
自分の好きなことを仕事にしたい。憧れの仕事で成功したい。という夢を持つ女性にとって、ロールモデルとなる女性の存在は大きい。
しかし彼女たちのインタビューの内容はその“経歴”に着目されがちで、私たちはその成功の裏にある“ストーリー”を知らない。
彼女たちのストーリーを知ることができれば、私たちはそこから何かを得たり、励まされたりするはず。
この連載では、様々な分野で活躍中の自分らしく輝く女性たちのストーリーを紹介していきます。
ライター紹介

国際人権NGO勤務。博物館学芸員資格保持のファッションオタク。
“Empowered Women Empower Women.”

ジェンダーギャップは大人の学び直しが必要な分野。私自身も日々学んでいます/田中沙弥果

HER STORY vol.07
田中沙弥果
起業家/Waffle CEO
子どもの頃の夢は?
社長。小学生の頃、特に周りに社長や経営者がいたわけでも、誰か特定のロールモデルがいたわけでもないのですが、何となく稼げて自由なイメージがあったので社長になりたかったです。中高校生の頃は特にやりたいことはなかったです。
キャリアに影響を与えた学生時代の経験は?
もともと大学は文系の学部でITや起業とは無縁の環境でした。2013年アメリカ・テキサスの大学にコミュニケーション学専攻で交換留学をしていた時に、たまたま友人に誘われた、サウス・バイ・サウスウエストというイベントがきっかけです。サウス・バイ・サウスウエストは、毎年3月にテキサスで開催されているテクノロジー関連の見本市や音楽・映画祭を組み合わせた大規模なイベントなのですが、そこで体験した電子製品メーカーのブースがとても楽しくて、私もそのような展示に関われる仕事がしたいと思いました。恐らく大手広告代理店や大手メーカーのPRの仕事に就けばそれに近いことはできるのではと考えたのですが、自分が新卒で就職するには難しいだろうと思い、最初はテレビ局のADの仕事を選びました。

自分がやりたいことに気づいたのはいつ、どこで?
そうして東京のテレビ局に新卒で入ったのですが、1ヶ月で辞めました。(笑)入社前と入社後の仕事のギャップが大きく、「これは絶対に違う」と思いました。今思うと環境をすぐ変えることは大切だと感じます。私の場合極端すぎますが‥。(笑)
2014年に退職して地元の大阪に戻ったのですが、1ヶ月で退職した私を雇ってくれる会社はどこにもなく、しばらくは「人生模索中」という状態でした。
自分のしたい生き方ができて、自分の価値をいちばん発揮できる仕事ってなんだろうと考えた結果、起業に興味が湧いてきたので、大阪イノベーションハブなど様々な起業家やスタートアップのコミュニティに顔を出して、起業ってどうすればできるんだろうと模索していました。いろいろ調べているうちに、当時の機運などから起業するならテクノロジー系だろうなと考え、独学でプログラミングを学び始めました。プログラミングで学べる「順序立てて物事を考えること」や「抽象的な考え方」などは次世代に必要なスキルであると感じ、子ども向けのプログラミング教室をやろうかなと考え始めました。しかし起業するにもスキルと経験が足りないと思ったので、まずは起業家の下で働こうと思い、2017年にプログラミング教育の普及活動を行なっているNPO「みんなのコード」に入社して起業家の下で2年間修行しました。

そのNPOで学校に出前授業していたとき、あることに気づきました。小学生の頃はプログラミングへの関心や態度に男女差はないのに、中学生になるとプログラミングイベントやプログラミングコンテストに参加する女子生徒が減るんです。そのことに気付いてから、問題意識を持ち始めました。その後、IT分野のジェンダーギャップを是正する必要性を強く感じ、2019年に一般社団法人Waffleを設立しました。
起業家は自分に向いている職業だと毎日思います。起業はタイミングや運、応援される力が重要だと思うのですが、ジェンダーという応援されにくい分野で多くの人に応援して頂いているのは、上手く人々を巻き込んでいける適性があったからだと思います。

キャリアの中で経験した最大の成功や誇りは?
2020年Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満の30人」に選出して頂いたことです。ジェンダーとITの分野で新しい価値観を提供し、連帯している点が評価され、創業して10ヶ月での受賞でした。IT分野のジェンダーギャップの課題広報をするのがWaffleの目標の一つなので、より多くの人に活動を知ってもらい、この分野に関心を持ってもらえるきっかけになったと思います。

自分の仕事に必須な道具は?
本ですね。ジェンダーに関するデータをすごく見ますし、仕事でジェンダーギャップの現状や問題点を説明する際の説得材料としてよく使います。例えば太田啓子著『これからの男の子たちへ』や、国立歴史民族博物館『性差の日本史』展の図録などを最近はよく見ますね。
キャリアや仕事のために払った犠牲は?
正直、金銭面はきついですね。現実的な話をすると、NPOか株式会社(スタートアップ)かに関わらず、ほとんどの場合事業を起こしてから1、2年目は代表の収入はゼロに近いと思います。投資を受けている方々の場合は最初20万円以下くらいのお給料と聞いたことがあります。
私の場合、Waffle一本のフルタイム勤務になったのは今年(2020年)の8月からで、それまでは前職からの業務委託で仕事をもらったりしていました。
新しいアイディアが必要な時や、モチベーションを上げたい時の特効薬は?
開放感のある場所に行くことです。自然が多くて綺麗な場所で作業すると頭がクリアになるように感じます。
自信をなくしたり苦境に立たされた時の立ち直り法は?
時間が解決してくれるまで待ちます。
今年の2〜4月はコロナウイルスの影響でスポンサー契約が無くなったり、開催予定だったカンファレンスが中止になったり、辛かったですね。でもその中でも助成金に応募したり、できることを淡々としていました。特別なことは何もしないですね。
あなたに影響を与えた本は?
大学生の時に読んだティナ・シーリグ著『20歳のときに知っておきたかったこと』です。クリエイティビティや柔軟な考え方、発想力など今まで学校で学んでこなかったことをこの本から学びました。
視点を広げることやチャンスの掴み方などは今の自分の仕事でも活きていると思います。運がいい人は偶然を起こすための方法を実践している人だと思っていて、私も小さな相談をいろんな人にしたり、こまめに連絡したりしています。そうすることによって周りの人たちの中に私や私がやっている事とのアンテナが立ち始めて、繋がりを作ってくれたり、仕事に繋がったりするんです。

世の中にもっとあって欲しいものは?
もっと増えて欲しいのは学び直しをする大人です。ジェンダーギャップは大人の学び直しが必要な分野で、私自身も日々学び直すことばかりです。ジェンダーについて学ぶにつれ、日本の義務教育で受けてこなかった人権の分野の問題点は芋づる式に繋がっているのだと感じるようになりました。もっと多くの人がジェンダーギャップでも人種差別でも、自分の関心のある分野から学んで、問題意識を持って欲しいです。


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