『障害者』の価値転換が起こる時代が来るかもしれない/studio COOCA
こんにちは!チャリツモライターのUniversalMovement(UM)です!
今年3月に東京国際フォーラムで行われた、アートフェア東京2019に行った時のこと。
そこでなんとも衝撃的な出会いがありました。ひときわ目を引くカラフルでポップな空間。神奈川県平塚市にあるstudio COOCA(スタジオ・クーカ)の作品ブースでした。
どこか不思議で、ユニークで、そして生命力みなぎる作品の数々に惹きつけられました。
このスタジオは誰のどんな思いがカタチになった場所なんだろう?
そこではどんなアーティスト達が創作活動しているんだろう?
スタジオクーカのことをもっと知りたくて、神奈川県平塚市にある工房にお邪魔しました。
海風香る湘南にある、ちょっと変わった福祉施設
『studio COOCA』(以下、クーカ)は、障害のあるアーティストが自分の得意分野で活躍し、仕事を得ることを目的に活動する福祉施設。
扉を開けて、まず目に入ってきたのは、アーティストがそれぞれの方法で独創的に作品を生み出す、なんとも自由な空間でした。
studio COOCAとは
2009年、平塚市にある社会福祉法人「湘南福祉センター」のアート部門が独立する形で立ち上がりました。ここでは障害のあるアーティストが、日々スタジオで制作活動をしています。絵を描く人、オブジェをつくる人…何をするか、何を作るかは完全に本人の自由です。スタジオ1階の店頭や展示会で、バッグなどのグッズ販売もしています。
まずは、クーカ代表の関根さんに
お話しを伺ってみました♪
好きなことを仕事にしようぜ!
関根さん、こんにちは!
まずは、クーカの目的を教えてください。
クーカ設立の目的は、障害のある人々が、自分の好きなことや得意なことを仕事にしていくことです。「与えられた仕事をする 」というより、「好きなことを仕事につなげていく」というイメージです。
うちが障害者の就労支援を始めたのは30年ほど前ですが、 当時は、“障害者雇用”について、企業側も学校側もどうしたらいいのか分かっていませんでした。
「とりあえず単純作業だったら、彼らでも出来るだろう」という風潮でしたね。
就労の選択肢としてはボールペンの組み立てなどの軽作業がほとんど。
企業側もどんな仕事を与えたらいいのか、学校側もどんな就労支援をしたらいいのか、色々と分からない状況下でみんな四苦八苦しているようでした。
「あまりにも障害者の仕事の選択肢が少ない。今ある仕事に限らずに、彼らの可能性をもっと活かした選択肢をつくるべきじゃないか」 という思いから、利用者の方々に「好きなことをやってみようよ」と呼びかけることにしました。
ところが、利用者からはやりたいことが一つも出てこなかったんです。「どういう仕事に就きたいの?」と聞いた時に、みんな「ボールペンの組み立てがやりたい」というような感じでした(笑)。
次に、利用者のご家族の方たちに「家で何をやっていますか?」と聞いてみると、「何か描いていますよ」と言う方がいた。ノートを見せてもらったら、独創的な絵や字で埋め尽くされている。そんなケースがいくつも出てきたんです。
彼らのこの“表現”を、事業としてやってみようか!というのが全ての始まりでした。
そうしてアート事業を始められたのは、いつ頃のことですか?
1992年頃です。当時、障害者アートの活動をしている施設は、おそらく全国でもあまりなかったと思いますね。
陶芸などの作業を行う工房をもつ施設はありましたが、アート作品として売り出すという風潮はほとんどありませんでした。
ですので、社会に受け入れられるまでには時間がかかりました。
まず一番最初に反対されたのは、子供を施設に通わせているご家族の方です。
「遊ばされても困る。1時間に1本でいいから、ボールペンを組み立てられるようにしてくださいよ。それこそが生産活動だ。」なんていう反応でした。
また、始めは作品を福祉展に出展していたんですが、人々の反応がとても悪かったんです。
ほかの工房は、織物だとか陶芸だとか、わかりやすい生産活動だったんです。そんななかうちは、自由に描いた絵を展示していた。
会場の誰も“アート”を理解できませんから、うちの作品は「障害者が遊びで作ったよく分からないもの」と捉えられてしまったんです。
だから「福祉展ではなくちゃんと作品展の場で出していこう」と方針転換しました。
銀座のギャラリーの展示会などに出品するようになると、芸術への知識がそれなりにある方々から高い評価をいただくようになり、作品も売れるようになったんです。初めて作品が売れたんですね。
初めて作品が売れたとき、驚いたのは親御さんですよ。
「関根さん、こんな物は捨てるしかないと思ってましたよ。売れたんですね!」というような反応です。
社会に評価されることで、まず親御さんの考え方が変わったんですね。
なるほど。それまで既存の「生産活動」という概念に縛られていた障害のある人の「家族」の人たちが、本人の可能性に気がついたんですね。
アーティストのみなさんの
制作風景をのぞいてみよー♪
それでは早速、個性溢れるアーティストの世界へ足を踏み入れてみましょう
Sayaka Yokomizo
横溝 さやか
カラフルな世界に住む、愛おしいキャラクター達
描くキャラクター1人ひとりの制作やストーリーまで考えて、カンバスに描いていくさやかさん。
ライブペインティングでは、その場にいる人を絵の中に登場させるという、ワクワクしたパフォーマンスも。
オリジナルの紙芝居も制作し、ひとり何役もこなす多才さ。
趣味は、海を散歩すること・競馬・世界名作劇場。
「わたしの夢は、もっと立派な画家になることです。街の中にある、みんなが見てくれるような大きな壁画を描きたいんです。」
スタッフさんからのコメント
横溝さんは、“アートを通して変わった”作家さんだと思います。
このスタジオに来た当初、彼女は自分の世界にこもり、あまり人とコミュニケーションを取りませんでした。
しかし、他の作家さんとの交流や制作活動をしていくうちに、外の世界に関心を広げていったんです。
今は作家としてのプロ意識がすごい。絵の注文を受けると、締め切りに向けて黙々と制作していますね。
Tomohiro Tsuburaya
円谷 智大
溢れる動物への愛情
小さい頃から動物を描き続ける動物大好きアーティスト。 丁寧でのびやかな線、愛らしい動物たちの目から作家の動物愛を感じます。 ドーナッツやチョコレートなど、美味しそうなオヤツをサイドテーブルに置いて制作活動をしていました。
スタッフさんからのコメント
彼の創作の一番のモチベーションは、純粋に動物が好きなこと。物心ついた時からずっと動物を描いているそうです。 絵が売れた時は相当嬉しいはずですが、本人は結構冷静ですね(笑)。
Taro Tsuji
辻 太郎
とにかくシャチが大好き。代表作はバリエーション豊富な熊手!
