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2019.07.01.Mon

“おうち育ち”な我が家の事情

第11話 学校に行かない選択をした娘たちが挑んだ「ミルクボランティア」という仕事

“おうち育ち”な我が家の事情 vol.11 学校に行かない選択をした娘たちが挑んだ「ミルクボランティア」という仕事

ごあいさつ

hohimaro似顔絵

こんにちは。チャリツモライターのhohimaro(ほひまろ)です。
学校や園に行かず、家庭を主な学び、育ちの場として過ごす三人の娘の母です。
学校に「行けない」日々の末に「行かない」選択をした長女(14歳)と二女(11歳)。
そして「園には行きたくない」としっかり主張した三女(5歳)。
そんな我が家の日常を、心を込めてお伝えしていきたいと思っています!

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路上に捨てられたり、母猫とはぐれたりして動物愛護センターに保護された生後間もない子猫たち。そんな子猫を自宅に預かり、ミルクをあげたり排泄のお世話をするボランティア活動のことを“ミルクボランティア”といいます。
お預かりした保護猫は、カリカリのキャットフードが食べられるようになる生後2ヶ月頃になると、再び施設に戻り新しい家族(里親さん)を待ちます。

私たちが住む市でも3年前、このミルクボランティア制度がスタートしました。
我が家のミルクボランティアデビューは制度開始から2年目の4月、ちょうど猫の出産の季節です。

当時の我が家は、小学6年生の長女と小学3年生の二女がともに不登校、そして3歳の三女が家庭を中心に過ごしていました。

長女は幼稚園入園をきっかけに場面緘黙症(※1)を発症。
二女は8歳の時、分離不安障害(※2)と診断されました。
そしてこだわりの強さを持つ三女は幼稚園などの集団の場を経験することなく育っています。
また3人それぞれにHSP(※3)の特徴を持ち合わせ、生きづらさを感じています。

受け入れた保護猫にミルクをあげている

* *

そんな時、ふと目にした“ミルクボランティア募集”の文字。
「今我が家に必要なのはこれだ」と直感しました。

とは言え、ミルクボランティアの役割は決して楽ではありません。
本来母猫が担う哺乳や排泄を促す行為を、人の手でお世話するのです。お預かりしている間は外出もままならなくなります。
対象になる赤ちゃん猫は生後数日から数週間。 小さい子では100グラム前後の、手のひらサイズです。
動物病院への受診や治療の際、ボランティアが費用を負担することはありませんが、万が一病気などになれば通院が必要ですし、また人に感染する皮膚病などのリスクもあります。

ペットを飼う場合と同じ思いでメリット・デメリット、そして私たちに出来ること・出来ないことを考えました。

考えれば考えるほどメリットが、そして家庭にいる私たちだからこそできることの方が圧倒的に多く見つかり、ミルクボランティア活動を通して得られる学びは価値あることに違いないと思いました。
夫の同意を得て、念のため相談機関にも意思を伝えてアドバイスを頂きました。

その上で、初めて娘たちにミルクボランティアの話をもちかけると、3人の娘たちは迷うことなく大賛成。
同時に、長時間の外出や外泊はできなくなること、どんなに悲しくてもいずれお別れの日がやってくることなど、デメリットについても伝え、それぞれが責任を持ってお世話しようと互いに約束しました。

我が家では当時6年生の長女がリーダー的存在となり、できる限り子どもたち主体でお世話することに決めました。
ミルクボランティア説明会には長女にも出席してもらい、お世話の仕方などについて理解を深めた上で無事登録完了。
あとは、哺乳が必要な赤ちゃん猫が保護されると、各ボランティアへメールで連絡が入るという流れです。

娘たちは子猫たちとの出会いを心待ちにする間、別れの時も覚悟して過ごしました。
ミルクボランティアの役割はあくまでも、赤ちゃん猫の命を救うこと。育てた猫をそのまま飼うことは基本的にはできません。
「命を救うだけでなく、関わりの中で子猫がより人間に懐き愛される猫になるように、お別れのその時までしっかりお世話しよう」
娘たちと強く約束したことです。

