緊急開催!キャバクラ座談会
新型コロナの影響で、緊急事態宣言が出されてから1ヶ月以上が経ちました。
感染の原因となる密閉・密集・密接のいわゆる三密を避けるため、外出自粛や行動変容を求められる中、飲食店を始めとする多くの店舗が休業に追い込まれ、多くの事業者が廃業せざるを得ない状況に追い込まれています。
今回、真っ先に影響を受けたのは、キャバクラや風俗店などのいわゆる「夜の世界」でしょう。
感染拡大のキッカケとなる「クラスター」の発生源として早い段階からやり玉に挙げられた夜の世界。補償もないまま名指しで休業要請され、多くの店が営業自粛に追い込まれました。
以来、夜の世界で働いていた人々の生活は逼迫しています。職を失った人々は、社会が混乱を極める中で再就職も望めず、貯金を切り崩して暮らす日々。夜の世界に対しての差別ゆえ、公的支援も不十分です。
4月上旬、「子どもの臨時休校の影響で仕事を休んだ保護者に対しての休業補償」の枠組みを決める議論の過程で、夜の世界の住人が補償対象から外されるということが明らかになり、NPOなど支援団体を中心に大きな批判の声があがりました。
批判を受けた厚労省は、一転方針を転換し、水商売・風俗関係者も対象に含めることとし、その後は「全国民へ一律10万円を給付する特別定額給付金」という形にシフトしていきました。
この緊急事態におけるあからさまな職業差別は、為政者や行政のみならず社会全体が日頃から夜の仕事への潜在的な差別意識を強く持ち続ける証左として、大きなインパクトを残したのではないでしょうか。
しかしながら気になるのは、こうした混乱の渦中にいるはずの当事者の声があまり聞こえて来ないこと。
夜の世界の住人たちは今、どんな生活をしていて、どんな想いを抱えているのでしょう?
今回チャリツモでは、そんな夜の世界の当事者の声を聞くため、キャバクラで働く女性3人にオンライン上で集まっていただき、コロナ禍の影響を受けるキャバクラの今を取材しました。
プロフィール
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Aさん
首都圏近郊のキャバクラ店でガール(スタッフである“ボーイ”の女性バージョン)として働く20代後半の女性。
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Bさん
関東の政令指定都市にあるキャバクラ店でキャスト(いわゆるキャバ嬢)として働く30代前半のシングルマザー。
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Cさん
都内のキャバクラ店でキャストとして働く20代前半の女性。
- 聞き手はひもっちです!
座談会
スタート
大学の学費を払うため、鬱で昼職をあきらめて…。様々な理由をもつ人を受け入れる“寛容?”なキャバの世界
ひもっちチャリツモ
本日はよろしくお願いします。身バレしない範囲で構わないので、みなさんの簡単なプロフィールを教えてください。まずは、Aさんから。
Aさんガール
20代後半
私は現在、都内のキャバクラ店でガールとして働いています。ガールというのはボーイの女性版で、キャストのシフト管理などお店を仕切る側の仕事をしています。
Bさんキャスト
30代前半
私は、神奈川県のキャバクラ店でキャストとして働きながら、10ヶ月の子どもを育てているシングルマザーです。
18歳の時からウーロン茶片手にキャバクラで働き、通算14年ほどキャストをやっています。途中、昼職もやっていたのですがどれも2年続きませんでした。
Cさんキャスト
20代前半
私は、フリーランスとして昼の仕事をしながら、夜に都内のキャバクラ店でキャストとして働いています。
ひもっちチャリツモ
ちなみに、みなさんが夜の世界に入ったきっかけって何ですか?
Cさんキャスト
20代前半
私は大学に入学する際、家庭の事情で最高額の奨学金を借りました。それでも足りなかったので、生活費を賄うために飲食店のアルバイトをいくつも掛け持ちし、夜勤終わりに学校に行くという生活をしていました。
しかし、それではどうしても勉強や課題の時間が十分に取れず、このままバイト漬けの日々では大学へ行った意味がないと考え、短期間で生活費を賄うためにキャバクラで働き始めました。
ひもっちチャリツモ
やはり、学費や生活費のために夜の世界で働く学生は多いんですかね?
