5年間の電話相談で見えてきたデートDVの実態 [前編]
年々増加傾向にあるといわれる恋人間の暴力「デートDV」。未婚化・晩婚化が関係していることも明らかになってきた。そんなデートDVに苦しむ人たちの悩みを5年間聞き続けている相談窓口がある。その名も『デートDV110番』だ。
昨年末、デートDV110番を運営する「認定NPO法人エンパワメントかながわ」は、5年分の相談記録を分析してまとめた冊子「デートDV白書 vol.4」を作成し、デートDVの実態を公表した。そこで私は、エンパワメントかながわのメンバーにインタビューを敢行した。5年間の相談業務の中から見えてきた「デートDV」の実態、その背景にある問題とは。
支配と被支配の関係性=デートDV
デートDV110番について教えてください
『デートDV110番』は神奈川県と協働で2011年1月8日に開設しました。当初受付時間は毎週土曜日の昼間のみでしたが、現在は火曜の夜も増設し週2回体制で電話相談を受けています。
はじめは彼氏・彼女からの暴力に悩む中高生を対象に、神奈川県内の中学校と高校に電話番号を記載したポスターやカードを配布していました。
2014年10月にWEBサイトを開設してからは、神奈川県内のみならず、全国から多くの相談が寄せられるようになりました。
初歩的な質問で恐縮ですが、「恋人同士の喧嘩」と「デートDV」の違いを教えてください。
「支配と被支配の関係」があるとデートDVだと説明しています。
どんなに仲が良くても喧嘩はありますが、それは意見の違いを折り合っていく過程だと思います。なかにはその喧嘩の中で手を出してしまう人もいる。でも私は一回手を出したからDVだとは思わない。
上下の関係性が固定化されて、入れ替わることがない「支配」と「被支配」。その中で起こる暴力をDVと呼びます。(DV:ドメスティック・バイオレンス=配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力)
学校などでワークショップを行うと、ふざけあって「あっ、DVだ!」となんでもDVと言う生徒がいたりします。もちろん暴力全般をなくすことは大切ですが、なんでもかんでもDVというわけではありません。あくまでも「支配」と「被支配」の関係性の中で起きるのがDVです。
それはデートDVの話だけではなく、いじめもそうです。上下が入れ替わる可能性がなく、常に相手を従わせたり、搾取したり、命令したり。そういう関係性があるかどうかがいじめか否かの違いだと思います。
警鐘ばかりで対応策を教えない啓発ポスター
デートDVが近年増加している背景には、どのような事情があるのでしょうか
ツールの進化が要因のひとつだと思います。
昔は相手の家に電話をして、親に取り付いでもらっていましたよね。男女の交際も、ある意味で親公認でした。
今は高校生でも携帯電話を持って、24時間いつでも繋がっていられる時代になりました。
電話というツールの発達によって、お互いを束縛したいという気持ちを掻き立てられるようになってきたと思います。
通話料が定額になったことで「一日中いっしょにいたいけど、いられないから電話だけはつなげておこうね」と言って、24時間電話し続けている高校生も出てきています。
それは驚くべき変化ですね。
もう一つ大きく進化したのはカメラです。
昔のカメラはフィルムを使っていたので、撮ってもすぐには見れませんでした。撮影したフィルムを写真屋さんで現像してもらって、はじめて写真として見られた。
それがデジタル化により、撮った写真をその場で見ることができるようになりました。さらにインターネットの普及で、SNSや画像共有サイトにすぐアップできてしまいます。
昨年私たちが調査したところによると、10代〜20代の女性のおよそ3割が恋人や知人から「裸や性行為の画像を撮らせてほしい」と頼まれていたことがわかりました。(「性的画像を撮らせて」10代〜20代の女性の3割が経験)
別れた腹いせに相手のポルノ画像などをネットにアップロードする「リベンジポルノ」という言葉も、よく耳にするようになりました。
中高生の中にはSNSへの投稿が、世界中の人から見られる危険性について、深く考えていない生徒が多くいます。SNSが学校や友達グループと同じような閉鎖的なコミュニティだという錯覚に陥って、安易に裸の画像をアップしたり、誹謗中傷を書き込んだりしてしまう。
大人たちの対応も問題で、多くの場合そうした行為を躍起になって禁止する。ダメだダメだと禁止するだけで、実際に起きてしまったときにどうすればいいのかということを伝えていない。
実際に画像がアップされてしまった後でも、できるだけ早く相談したり対応すれば被害は食い止められるにも関わらず、そうした事後的な対応に関してはほとんど情報提供されていません。
いけないことをしてしまった後ろめたさから相談できないケースもありそうですね。
そうですね。そもそも子どもたちは裸の画像を交換することが“やってはいけないこと”だということは言われなくてもわかっているんです。中学でも高校でも携帯電話の使い方講習はやりますし、そこでも散々“やってはいけない”と言われている。
だめなのはわかっているし、取り返しがつかないことになると教え込まれているからこそ、被害にあっても誰にも相談できなくなってしまう。
相談したところで「あんなに警告したのにやってしまったのは、お前の責任だ」と言われるんじゃないかと怖くなりますね。
リベンジポルノに関する啓発ポスターやチラシなども数多く配布されていますが、そこに書かれているのは「裸の画像を送ることは良くない、公開されたら大変だよ」という警告だけ。いざその状況になったらどうすればいいのかは書かれていません。
「諦めないで」とか「相談して」とか「あなたの困り事を聞く所はここにありますよ」とかそういう情報が大切なはずなのに、「人生終わりますよ」という脅しで恐怖を煽るだけのものになってしまっている
実際にリベンジポルノにあって、ネット上に自分の裸の画像が公開されてしまった子は、そのポスターを見て誰かに相談しようとは思いません。
インタビュー後編の内容
10代の若年層に被害が多いと思われていたデートDV。ところが相談窓口に電話をかけてくる相談者の多くは20〜50代の中堅世代だった。中堅世代の女性たちがデートDVの闇に飲み込まれ、そこから抜け出せない理由は何なのか。彼女たちの生きづらさについて話を伺う。