代表作は『辻太郎招福熊手』。かれこれ数年作り続けています。
クーカの販売ブースには、手のひらサイズから特大サイズまで、様々な種類の熊手が並んでいました。
「熊手を作る時は、熊手を受け取った人のことを想いながら作っています。今後はアートだけではなく、自分の作品の売上を寄付するなどして、海洋生物の保護活動もやりたいです」
他にも、大好きなシャチをはじめとする海洋生物をも数多く描いています。
スタッフさんからのコメント
とにかく「好き」を追求している作家さんです。
熊手を売る時に、辻太郎さん自ら祈願をしてくれるんですが、それが独特な世界観で面白い。ファンも多いんです。
Yoshimi Moriyama
森山 幸美
ふと目にした「ザ・テレビジョン」の表紙のレモンなんかもモチーフになっちゃう
ただのレモンも、森山さんの手にかかれば、ポップでお洒落なレモンに大変身する。繊細で細かい柄、色鉛筆で次々と色付けしていくのが森山さんの作風。その高いデザイン性からオリジナルグッズとしても数多く採用されている。
「モチーフはなんでもいいんですよね。インスピレーションがパッと降りてくることもあります」
スタッフさんからのコメント
このスタジオは、1階は賑やかなフロアー、3階は静かに制作したい人のフロアーと分けています。
森山さんは賑やかなフロアで周りの作家達とコミュニケーションをとりながら、制作活動をしています。とても楽しそうですよ。
Masahiko Kumagai
熊谷 将彦
まっ黒なタイプライターも、ボクの世界ではカラフルなタイプライターなのだ
茶色の再生紙にカラフルな色鉛筆で描かれるモチーフは、大好きな汽車や骨董品。
実際には色が地味なものも、熊谷さんの手にかかれば、カラフルでポップなアート作品に大変身。
「タイプライターとか汽車とか古いものが好きなんです。前の作業所は単純作業であんまりおもしろいと思えなかったんです。今は、好きな絵を描けることがなんといっても楽しいですね」
スタッフさんからのコメント
彼は人に自分の作品を見てもらいたいという気持ちが人一倍強い作家さんです。 個展の開催も目指しているので、これからが楽しみですね。
ふたたび関根さんインタビュー♪
『障害者』の価値転換が起こる時代が来るかもしれませんね。彼らには、僕らに見えてないものが見えていますから。
ハンディキャップのある彼らは、いわゆる健常者と違う感性を持ち合わせていると思います。
我々には見えないものや聞こえないものが、彼らには実際に見えていたり聞こえている場合があります。我々には真っ白な壁しか見えないのに、彼らにはその壁に線や図柄が見えたり、ね。
もちろん、それが理由で人とコミュニケーションが取りづらかったりもしますが、それが逆に新たな価値を生み出すこともできるでしょう。
アートというのはもろに「他の人とは違うことが武器になる」ものですよね。
生産性を重視する社会とはまた違う価値観で、彼らにとっては活躍できる領域なんです。
そうすると、「障害者」という呼び方自体になんだか違和感がありますよね。
そうですね。今はもう、「障害」という言葉自体が考え直されていますね。
“障害者”が障害を持っているのではなく、彼らを受け入れられていない“社会”の側にこそ障害があるという考え方になってきているのではないですかね。
例えば、“車いすユーザーである”ということは、個人の特徴の一つであると思うんです。
きっとこれからはそういった個人の特徴は、男女の違いとか、背の大きさの違いとか、それらと同じ様な意味合いになるのではないかなと思っています。
おわりに
これからの未来は、テクノロジーの進歩により人工知能(AI)が人間の代わりに働くことが多くなりますよね。今まで人間が価値を置いていた「生産性」はAIが大幅に改善してくれる時代です。
そんな時代にはこれまで重視されてきた「生産性」とは違う、人間ならではの強みに価値が置かれる社会になるのではないか?そんなことを思ったりします。
人間ならではの強みとは何でしょうか。その強みとは、時には独創性であったり、ひらめき力であるかもしれません。 あるいは、人生を楽しむ力だったり、何かに没頭することのできる能力なのかもしれません。
人々が多様性を大事に、自由に生きる世界。そんな世界がもうすぐそこに来ているのではないかと、ワクワクした期待感で胸がいっぱいになりました。
studio COOCA(スタジオクーカ)
https://www.studiocooca.com/
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