就ハラ座談会〜イマドキ就活とハラスメント〜
みなさんは、「就活ハラスメント」という言葉を聞いたことがありますか?
就活に際して採用者と求職者という力関係の中で起こるパワハラやセクハラのこと。
新卒での就活中に訪問したOBに2人で飲みに行かされたり、「一緒にホテルに行くならエントリーシートを書くのを助ける」なんて言われた例もあり、立場の違いを利用した悪質な行為がメディアやネットでも報道されています。
最近の就活ハラスメントの実例
大林組(2019年) | 大手ゼネコン「大林組」の社員(27歳)が「VISITS OB(その後HELLO,VISITSに名称変更)」というOB訪問アプリを通じて知り合った女子学生と喫茶店で面談した後、「会社の事務所で面接指導をする」などと言って自宅マンションに女子学生を連れ込み、襲いかかってわいせつ行為に及んだ。 |
住友商事(2019年) | 住友商事の社員だった24歳(当時)の男が、OB訪問を希望した女子学生を都内の居酒屋に誘い飲食した。その後カラオケ店に移り、一気飲みを強要するなどして女子学生に大量の酒を飲ませ、身体を触るなどした。その後、住友商事元社員は、女子学生が泊まっていたホテルに侵入し、性的暴行を加えた。 |
リクルートコミュニケーションズ(2020年) | 30歳社員がOB訪問アプリ「Matcher」(マッチャー)を通じて知り合った女子学生に睡眠薬を混ぜた飲み物を飲ませた上、性的暴行を加え逮捕された。容疑者の携帯電話からはおよそ40人分のわいせつ動画が確認されていて、他にも複数の就活生が同じ手口で被害に遭ったものとみられている。 |
近鉄グループホールディングス(2021年) | 近鉄の採用担当者が就活中の大学4回生の女性に対し「エントリーシートの添削をしてあげる」などと繰り返し誘い、大阪市内の和食屋で一緒に食事をすることに。食後、酒に酔った女子学生を近鉄の採用担当者がタクシーでラブホテルに連れ込み、肉体関係を迫った。採用に影響が出ると思った学生は断りきれなかったが、その後の選考を通過することはできなかった。 |
就活ハラスメントは採用する側とされる側という非対称な関係性から生まれるものであり、新卒・中途転職の別なく被害者になる可能性はあります。
それでも、やはり傾向としては学生が被害に合うケースが多いよう。「新卒一括採用」の中で「失敗できない」焦りを抱えていたり、社会経験が少ないことでつけこまれやすいというのもありますが、どうやら現代ならではの要因も関係しているようです。
今回はそんな就ハラの実情を知るために、大学生と社会人をまじえた座談会を開催。現代のワカモノたちのリアルな声を通して、就活ハラスメントが続々と生まれる背景を考えるとともに、就ハラを防止のためのヒントを探したいと思います。
プロフィール
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ふなかわ
チャリツモ代表。36歳。大学中退でまともな就活はしたことない。
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ばん
チャリツモのコンテンツディレクター。2016年卒として就活を経験。
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わかな
Voice Up Japan理事。コンサルティング会社勤務。2017年入社。
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ひもっち
チャリツモのヒモジャーナリスト。大学4年生。2020年卒だが、就活はしていない。
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あや
20年卒の大学4年生のチャリツモメンバー。就活を終え、無事内定をもらい、春から社会人。
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もぎー
21年卒の大学5年生。絶賛就活中。
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まゆ
21年卒の大学4年生。絶賛就活中。
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おけ
チャリツモメンバー。大学2年生だが、就活を見据えてベンチャー企業でインターン中。
ここから
座談会!
就活ハラスメントって何?
今日は就活ハラスメントの座談会に来てくれてありがとうございます!
最近よく聞くようになった就活ハラスメントや就活セクハラという言葉、そもそもの定義を教えてください。
その名の通り就活におけるハラスメントのことなのですが、採用者と求職者で上下関係が別れていることが特徴です。
その力の差を利用した、採用者側から求職者へのハラスメント行為のことを「就活ハラスメント」と言います。それがパワハラのこともあるし、モラハラやセクハラの場合もあります。
なるほど、就活セクハラっていうのは、就活ハラスメントの1つの形態なんですね。
そうですね。
ちなみに私は、Voice Up Japanという団体で活動していて、就活セクハラに特化して調査や提言を行っています。
具体的にはどんなことが起こっているのでしょうか?