初めてうちにやってきた保護猫ちゃん兄弟

* * *

そして記念すべきミルクボランティア 第1期生としてやってきたのは、生後間もない二匹のきょうだい。
羽のように軽く、ふんわりとした毛並み。やっと開いたガラスのように透き通る瞳。

しかし、かわいらしさに見とれている暇もなく、忙しいお世話がスタートしました。
数時間おきにおしりを刺激して排泄を促し、哺乳瓶でミルクをあげます。
ミルクの量や体重、排泄の回数などの記録も大切な仕事。
また、小さい頃は病気でなくても下痢をしやすいので、清潔を保つことも重要になります。

娘たちは生きることに懸命な小さな命に真剣に向き合い、日に日にたくましくなりました。
自然に早起きになり、子猫が寝ている間にちょっと公園にでも…と外出の機会もむしろ増えました

体重が500グラムほどになると、トイレでの排泄が自力でできるようになり、キャットフードをふやかした離乳食も開始します。
次第に動きも活発になり、起きている時間は部屋中を駆け回り、じゃれあって遊ぶようになります。

ひらめきタイプの長女は、得意を活かし猫用のハンモックや猫じゃらしなどを手作りし、それらは歴代の子猫たちに絶大な人気を博しています。
完璧主義傾向の二女は子猫の成長の記録を欠かさず丁寧に残します。
末っ子の三女は時々子猫にやきもちを焼きつつも、まるで小さな妹や弟ができたようにかわいがってくれるのです。

長女がつくった保護猫の兄弟のおもちゃ

手のひらサイズだった子猫たちが、日に日に大きくなるのと一緒に、娘たちの表情もとても柔らかく、元気になりました。
気づけば、子猫と共に過ごす間、長女のパニックが起きることもありませんでした。

そして生後約2ヶ月齢、子猫たちの体重は1キロを越しカリカリのキャットフードが大好きになる頃、いよいよ訪れるお別れの時。
覚悟していたつもりでも、納得済みの約束でも、これが子猫たちのためだと分かっていても、やはり別れは辛いもの。
たった2ヶ月でも共に過ごした時間は特別で、ずっと以前から私たちの家族だったような子猫たちとお別れしなければならないのです。
ミルクボランティアとしての自分たちの役割を必死に理解しようとしながら、娘たちはたくさん泣きました。

この別れの経験もきっと素晴らしい学びです。

保護猫の兄弟と遊ぶ様子

* * * *

私たちはこれまでたくさんの子猫のお世話をさせていただき、たくさんの経験をさせていただきました。

子猫が感染すると致死率はほぼ100%と言われ、しかも大変苦しい症状を伴うパルボウィルス感染症の検査が陽性反応を示したこともありました。
獣医師から容体の急変と最悪の事態が予想されるとの告知を受けた時、一緒にいた長女は目の前が真っ暗になったと言います。
しかし、帰宅を待っていた妹たちには、冷静に、ショックを与えないようしっかりと言葉を選び説明してくれました。
幸い、というより、獣医師さんには奇跡的だと言われましたが、子猫たちの症状は下痢だけにとどまり、その後健康状態にも問題なく、後日受けた検査の際にはウィルスは体内から消失し無事里親さんに迎えていただきました。
(ただし、室内に残るパルボウィルスが死滅するまでには時間がかかるので、そのシーズンの新たな受け入れはストップしました。)

また、きょうだいで過ごす場合と一匹の場合の違いも興味深いものでした。
きょうだい同士だと冒険心がとても旺盛です。
一匹が切り拓こうとする道をほかのきょうだいがじっと観察し、後に続きます。
じゃれあいの中で節度を学び、噛む力の加減が上手になります。
体を寄せ合い眠り、そのぬくもりがほしいのか、人の膝に乗ってきて寝るのも好きです。
一匹だけで育った子は、とても警戒心が強く、身を隠せる場所で眠ります
相手がいないので人間の足や手を遊び相手にするのですが、加減が分からず噛む力が強いです。
人と一緒に遊ぶのは好きでしたが、あまり甘えてくることはありません。
そのかわり、家族全員をたった一匹で独占できるので当然関わりは深く、特別な存在でした。
(我が家でお世話した猫の場合です。すべての猫がそうだというわけではありません。)

