めぐみのひとつぶ vol.1「アトピーになってきづいた体と心、食生活を巡る深いつながり」
はじめまして。せきねめぐみといいます。
東京の片隅で暮らしています。
質素な菜食をし、めぐり巡る日々を生きています。
私は二十代で、アトピー性皮膚炎をはじめとするさまざまな体の不調に出会いました。
この連載は、当時の出口のみえない体験談から始まります。
そして玄米菜食を主とする食養生の過程で気づいていった、体と心と食生活をはじめとする目に見えないさまざまな”つながり”について、じっくり書いてみたいと思います。
私が今暮らしの中で大切にしていることは、自然食を通して体と心に溜まった要らないものを取りのぞいていくことです。
似たような悩みをもつ方にとって少しでもやわらかく背中を押すような読み物になれば、とてもうれしいです。
0.『体と心の過ごした時間〈経験〉と、食生活』
皆さんがもっている、体と心。
もちろんこのふたつは別のものを指しています。
ですが私は、このふたつが全くの別物であるとは考えていません。
すこし極端な言いかたかもしれませんが、便宜上分けられているだけで、本当はおんなじものなんじゃないかとさえ思えるのです。
光があるから影ができるように、体を持つからこそ、私たちには心模様があります。
また心があるからこそ、その持ちようが体を通して表現されていく。
そんなふうにして体と心は一つとなり、私たちの生きる自然界と一瞬一瞬共鳴しながら、またとない〈生〉を誰もが生きています。
〈体〉には、これまでの人生で溜めこんできた余分なものが沢山つまっています。
たとえば老廃物や、よごれや、有毒な成分などです。
いっぽう〈心〉にも、これまで人生というきびしい航海の中でしらぬ間に溜めこんできた、手放したいのにできなかった感情が沢山つまっています。
たとえば、怒り、ねたみ、うらみ、恐怖、後悔などです。
体と心のどちらもにある、これらの〈目にみえないけどあるもの〉もまた、別のものに見えて実は同じものであることが多いのではないかと、私には思えます。
わたしがこのような考えに至った背景にあるのは、アトピーを始めとするいくつかの症状を通して体験した、体と心の深いつながりを感じさせる道のりでした。
またその中で、人生において体と心の過ごした時間〈経験〉と〈食生活のあいだ〉にも、切っても切り離せない深い結びつきがあることも教わったのです。
1.『大人になってからのアトピー診断』
21歳のとき、ダンスやランニングなどの運動をすると、体中に蕁麻疹ができるようになりました。
当時駆け出しの俳優見習いだった私は、微々たるアルバイト収入で暮らしていたため病院に行くお金もなく、症状を無視し続けていました。
24歳のとき、気管支内にできた蕁麻疹が原因で呼吸困難になり、生まれてはじめて救急車を呼んで病院へ行きました。
そして〈アトピー性皮膚炎〉〈運動性アナフィラキシー〉〈小麦アレルギー〉という三つの診断を受けました。
原因をたずねると「不摂生、栄養不足、ストレス過多などが重なり合って生まれるもので、どれと断定することはできない」とのことでした。
健康というものにまったく無自覚に生きていた当時の私には、今いちぴんときませんでした。
そして間もなく、強い副作用を生むこともあるステロイド剤の服用が始まりました。
ところで、私にはアトピーとともに生きる妹がいます。
彼女は1歳の誕生日に重度のアトピーと診断されました。
彼女の人生は決して平たんな道のりではなく、主に母が二人三脚となり、文字通り〈奮闘〉の日々でした。
妹は人と同じものが食べられないため、家族で外食をしたこともありません。
何年もの間痒みで夜も眠れず、血が出るほど掻き続けて全身包帯でぐるぐる巻きでした。
鼻がもげそうなきつい匂いの薬は、ひどく染みて、体が容易に曲げらないほど皮膚がカサカサになったり硬直したりしました。
通学したり、友だちと出かけたりなどの社会活動が難しくなることもありました。
その様子を側でずっと見ていた私は、アトピーの診断を受けて、「自分にも同じような旅が待っているのか」と思い気持ちがずいぶん落ち込みました。
その一方で、どこか他人に起きたできごとのように捉えてもいました。
突如として現れたこれらの課題を自分ごととして受け止めたくなかったのです。
2.『ステロイドさえあれば大丈夫』
パン、パスタ、ピザ、うどん、ラーメン、ケーキ。
大好きな小麦料理を食べられなくなるのが嫌だったし、抗アレルギー剤を飲むと症状が抑えられることもあり、アレルギーと診断された後も私はそれらのメニューを平気で食べ続けていました。
思うように行かない俳優という夢への道のり。
「ステロイドを飲んでいれば体は安定しているから」と言い訳し、溜まっていくストレスを紛らわすため、次から次へと口に入れ続けました。
まるで自分の体がゴミ箱のようでした。
お腹が空いていないのに食べることは当たり前。