Aさんガール
20代後半
私もCさんと同じで、大学生の時に複数のバイトを掛け持ちして生活費を稼いでいたのですが、体を壊してしまい家賃や光熱費を払えずに困っていたところ、求人で短時間高時給という文字を目にし、キャストとして働き始めました。
ひもっちチャリツモ
Aさんも最初はキャストだったんですね。大学卒業後もそのままキャバクラで働き続けたのですか?
Aさんガール
20代後半
公務員試験に合格したので大学卒業後は公務員として働いていたのですが、うつ病になってしまい、人事の人から仕事を辞めた方が良いと暗に諭され、退職しました。
少し体調が回復してからは介護施設で働き始めましたが、調子がすぐれず当日欠勤したり、業務中に精神的に辛くなることが何度かあって、結局その職場も辞めてしまいました。
それでも生きるためには働かなければならないので、夜の世界に戻ったんです。
ひもっちチャリツモ
キャストとしてですか?
Aさんガール
20代後半
はじめはキャストとして戻ったものの、薬の影響でお酒を飲めず、「この世界にも私の居場所はないな」と感じていたところに、お店の人から「スタッフとして働かないか?」と誘われ、ガールとして働くことになりました。
昼の世界ではうつ病へ対する理解をあまり得られませんでしたが、夜の世界には私と同じように昼の世界で生きれなかった人たちが多くいる。だから、すんなりと私の状況を理解してくれました。
ひもっちチャリツモ
夜の世界が“その他の選択肢がない人々”の実質的なセーフティネットになっているようですね。
早めに店を畳んで、給料を飛ばす!スタッフを非情に切り捨てるキャバクラ店
ひもっちチャリツモ
新型コロナが流行する前と流行後で、お店の様子はどのように変化しましたか?
Cさんキャスト
20代前半
私のお店は繁盛店で、流行前は出勤調整どころか毎日出て欲しいと言われており、なんの問題もなく順調に仕事をしていました。しかし、3月の半ば辺りから自粛ムードになり、団体のキャンセルが相次ぐようになります。
お客様に連絡を取っても「飲み会禁止令」が出ている会社も多く、お店もガラガラの日が続き、お客様の来店予定のある女性以外は出勤できない状態でした。
3月30日に東京都の小池百合子知事が、バー、ナイトクラブなど接客を伴う飲食業への出入りを自粛する要請を出したのがきっかけで、休業する店が相次ぎ、やむなくうちのお店も休業せざるを得なくなりました。
Bさんキャスト
30代前半
私のお店もコロナ以前は混んでいる店だったのですが、3月の後半から徐々にお客さんが減って、緊急事態宣言が出てからはお客さんが一気にいなくなりました。その後は8つある系列店のうち1店舗に従業員を集めて営業しています。
ひもっちチャリツモ
Bさんも現在、出勤しているのですか?
Bさんキャスト
30代前半
私は出勤していません。小さい子がいるのでうつすのが怖いですし、そもそも子どもを預けられるところがないんです。
これまでは車で片道1時間ほどのところに住む両親に、週3回ほど子どもを預かってもらい出勤していました。今年の4月からは子どもを保育園に入れて昼も夜も働こうとしていたのですが、入園式の翌日から保育園が閉鎖して預けられなくなりました。
こういう時勢なので両親にも頼めず1ヶ月以上仕事には行けていません。
ひもっちチャリツモ
では、どういう人が今の状況下で働いているのですか?