ある時の3きょうだいは、1匹だけがどうしてもキャットフードを受け入れず個体差も出ていました。
娘たちは管理センターへ返すまでに何とか自力で食べられるようにしてあげなきゃと、柔軟な発想であれこれ工夫。
離乳食をストローに詰めて吸わせてみたり、せめてお皿からミルクが飲めるようにと、自分たちも皿にお茶を注いでペロペロと舐めて子猫に手本を見せたり…。
結局その子はお返しする日まで哺乳瓶を外せず、センターの方に相談したところ、「甘えですよ〜!他の猫を見てすぐに食べるようになるから大丈夫!」と、なんだか、クラスのみんなと同じようにできなかった娘たちについて先生方に言われていた言葉みたいで苦笑いしたものです。

数え切れないほどの思い出と、かけがえのない経験、そして役目を果たすという責任感、必要とされる実感、何かの役に立てているという自信。
そして、様々な感情が押し寄せても、変わらずそこにいてくれる存在。
すべてはまさにセラピーです。

アニマルセラピーとは

動物介在療法(AAT)と動物介在活動(AAA)を合わせて、日本で造語された言葉と思われる。動物介在療法では、動物と一緒に運動などを行うことにより、患者の興味ややる気が高まり、治療効果が上がる例もあるとされている。それ以外の医療・福祉面での動物介在の効果として、心臓病患者に対する効果、高齢者の運動と健康促進への効果、人間の精神的健康への効果、小児病棟などにおける患者の精神的サポートなども知られている。

(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」より/コトバンク掲載
保護猫はうちの鳥とも仲良しの

* * * * *

ミルクボランティアを卒業した子猫たちは、この後、採血検査、予防接種、マイクロチップ装着の処置をしてもらい、最適な環境のもとで新しい家族を待つことになります。
条件に見合う譲渡希望者には、講習や実際に飼う場所の訪問調査などが義務付けられます。
動物愛護管理センターの方々は、一度捨てられ保護猫となった子猫が、二度と悲しい目に合わないために、慎重に愛情を込めて育ててくれる家族の手に渡るよう、努力しているのです。

これまでに我が家では合わせて14匹の赤ちゃん猫をお預かりしました。
今シーズン、令和初のお預かりとなった2匹は皮膚病にかかってしまい、現在動物愛護管理センターで治療中ですが、そのほかの12匹は全て新しい家族に無事迎えられました。

この2年間の活動で娘たちはとても成長しました。
はじめの数回はお別れの度に泣いていた長女は、「どうしても飼えないのか」と訴えることもありました。
しかし長女は「泣いても子猫を飼えるわけじゃない。別れが近づくのを悲しんで過ごすより最後までたくさん笑顔で過ごして、また次の出会いを待つ方がいい」と気づくようになり、今では別れの時期に、妹たちの心のケアも買って出てくれます。

分離不安障害のある二女は、家族同然の存在になった子猫たちがいなくなると、分離不安の症状が出て、別れの前後は体調を崩します。
「子猫と別れる時、また具合が悪くなるのは不安…」
そう言葉にし、自分の状態を冷静に予想することができるようになりました。
それでも「一緒に居ると自分を元気にしてくれるから」と引き続き受け入れを希望しています。

まだ事情が理解しにくい三女には、「子猫のママが見つかったらママに返すんだよ」と教えています。
いつも「このまま家族になれたらいいのに…」と寂しがりますが、お別れの時には、「さみしいけど、ママに会えるならよかったね。私もお母さんとはぐれるのは嫌だもん!」と優しい思いやりの気持ちが芽生えました。