一回の食事に五分以上かけたことはありません。
台所に立つのは年に片手で数えるほど。
コンビニのこってりしたチャーハンのおにぎりや冷たいお弁当が大好物。
飲食店アルバイトからの深夜の帰り道、格安スーパーに寄って買ったチーズやソーセージを歩きながら頬張るのが好きでした。
葬式の配膳アルバイトで余った哀しみのエネルギーに満ちた冷たいお寿司をぐったりした体でつまむことは日常茶飯事でした。
お腹が満たされれば日頃のむしゃくしゃした気持ちが鎮まるような気がして、食べ続けないと気が済みませんでした。
自分自身の体の不調を自分ごととして受け止めたくない頑固な私は、その食生活に原因があるなどとは到底思いもせず、好きなものを好きなときに無作為に体に放り込む自堕落な生活を続けました。
たとえちょっとした不調が出ても「ステロイドがあるから大丈夫」。
「怖い薬」だと認識していたはずなのに、その頃の私は容量も守らず、塗ってはいけないと言われていた顔にまで塗るようになっていました。
3.『アトピーは無言のメッセージ』
26歳のとき、夜中に激痛で背中が張り裂けそうになり、2度目の救急車に乗りました。診断は腎臓結石でした。
「ふつうは老人がかかる病気です」とお医者さんは冷ややかに言いました。
その頃もお芝居に明け暮れていたばかりに、自分の生活経済を顧みることはなく、貯金のないぎりぎりの生活をしていました。
結石の処置をしてもらったあと公共交通機関に乗るお金がなくて、真夏の炎天下の下を痛みの残る体をひきずり、家まで2時間ほどの道のりを這うように歩いて帰りました。
28歳のとき、子宮に異常な細胞があると診断されました。
「これが悪くなると、がんになることもあるんですよ。」
目の前に座るお医者さんの口から、たとえ可能性でも「がん」という言葉を聞いた初めてのできごとでした。何が原因なのかわからず、何度も検査に通いながら不安な数か月を過ごしました。
この頃になってようやく「私の体はこのままで大丈夫なのだろうか?」という疑問が湧いてきました。
腎臓結石も子宮の異常細胞も、一見アトピーとは関係がなさそうに見えます。
しかし怖くなった私は改めてステロイドの副作用について調べていくうちに、副作用として腎機能が衰えたり、生殖器に異常が出るなどの症状があると知りました。
それはまさに私でした。
居てもたってもいられなくなった私。。
これまで無慈悲にさんざん痛めつけてきてしまった自分の体にちゃんと謝り、これからは一念発起して真剣に向き合っていかなくてはいけないのではないか。
やっとのことでそう感じ始めたのです。
4.『最後通牒と母の手』
自分の体とちゃんと向き合いたい。
そう決意したものの、私の体はとっくに健康な状態を忘れたまま、何年もの年月を重ねていました。
回復したい、健康な体になりたい。
毎月のように病院に行くことを、なくしたい。
ところが〈健康〉という状態が何なのかさえ分からず、何から取りかかれば良いのか検討もつかずに途方に暮れました。
同じ頃、通院先のお医者さんの心ない診療―患者の目を見ず、質問をしてもはぐらかされ、毎回判を押したようにステロイド剤を処方するだけ―というやり方に違和感を感じるようになっていました。
そして私は何の知識もないままほとんど勢いで、それまで全身に塗りたくっていたステロイドの使用をピタッとやめてしまいました。
間もなくして顔中が見たこともないほど醜く腫れあがり、膿をもった真っ赤な吹き出物が顔一面に広がりました。
痛みと痒みで一睡もできない夜が続く日々。何をしていても痛みと痒みが付きまとい、目の前のことに集中できなくなりました。
その頃決定的だったできごとは、ある名立たるプロデューサーの演技ワークショップに参加した際、演技後のフィードバックの時間に参加者全員の前で「まず色白じゃなくちゃ女優じゃないよ」と言われたことでした。
今振り返れば気にするだけ無駄な偏見発言だと分かるのですが、ネガティブになっていた私は「俳優がアトピーになるべきではない」という自意識に苛まれるようになりました。
常に周囲からの目が怖く、アトピーの自分を恥ずかしい、許せないと責め続けました。
人と会うことも避け始め、やがて気持ちが完全に参ってしまい、仕事もできなくなりました。
最初にアトピーの診断を受けてから、4年あまりが経っていました。
「もうあとがない」
精神的に追いつめられていた私が頼ったのは、母でした。
母は私がアトピーになってからというもの、ずっと心配をしてくれていました。
体に負担のかかる農薬や添加物を使わない安全な食品を送ってくれたり、アトピーの人にも効くと言われる断食施設へ行かせてくれたり、また七号食※という玄米菜食療法をすすめてくれたりと様々に手を差し伸べていてくれていたのですが、それまでの私はどれも本気にしていませんでした。
妹のアトピー治療を薬だけに頼らず自然療法からも模索しつづけた母。
