不便な世界を自由に旅する。国際ボランティアにたずさわる車いすユーザー・チョッコさんのお話。
本業のかたわら、数々の国際ボランティアをしてきた“チョッコさん”こと辻直子さん。
彼女は先天性の障害で、2歳から車いすユーザーです。
車いすでどこへでも行ってしまう彼女は、これまでにアメリカ、カンボジア、タイ、スリランカなど様々な国に渡航した経験を持つ。
なかでもお気に入りのカンボジアへは、なんと5回もリピート渡航しているのだとか。
そんな車いすで世界を飛び回り、ボランティア活動に携わるチョッコさんに、ぜひお話を聞きたい!というわけで、チャリツモオフィスにお越しいただいたチョッコさんに、チャリツモライターの私、UniversalMovement(UM)がインタビューしちゃいました!
彼女の行き先は、電気も不安定で道路も未舗装の村々。
チョッコさんが国際ボランティアを始めたきっかけは、何ですか?
大学でたまたま受けた「国際児童福祉」関連の授業がきっかけで世界情勢に関心を持ち始めました。
もともと東南アジアに興味があったのですが、途上国の福祉に関する授業を通して、東南アジアの明るさの裏に存在する、数々の問題を知りました。
例えば、親のHIVを理由に親から引き離される子ども達がたくさんいるということ。子ども好きということもあり、そうした子どもにかかわる問題に胸を痛めました。
今までどんなボランティア活動をされてきたんですか?
実際に活動を始めたのは社会人3年目になった頃。
「仕事だけで、毎日同じような生活を送っていていいんだろうか」という思いがふと降りかかってきたんです。
そこで参加したのが、児童人身売買の防止に取り組む認定NPO法人かものはしプロジェクトです。
その他にも任意団体のDream Linkでは、カンボジアに小学校を建設をするというボランティアに参加しました。
現地でも活動されていたんですか?
Dream Linkでは、カンボジアへ渡航し、実際に現地での活動にも参加させてもらいました。
クラチェ州の中にあるターポン村という農村で、小学校の建て替えを他のみなさんと一緒に手伝う事ができたのです。
雨が降ると授業ができなくなるくらいの古い校舎があったのですが、同じ敷地内に新しい校舎を建設するというプロジェクトでした。
1回目に行った時は、まだ建設期間中だったので、作業のお手伝いをさせていただきました。2回目に訪れたときは、学校の開校式でした。
活動を通して、途上国で長く続く貧困は、教育環境の不備とそれによる教育の不足が大きな原因だと実感しました。
「そこへ行けなかったとしても、他の場所へ行けたらいい。」
チョッコさんは途上国と言われるような国にたくさん行っていますね。そうした国の魅力はなんでしょう?
私は不便でも、自然のある土地が好きなんです。物質で溢れていない場所だと、人間同士の距離も近いし、自然と人の距離も近い。そんな東南アジアの魅力にとても惹かれますね。
不便な地での車いす旅、大変なのでは?
カンボジアに行く時、私は物理的なバリアフリーをそもそも期待していません(笑)。 車いす用トイレだってないことが多い。 電気が安定していない場所だと、充電の必要な電動車いすも使えません。 でも、やり方を考えれば道はいくらでもあるんです。
私は「障害」を何かができない理由にしたくないんです。 もちろん、車いすが理由で行くことができない場所があること、これは当然のことだと思っているんです。だから「そこに絶対に行く」という考えは私の中には無いんですよね。 “そこへ行けなかったとしても、他の場所へ行けたらいい”、そう考えた方が楽しいんです。
「宿探しは現地に着いてから。1階の部屋が空いているユースホステルを手当たり次第探していきます。」
どんな宿泊施設に泊まるんですか?
泊まるのは安宿です。宿探しは現地でやります!
もちろんエレベーターが付いていることなんてほとんどありません。だから、1階で空いてる部屋があるか手当たり次第聞いていきますね。
泊まれる宿がみつからなかったことは1度もありません。
飛行機、長時間乗っていると疲れませんか?
あえて経由便を選んで、途中の空港で休めるようにしています。
現地での移動はどうしているんですか?
バスかトゥクトゥクが多いです。もちろん乗降時にスロープなんてないので。そんな時は周りに「ちょっと助けて」と声をかけます。
現地の人も英語が分からないことがあるんです。そんな時はジェスチャーで伝えます。
「ここに私を乗っけて!」「車いすはこうやって畳むんだよ!」なんてコミュニケーションをとります。
大抵の場合、快く手伝ってくれますよ!
荷物はどうするんですか?
車いすの背後に荷物があると、海外だと引ったくりに遭いやすいんです。 だから車いすに乗り、膝の上にスーツケースを置いて移動しています。
今までどうしても解決できなかった、トラブルはありますか?
うーん…ありません!
大体なんとかなりました(笑)。
「カンボジアの村では、そもそも車いすを見たことがない人が多い。だからすごくジロジロ見られる(笑) 。でも逆に、変な偏見がないから居心地がいいんです。」
いろんな国を旅してきたチョッコさんにお聞きします。車いすユーザーとして、日本は居心地のよい環境が整っていると思いますか?
車いすユーザーとしての日本の居心地ですか…言いにくいのですが、それほどいいとは思えないというのが正直なところです。
インフラは比較的整備されていると思うんです。特に途上国なんかと比べたらね。
けれど、まだ人々の心はバリアフリーではない気がします。
決して優しくないというわけではなく、車いすユーザーがまだ特別な存在であってどう対応すればいいのかわからないという感じでしょうか。
例えば、電車の中には車いす専用スペースがありますよね。でも、この車いす専用スペース以外に私がいたら、ヘンな目で見られることもあったりします。そうすると「私って迷惑なのかな」なんて思ってしまったり…。
逆にカンボジアはどこもかしこも物理的なバリアだらけ。けれど人の心にはバリアがあまりないと感じます。
そもそもカンボジアの農村部の人々は車いすユーザーを見たことがあまりない。だから変な先入観がない。それが私にとっては心地いいんですよね。
ほかに日本での車いす生活で困ったエピソードを聞かせていただけますか?
飲食店の入店拒否ですかね。ついこの間も母とご飯を食べに行った時。「ちょっと車いすはごめんなさい」と言われたことがありました。
あと、タクシーの乗車拒否。タクシー側も車いすに車両が対応していないと、乗車を受け入れしてはいけないと思われているのかもしれません。工夫すれば、トゥクトゥクにだって乗れるんですが(笑)。
日本をよく知る外国人が「日本のサービスは素晴らしい。けどマニュアル外の事態になったとたんに最悪になる」という意見を言いますよね。
日本の社会の中では、「車いすユーザー」への対応は、マニュアル外に当たるのかもしれません。車いすユーザーがもっと身近になって、みんなの心がバリアフリーになったらうれしいな。
チョッコさんの夢は何ですか?
東南アジアで、障害児に関わる活動をすることです。カンボジアでは、車いすに乗っている人をあまり見かけないと言いましたが、東南アジアで、障害のある人はどうやって生活をしているのか。それをまず知り、自分ができることから支援していきたいと思っています。
何年かかるか分かりませんが、それが私の一番やりたいことですね!
あとがき
「何かができない理由を探すのではなく、何かをするための手段を探す。」と強く語っていた、チョッコさん。その前向きな姿勢に心動かされました。
こういった考え方は、障害の捉え方に限ったことだけではなく、心豊かな人生を送るためのちょっとした秘訣なのかな、と感じました!
書き起こし:さと みにこ