自分の好きなことを仕事にしたい。憧れの仕事で成功したい。という夢を持つ女性にとって、ロールモデルとなる女性の存在は大きい。
しかし彼女たちのインタビューの内容はその“経歴”に着目されがちで、私たちはその成功の裏にある“ストーリー”を知らない。
彼女たちのストーリーを知ることができれば、私たちはそこから何かを得たり、励まされたりするはず。
この連載では、様々な分野で活躍中の自分らしく輝く女性たちのストーリーを紹介していきます。
ライター紹介
国際人権NGO勤務。博物館学芸員資格保持のファッションオタク。
“Empowered Women Empower Women.”
「スポーツ界と社会を上手くつなげて、それぞれの問題を解決したい」/下山田志帆
子どもの頃の夢は?
サッカー選手。
その時はプロ選手になりたいというよりも、ただずっとサッカーをしたいと思っていました。私が小学校3年生で始めた当時、サッカーは男子しかやらないスポーツでした。
私は男の子としか遊ばない子どもだったので、仲の良い男の子たちに、自分たちのサッカーチームに入らないかと誘われたのが、始めたきっかけです。
ファーストキャリアはどう選んだ?
私は日本の大学を卒業後に、ドイツでプロサッカー選手としてプレーしていました。
大学のサッカー部時代、毎日練習しているグラウンドのすぐ隣に留学生棟がありました。そこに住んでいたドイツ人留学生から「父がサッカー選手とプロチームを仲介するエージェントの仕事を始めるから、最初のクライアントにならないか」と提案され、承諾したら契約を取り付けてくれました。
うちのサッカー部は、卒業後に選手になる人が少なくて、周りはみんな就活をしていました。そんな中、私だけは「サッカーを続けたい」と言い続けていたので、そんな私の姿を見て提案してくれたんだと思います。
いつも「協調性がない」って注意されていて、大学生の頃は、自分の良さを生かすより、自分の弱みを目立たないようにする作業をしていたような気がします。その経験から、自分は日本の会社に入っても上手くいかないのではと思い、人間的な成長も期待して、ドイツでプロ選手になることにしました。
キャリアの中で得た教訓は?
ドイツに住んでみて思い知ったことですが、「自分ファーストは他人ファースト」だということ。
例えば、ドイツのチームでプレーしていてびっくりしたのが、ルールがすごく少ないこと。日本の部活では、髪型や服装に関しては厳しくルールが決められていたのに対して、ドイツでは完全に自由でした。特定の髪型や服装などを強制するルールがあると、誰かルールを破っていないか、他人を監視し始めますよね。でも選択を制限するようなルールがなければ、みんな他の人の選択を尊重していて、お互いの素敵なところを探す目で見ているんです。自分で選んだ髪型や身に着けているものを好きな状態でいると、周りの人の素敵な部分も目に入ってきます。
そうした経験を通して、日本にいた時はいかに自分が組織ファーストで、周りに合わせようと必死だったかを実感しました。自分ファーストは結局、他人を尊重することにもつながり、結果的に良い組織になれるんだと思います。
キャリアの最大の転換点は?
2019年2月に、同性のパートナーがいるとカミングアウトしたことです。それをきっかけに、現在はアメリカのNGO ”Athlete Ally”のアンバサダーを務めるなど、LGBT当事者として発信活動をしています。
実はカミングアウトをしようと決めた時は、「社会を変えたい」という気持ちは全く無くて、ただ自分が周りの人に対してずっと嘘をついているように感じていて、それが本当に辛くて、嫌だったので公表することにしたんです。公表すればもう嘘をつかなくて済む。そんな気持ちでしたカミングアウトでした。
カミングアウトをしたことで、当事者の人や当事者の家族から沢山のメッセージをもらいました。そこで初めて、いろんな人が抱えているモヤモヤや問題点に自分自身も気付かされて、その人たちのモヤモヤを代弁したいと思うようになったんです。
自分がカミングアウトをして、ある意味“見える存在”になったからこそ、社会に対して「当たり前」を問い直すことができるのではと思うと同時に、そこに自分自身の存在意義を感じています。アスリートで、しかも現役の選手である自分が発信するからこそ意味がある。
起業したきっかけは?