Bさんキャスト
30代前半
私の同僚のキャストは、中高生の3人の子どもを育てるシングルマザーですが、生活のためにどうしてもお金が必要なため、新型コロナに感染する危険を承知で働きに出ています。子どもが大きければ大きいほど、教育費がかかって生活コストもかかりますから。
命をかけてお金を稼ぐか、収入はゼロになるが家の中に籠るのかの2択を私たちは突きつけられています。どちらを選ぶかは個人の自由ですが、進むも退くも地獄という状況です。
ひもっちチャリツモ
シフトに入ってなんぼのキャストにとっては、厳しい状況ですね。
Aさんガール
20代後半
キャストだけでなく、私たちスタッフもコロナの影響で3月分の給料から貰っていません。緊急事態宣言が出される前の3月時点でお店を休業したり潰すお店も増えています。
ひもっちチャリツモ
3月時点でお店を潰してしまうのですか?
Aさんガール
20代後半
今後の見通しが見えずに家賃がかかるので一旦お店を潰すパターンと、3月分の給料をキャストへ払わないために潰すパターンがあります。
夜ならではの方法ですが、グループ系列でいくつか法人登録をしておき、一旦撤収する際に給料を払わずに法人を一つ潰し、別の法人でお店を再開するという方法です。
もっと細かく言えば、同系列のA店の店長がB店の名義人で、A店の名義人がB店の店長というように、お店の店長と名義人を別の人にしておきます。そうすればお店を潰した際にトラブルになって、警察などが来ても「私は雇われ店長で名義人は他にいます」と言えば、注意だけで終わります。
そしてキャストのLINEを全部ブロックして逃げれば、いくらキャストが未払い給与の支払いを求めても連絡の取りようがなく泣き寝入りするしかありません。おそらく日本全国で、お店を潰して給料を飛ばすという行為が行われていると思います。
ひもっちチャリツモ
先ほどAさんが言ってたように、夜の世界は多様なバックグラウンドを持った人がいるため、どんな人でも受け入れられるセーフティネットである一方で、危機になったら非情にも切り捨てられる2面性のある場所なのですね。
グレーな世界の住人は、“生きたい”と望む権利も認められないのか。
ひもっちチャリツモ
臨時休校で仕事を休まざるを得なくなった保護者への助成制度において、当初、風俗業で働く人々が支給対象から除外されていました。この件についてみなさんはどのように感じましたか?
Bさんキャスト
30代前半
そもそも国は私たちの存在を認めていないと思っているので、もともと国からの補償なんて期待していませんでした。だからなんとも思わないです。
夜の仕事をしている人の中には税金を申告していない人もたくさんいると思うので「水商売・風俗も補償に含め」と声を上げたら、逆に収入を過去まで遡って調べられて補償される金額よりも払う金額の方が多くなってしまうという怖さがありますし、声を大にして私は夜の世界で働いていると言えません。
「両親にも飲食店で働いている」と嘘を付いています。もしも私がキャバクラで働いていると知ったら子どもを預かってくれないと思います。
どんな状況でも、誰に対してでも私たちは泣き寝入りするしかないと思います。
ひもっちチャリツモ
Bさんは様々なことを飲み込んで達観視していますね。Cさんはどうですか?
Cさんキャスト
20代前半
支給対象から除外されると宣言された時「グレーな世界で生きているというだけで、最低限で生きたいと望む権利も認められないのか。」と悲しくなりました。
私はまだ子どもはいませんが、パートや事務だけでは子どもを育てていけないから水商売をしているシングルマザーをたくさん見てきました。
以前から社会的に、水商売をする人への差別が存在していると少し感じていたものの、こうも大々的に政府から差別されてしまうと、やり場のない見捨てられた気持ちになります。
これまで心の何処かで「私たち水商売従業者は差別の代償で高い報酬を受け取っているのでは?」と感じてきたけれど、例えそうだとしても、女性の貧困が水商売に向かわせている事実があるのも確かだと思っています。
水商売の報酬を補償しろと言って居るのではなくて、私が欲しいのは一人の人間として生きる最低限のお金です。
ひもっちチャリツモ
夜の世界の人は、「納税していないから補償を受ける権利はない」という意見を目にする一方で、キャバクラのキャストの人が「源泉徴収で10%引かれている」と言っていたのをTwitterで目にしたのですが、そうだとしたら所得税を納めていることになりますよね?
