しているという点では、地域枠だけの問題ではありません。
大きな話になってしまいますが、「医局」全体の問題があるかもしれません。

医局の話になると、すごく長い話になってしまいます(笑)

船川

なんだか、闇が深そうですね…白い巨塔的な。またそのあたりの話は日を改めてお聞かせください。
それにしても医師が足りないからといって、入学時に重い枷をはめるようなやり方は危険な気がしますね。

山本

地方で働くことの魅力をきちんと伝えて、主体的にそうした働き方を選択する人が増えなければ、地方の医師不足の問題は根本的には解決しませんよね。

船川

地方でいきいきと働いていらっしゃる医師の方々もたくさんいらっしゃると思うので、そうした姿が受験生にも届くといいですね。
それでは本日は長い時間、ありがとうございました。

山本

こちらこそ、ありがとうございました。

参考情報

地域枠医学生、「枠外採用」ダメ…病院の補助金を減額へ/
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180726-OYTET50028/

地域枠義務放棄の研修医9人 初めて実態明らかに
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33603400R30C18A7000000/

インタビュー&ライター:船川 諒
書き起こし&編集:うえもと くみこ

ライター:
船川 諒
埼玉県久喜市在住のフリーランス。
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猫を3匹飼っています。
昔っから重度の躁うつ病で、口癖は「死にたい」
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