株式会社Reboltは、元サッカー選手の共同代表と私自身の悔しさや問題意識から立ち上がった会社です。
女子サッカー選手としてずっとプレーをしてきて、同じサッカーでも男子と女子だと捉えられ方が異なり、自分たち女子選手は価値が低いと思われていると感じることが多々ありました。
自分自身の経験としては、大学時代の進路選択の時のエピソードがあります。同じ大学の男子選手がJリーグでプレーすることが決まった時はみんな祝福ムードだったのに、女子選手には「まだサッカーやるんだ」という反応になる。
実際に私もプロ選手としてドイツから一時帰国した時、大学の後輩の親に「まだ親のすねかじってサッカーしてるんだ」と言われました。自分はプロとしての誇りを持っていたのに、周りにはそう見えているんだと知って、とてもショックでした。
なんで女子選手の方が価値が低くみられるのだろうと考えたとき、男子に比べて、女子サッカー界自体がお金が回らない業界だからだろうと思いました。
今まで女子サッカー界を盛り上げようと頑張ってきたけど、根本的な問題点は、盛り上がらないことではなく、お金が回らないことなんだと気づいたときに、もっと自分たち選手が、お金が回る仕組みを考えなければいけないんだと思ったんです。その仕組みを作るために起業しました。
いま女性スポーツ界で起きているジェンダーの問題と、社会で起きているジェンダーの問題は、実はすごく多くの部分でリンクしています。でも現状ではそれぞれが切り離されて考えられてしまっているし、スポーツ界よりも社会の方が議論が進んでいます。それはすごく勿体ないことで、スポーツ界で起きている問題と社会で起きている問題をリンクさせて、スポーツ界から発信をしたり、自分たちで解決策を生み出せたりしたら、それはすごく大きなパワーになると思います。そうすることで選手自身にも価値が生まれるのではないでしょうか。
会社でのビジネスを通して、スポーツ界と社会をうまくつなげたいし、それぞれの問題がリンクしていることにまずは気づいてほしいと思い活動しています。
女性の多い職場で感じることは?
良い意味で、今所属しているクラブを“女性が多い職場”だとは思っていません。自分たちのことを、女性とか男性とかでなく、人の集まりでしかないと思っています。
女子サッカーチームだから女性らしくいなきゃいけないなんてことは絶対にないし、自分の意思で選んだものをお互いが尊重しているチームが良いチームだと思っています。
自分の仕事の好きなところは?
自分を否定する回数が少ないところ。自分の良いところを見つめていないとできない仕事だなと感じます。
スポーツ選手は、常に結果を求められます。でも、その過程で自分を傷つけたり、周りの人を傷つけたりしても、結果は付いてきません。自分自身を大切にして、周り人のことも大切にして初めて結果を出すことができると思います。
自分自身を大切にするために、褒められた時に謙遜するのではなく、素直に同調したり感謝することを日頃から意識しています。
キャリアの中で経験した最大の成功や誇りは?
成功だなと思っていることがまだ無いです。だからこそ、ここまで続けてこれたんだと思います。
目標を達成したとしても、もっとやりたくなってしまうのがスポーツの面白さだと思います。もっともっとが求められるのがスポーツ選手ですし、「自分ならもっと出来るはずだ」とさらに挑戦したくなるんです。
キャリアや仕事のために払った最大の犠牲は?
快楽。食べたいものを食べられてないですし、遊びたいときに遊べていないです。
私はそれを犠牲だと思ったことはないけど、一般的には犠牲なんだろうなと思います。
会社のことで頭がパンパンになりながらサッカーの練習に行くのも、食べたいものを我慢してパサパサの鶏胸肉を食べるのも、全部ひっくるめて楽しめないと、この仕事はできないと思います。
同じ職種の女性の尊敬するところは?
サッカーに全てを費やしてきている選手たちのことは、同志だと思っています。
10〜20代の本来ならすごく楽しい時期を、私たちは全てサッカーに捧げていて、試合で勝った時のあの喜びのためだけに自分の全ての時間を費やしています。だからこそ、お互いの頑張りをすごく尊敬しています。
リスペクトの気持ちは、他の競技の選手に対しても同じです。女性スポーツ界のアスリートの多くは、男子と比較すれば最低ラインの条件で頑張り続けています。
また、ジェンダーステレオタイプが全面に出ている話になってしまうのですが、男性アスリートがテレビで“家に帰ったら奥さんがご飯を作ってくれている”話をしているのを聞くと、自分たち女子選手は自分のことは自分でどうにかしないといけない立場なんだなと感じます。なので、他競技の選手間であっても、自分たちは頑張っているよねという共通認識があります。
モチベーションを上げたい時の特効薬は?