保護猫

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環境省によると2017年度に動物収容施設に保護された猫は6万2,137頭
そのうち3万4,854頭が殺処分されました。
(※環境省 統計資料「犬・猫の引き取り及び負傷動物の収容状況」より)
その大半は、お母さんにミルクをもらったり排泄を手助けしてもらわなければ生きられない赤ちゃん猫です。
手がかかる赤ちゃん猫を収容施設のスタッフだけでお世話することは難しく、殺処分の対象にならざるをえないのが現状なのだそう。

私の住む市では、ミルクボランティアの取り組みがスタートしてから2年半で、160頭の子猫が新たな飼い主のもとで暮らしはじめることができました。
ミルクボランティア制度がなければ救うことのできなかった命です。

かつてペットショップで出会った子犬との生活を夢みた長女に、今の気持ちをたずねると、こう答えました。

「あの時は殺処分される子猫や子犬について知らなかった。もし、これから犬や猫を飼う日がくるとしたら、私は保護された子を飼いたい」

さらにこうも言いました。

「あの時はいろいろ考えたつもりだったけど、ミルクボランティアを経験してみて、自分は何も分かってなかったんだなって気づいた。命に関わる病気や、人間にうつるような病気になった子猫をお世話してみて、簡単な気持ちではペットを飼うことはできないことを知った。」

今のところ我が家では、ペットとして子猫や子犬を飼うつもりはありません。
正しくは飼えません。 家族も同じ気持ちです。

ミルクボランティアの子猫たちとの別れが近づくと、このまま飼えないのかなと私でも感じてしまいます。
でも子猫たちはいつまでもあどけない子猫ではありません。
元気に見える子猫でも、病気になることはあり、治療にかかる金額は大きいです。
下痢や皮膚病になった時、体を洗ってあげるのですが、手袋や長袖を身につけても尖った爪で腕には小さな傷がたくさんつきました。
皮膚病には、気をつけていたつもりでしたが家族全員が感染してしまい、子猫は収容施設で、私たちは皮膚科に通い治療を続けています。
それでも、命を守ることを途中でやめることなんてできないのです。

ペットショップで売られる小さな可愛らしいペットを見ると、愛情さえあれば育てられそうな気がしてしまいますが、現実はペットと関わる時間的、金銭的、精神的ゆとりも必要です。

不幸な猫を増やさないために私たち人間ができることがあります。

尊い命を衝動買いをしないこと。
不妊去勢手術を実施すること。
屋内での飼育(おいしいごはん、きれいなトイレ、安心して眠れる場所、上下運動のできる設備さえあればネコは家の中だけで十分に満足して暮らすことができる生き物なのだそうです)。
そして、命あるものへの感謝を忘れないこと。

大きくても小さくても、
強くても弱くても、
健康でも病気や障害があっても、
好きでも嫌いでも、
長くても短くても、
全部かけがえのない命。

そんなことを、私たち家族はミルクボランティアの活動を通して学ばせていただくことができました。

丸まって寝る保護猫の兄弟

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学校や幼稚園に通わず、家庭という小さな世界で過ごすことの多い娘たちは「不登校」と呼ばれます。
「ホームスクーリング」という言葉も好きですが、学校の代わりに家庭で学習をしているというイメージがあり、私は少しハードルの高さを感じていました。

しかし、家庭においても「学び」は無限大。
あらゆることから学ぶことはできるし、社会との関わりや繋がりも持つことができるのです。

いつの日か娘たちも、自分の意思で、自分の足で広い世界へ飛び出す時が来るかもしれません。
でも今は、おうち育ちな我が家らしく大いに学び、大いに繋がり、生きる力を身につけながら進んでいきたいと思っています。

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学校や園に行かず、家庭を主な学び、育ちの場として過ごす三人の娘の母です。
学校に「行けない」日々の末、「行かない」選択をした長女(13歳)、二女(10歳)。
そして、「園には行きたくない」としっかり主張した三女(5歳)。
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学校や園に行かず、家庭を主な学び、育ちの場として過ごす三人の娘の母です。
学校に「行けない」日々の末、「行かない」選択をした長女(13歳)、二女(10歳)。
そして、「園には行きたくない」としっかり主張した三女(5歳)。
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船川 諒
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