「目の前が真っ暗」状態の私は、そんな母の助けの手を今こそ本気で受け入れて、自分にできることを努力して実践しようと思い始めました。
5.『玄米菜食と回復』
母の助言で始めたのが、シンプルな玄米菜食でした。
玄米とお味噌汁を中心に、野菜や豆を食べる。
肉、魚、乳製品、卵、添加物の入った加工品の摂取はいっさいやめました。
それまでコンビニのおにぎりやスイーツ、スーパーのお惣菜やスナック菓子を好きなときに食べて、自炊をほとんどせずに生きてきた私。玄米や野菜の素朴な味を、はじめは美味しいと思えませんでした。
しかしこの時ばかりは背水の陣。心を鬼にして続けました。
ゆっくり丁寧に食べるように心がけることで、少しずつ素朴な味を美味しいと感じるようになっていきました。
しばらくすると、それまでりんごのように真っ赤に腫れあがっていた顔が、ほんのりピンクの桃色くらいまでにおさまっていきました。
同時にあれだけ悩んだ顔の痛みや痒みがすーっと引いていきました。
心底嬉しい反面、愕然としました。
食べものを変えただけなのに、なぜ体が回復していくのだろう。
そこには理屈ではない自然の摂理や運行のようなものがあるのかもしれない。
説明のしようのない、初めて体験する神秘のようなものでした。
そのあとは水を得た魚のように「回復したい」の一心で玄米菜食をつづけました。
その後数か月で、何事もなかったかのように元通りのつるつるした健康な肌に戻っていきました。
目からうろこ、灯台下暗し、とはまさにこのこと。
〈人は、食べたもので作られている〉。
シンプルな事実を身を以て体験した時間でした。
その頃、新しく通うようになっていた自己治癒力を高める治療を促す皮膚科の先生が「顔の症状はステロイド断ちの典型的なものだね」と教えてくれました。
6.『アトピーによってみえてきた、さまざまな”つながり”』
菜食を続けてもうすぐ3年がたちます。
お米とお味噌汁を中心に置き、無農薬の青菜や根菜をシンプルな調理で食べる。
豆や海藻、乾物、季節の野草などのおかずを、だいたい毎食一品付ける。
梅干しやぬか漬けを少しずつ摂る。
お米はベースを玄米や分づき米にしたり、黒米やひえ、きびなどを混ぜ、気分によってバラエティを楽しんでいます。
お味噌汁の味噌にも豆味噌、麦味噌、米味噌などそれぞれの特徴があり、合わせ味噌にして楽しむこともできます。
質素な食事の中にこそ、無限の豊かさのようなものを発見できます。
このような食事を続けていると、私のアトピーは出てくることはほぼありません。
抗アレルギー剤の服用も昨夏にやめましたが、現在まで調子が良く、穏やかに過ごせています。
食べ物と身体の関係を探るうちに、人の身体と社会との関係に興味を持ち、陰陽五行やマクロビオティックの勉強もするようになりました。
私たちの心と体は、それ自体で成立しているのではなく、自然の一部として、絶えまぬ繋がりの中を繊細に影響し合って生きています。
私は健康な状態を得てはじめて、体と心と食がひとつの環のようになって日々巡っている感覚を知りました。
それは以前の私の食生活が、自分自身のマイナスな感情とつよく結びついたものだったことを理解することでもありました。
苛立ちから、油ののった肉や激辛のものを食べる。
不満や妬みから、こってりした揚げ物をむさぼる。
うっぷん晴らしに、スナック菓子や人工的な甘さに手が伸びる。
焦りにかられて、早食いや大食いになる。
不安や恐怖に襲われて、お腹も空いていないのに何かを口に入れる。
悔しさから、やけ食いをする。
そんなふうにして、心の状態によって食べるものや食べ方が左右され、その〈食〉を通して体の状態が作られていく。体の状態が、今度はまた心に還元されていく。
言い換えれば、食べるものによって体や心のありようが変わってくる、ということだと思います。
マイナスな環からずっと抜け出そうとしなかった私に、しびれを切らした体と心がアトピーという症状で懸命に窮状を訴えてくれた。そのとき初めて、そのネガティブなサイクルからついに踏み出す決心をすることができたのだろうと思います。
今では私は、「何を、どう食べるか」ということは、他者や社会とどう繋がっていくかということであると思えてなりません。
さらにその先には〈どう生きていくか?〉というテーマにも通じているのだと思っています。
どんな繋がりを創造し、大切にしていこうか。
日常という劇場で、これからもこの体と心と共に実験していこうと思っています。
関根 愛(せきね めぐみ)
「アートがどう社会と関われるか」と「じぶんらしく生きるための食養生」が活動のテーマ。座右の銘は「山動く」。俳優歴10年、アトピーによる自然食を始めてもうすぐ3年。台東区のコレクティブRYUSEN112のメンバー。
Youtubeチャンネル:めぐみのひとつぶ -体と心を癒す自然食-
note:せきねめぐみの食養生コラム
Instagram:megumi___sekine