メンターに相談します。複数人いるのですが、皆さん私がかっこいい大人だなと思っている人たちです。サッカーのことも、会社のことも、LGBTに関する活動についても、全てのことを相談できるメンターです。
私がかっこいいと感じる人たちは、皆さん総じて勉強し続けている方です。若造の自分とも対等に接してくれて、正直に話してくれるところを尊敬しています。
自信をなくしたり苦境に立たされた時の立ち直り法は?
最悪まで落ち込んだ時は、ノートになんで落ち込んでいるのかを書き出します。
落ち込む理由って幾つかあるように見えて、実は本質的には一緒のことが多いと思っていて、そのノートを見ていると、自分がどんな時に落ち込むのか、分かるようになるんです。
あなたが自分らしくいるために大切にしていることは?
感情に素直でいること。「子どもだね」って周りの人によく言われるんですけど、「大人はあまり感情を出さないってことかな」って自分では都合よく解釈しています。(笑)
私は、お互いのために思いっきり怒ったり悲しんだほうが良い場面があると思っています。例えば、私にLGBTへの差別的な発言をしてきた人に、私がその場で怒らなければ、その人は 別の人にも同じ発言をして、また人を傷つけると思うんです。だから、私は自分の感情に素直になって、相手に伝えることを大切にしています。
小学生にサッカーを教えている時に、「彼氏いるの?」と聞かれて、「彼女いるよ」と答えると、気持ち悪いって言われたことがあります。「なんで気持ち悪いと思うの?」と聞くと、「よく分からない」と言われたので、「理由も分からないままに、他人を傷つけるような発言はしてはいけないよ」とその場で伝えました。
自分の性格でいちばん好きなところは?
弱い部分もあるところ。すぐ泣くし、すぐショックを受けて落ち込む。けど、だからこそ他人に優しくできるのかなと思ってます。自分は弱虫だなと認められるようになったところも好きです。
自分の弱さも好きになれたのは、今のパートナーのおかげだと思っています。彼女と出会う前までは、勉強ができることとか、スポーツができることとかで褒められることが多かったのですが、彼女は私の内面を見てくれます。
「優しいね」とか、「映画見てすぐ泣くところが好き」とか言ってくれるので、私も自分の弱虫なところを好きになれました。
パートナーとは5年くらい一緒にいますが、いつも私の仕事やLGBTに関する発信活動を応援してくれていますし、何より一緒に考えてくれています。彼女は私よりもいろんな情報を持っていて、考えている人なので、彼女の意見を私が代弁していることもあります。
夜通し考えてしまうような不安や悩みは?
悩んでしかないです。毎日悩んでいます。
他人にどう思われてるのかを気にしますし、自分のためにやっていたことがいつの間にか他人のために変わってしまっていて、すり減っている自分に気付くことも多いです。
今後の展望は?
私はサッカーと他の仕事を分けて考えていません。自分がしている全ての活動に共通するのですが、社会の「当たり前」に対する違和感や不安感から、過去の自分も未来の子どもたちも解放してあげたいと思っています。
私自身、社会から求められる「女性らしさ」にずっと違和感を感じてきましたし、また自分が好きになる性が女性だと分かった時の不安感は今でも覚えています。そんなマイナスの感情から、過去の自分を開放してあげたいという気持ちもありますし、自分と同じ気持ちになる子どもたちがこれからも出てくることがすごく嫌です。
現役選手だからこそ届くメッセージがあると信じているので、これからも発信を続けていきたいです。
世の中にもっとあって欲しいものは?減って欲しいものは?
もっとあって欲しいものは、個人の「これを選びたい」を叶える選択肢。
減って欲しいものは理由のないルール。子どもの頃からおかしいと思っていて、今でも意味が分からないルールがすごく沢山あります。
「女性はパンプス着用」とか、「女子サッカー部はOBにお酒を注ぐ」とか、暗黙の了解となっているルールに対して「どうして女性だけなの?」と理由を聞いても、誰も答えられないですよね。昔からアタリマエのように引き継がれているルールを問い直すことで、楽になる人が絶対にいる。
個人の選択肢が尊重される社会になってほしいです。