Aさんガール
20代後半
お店や雇用契約の内容にもよりますが、キャストの給料から10%分を源泉徴収としてきちんと引いているお店もあります。そうした場合は、キャストはきちんと所得税を支払っているので「納税をしていない」という批判は当てはまりません。とはいえ、源泉徴収をしていないお店もありますが…。
切羽詰まった状況が、もう目の前まで来ている
ひもっちチャリツモ
営業の自粛が続いていますが、このまま長期化した場合、これからどうするか想定していますか?
Cさんキャスト
20代前半
まだ何も考えられない状態です。私は幸いにもフリーランスとして昼の仕事もしていますが、コロナの影響でそちらの案件も減ったのでかなり厳しいです…。
水商売一本の女の子はさらに厳しいと思いますから、何か救済措置がなければどうなるか…。
Bさんキャスト
30代前半
収入はなくても家賃や生活費でお金は飛んでいきます。貯金を切り崩したり、社会福祉協議会の緊急小口貸付に申し込んだり、政府からの20万円(2人分)の給付金で耐え凌ぐしかありません。それでも持つのはあと1、2ヶ月だと思います。
お昼の仕事をしようにも今の状況では募集がありませんし、もしあっても私たち夜の世界の人間は履歴書の経歴欄が空白になってしまい、「今まで何をしてきたの?」と聞かれてしまいます。
このままお金が尽きると、生後10ヶ月の子どもを家に1人残して危険を承知で夜の世界へ働きに行かなければなりません。それくらい切羽詰まった状況がもう目の前まで来ています。
若い子の中には、パパ活に手を出す子もいると思います。年上のおじさんとご飯食べるだけなんてイメージを持たれるパパ活ですが、そんな甘い世界ではなく、「1ヶ月5回のセックスで10万円」みたいな契約で体を売るのが現実です。まあ、いわゆる個人売春です。違法行為をしなければ生きていけないのが現実ですから。
ひもっちチャリツモ
生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれている人へ対し、「自己責任」と切り捨てる人がいますがどう思いますか?
Cさんキャスト
20代前半
自己責任と私たちを切り捨てたあなたが、もし今の私たちのように、制度から「死ね」と言われても、同じ言葉を自分に対して言い続けられますか?他人に言う前にもう一度考えて欲しいです。
Aさんガール
20代後半
あなたが「自己責任」と切り捨てた社会は、実はあなたのすぐ隣にある地続きの世界なんだと知って欲しいです。少しのボタンの掛け違いで人生は180度変わってしまいます。だからこそ私たちは、自己責任と切り捨てる社会ではなく、誰もが何度でもやり直しが利く社会を築くべきだと思います。
Bさんキャスト
30代前半
私の仕事は自己責任と切り捨てられる職業です。人によっては私の職業を軽蔑しています。でも私はこの仕事が大好きです。キャバクラでお客さんと話している時が、一番のストレス発散になります。だから、あの何気ない日常が戻ってくるのを待ち望んでいます。
座談会を終えて
私はこれまでの人生で一度も夜の世界へ立ち入った経験がなく、ブラックな怖い世界というざっくりした偏見を持っていました。しかし今回3人のお話を聞いて、確かにブラックな部分もあるが、一色でカラーリングできない世界だとわかりました。
自ら好んで夜の世界に入る人もいれば、やむを得ぬ理由を抱えこの場所でしか生きていけないから働いている人もいます。
そのやむを得ぬ理由を作り出しているのは、彼ら彼女らではなく政府であるにもかかわらず、休業補償から夜の世界を排除するのは許されざる行いだと思います。
生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている人がたくさんいるのに、職種によって人と人との間に線引きをすべきではありません。また、自分の両親に職業を打ち明けていない人もいる中で、今回このようなインタビューにお答えいただいた3人の女性には、改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。