例えば、この前Voice Up Japanが実施した就活ハラスメントに関するアンケートによると、面接官が女性に対してだけ「結婚時期は?」「彼氏いるの?」と聞いたり、ひどい時は「スリーサイズは?」なんて聞かれることも。ほかにも特定の職種に対して、「これは女性には向いてないよ」と言ったり、インターン先で体を触られる事例もありました。
あとは、今は就活が多様化していてスマホのアプリを使ってOB訪問をする人も多いのですが、プライベートで2人きりになったとき「俺には採用権があるから、これしてくれたら、選考の上に活かせてあげるよ」といってセクシャルなことを要求したり、といろいろです。
恥ずかしい社会人がたくさんいるんですね。
わかなさん自身は、ハラスメントを経験しましたか?
私自身が就活をしたのは少し前ですが、就活ハラスメントはありました。
海外に関わる仕事に漠然と憧れがあったので、海外営業職のある企業の説明会に行ったときです。社員の人と座談会があって「海外営業職に興味があるんですけど」っていったら「あ、うちでは女性は事務しか…」と言われたときは、びっくりして思考停止してしまいました。なんて返したらいいかわからなくて、咄嗟に「そうですね」と言ってしまったのを覚えています。
あとからよく考えてみても、なんで男性限定かってよくわからないですよね。でもその貿易会社では、事務は女性、営業は男性っていう暗黙の了解があったんだと思います。
そういうことって就活生向けのパンフレットとか説明資料には書いてないのですか?
全く書いてないです。Voice Up Japanでのアンケート結果でも同じような経験談が見受けられましたし、そういう企業は結構あるようです。
「就活セクハラ」とか「就活ハラスメント」って言葉が出てきたのはいつからでしょう?
2019年に入ってからですね。いろんな被害が明るみになり、声を上げる人が出てきたので、世間の目に触れるようになったのだと思います。
面接でのハラスメントは表立っていなかっただけで、昔からずっとあったと思います。でも、今はアプリとかインターンとかいろんなルートがでてきて、学生と社会人のプライベートな接点が増えて、ハラスメントが起きやすくなっているのかもしれません。
Z世代の就活事情 その1進化するOB訪問。アプリを駆使して、危険なスタンプラリー
なるほどね。ぎりぎりミレニアル世代※のばんちゃんやわかなさんが新卒での就活をしたのは4〜5年くらい前ですよね。そのころと比べて、今のいわゆるZ世代の人たちの就活事情って変わってきているんですか?
結構違うところもありますよ。今話に出たようなOB訪問アプリとか、ありませんでした。今はアプリがメジャーなんですかね?
だいたいアプリですね。
例えば、今年就活をしていた人の中だと、オファーボックスというアプリがあって。アプリ上に自分のプロフィールとエントリーシートみたいなものまでのせることができて、情報を見た企業は、直接学生にオファーを出せる仕組みになっています。
これまで学生が自分で企業探しをしないといけなかったのが、企業からのアプローチもできるようになって、効率的になったと思います。
そうしたスカウト系のサービスは、私の代(16年卒)の時にもちらほらでてきていましたが、アプリではなくWebサービスでしたね。
私はまだ大学2年生なので、就活をはじめていませんが、先輩は興味がある会社の社員と直接連絡が取れるアプリを使ってますね。アプリ上で検索して出てきた社員と個人的にカフェとかであって、入社するためのアドバイスをもらえるんです。
それを最初に聞いたとき「危なくない?」って思ったんですけど、先輩は「カフェ代も出してもらえるしいいよ」って言ってました。
今年(2019年)くらいから、「インターンに加えてOB訪問もしないと内定をもらいずらい」って言われるようになったと思います。たぶん、そのニーズに合わせて生まれたのがOB訪問アプリ。会社とは関係ない場所で、人事じゃない社員と会える。
でもこのアプリって男友達の間では不評ですよ。男子学生だと、メッセージ送っても無視されたりするんで「これって出会い目的じゃね?」って言ってます。
そうなんだ。社会人側はどういうモチベーションでやっているんだろう。
母校の後輩のため!って熱い想いをもっている人もいると思うし、出会い目的でやっている人もいるんじゃないかな。 でも本当に性別によって反応が違うんです。女友達は結構使っているみたいだけど、会っている相手も男性が多いんじゃないでしょうか。男子には不利なサービスですよ。
実際にアプリを通してセクハラ被害につながった事例もあるんですか?
ありますね。大林組や住友商事などでは実際に逮捕者も出ています。 逮捕者が出た事件に使用されたアプリでは、アルコール禁止などの新たなルールができました。
とはいえ、一度アプリを介して会って、LINEを交換したりさえすれば、いくらでも個人的に連絡はできてしまいますよね。
出会い系アプリと実質あまり変わらないように聞こえますよね。Tinder(有名な出会い系アプリ)と何が違うんだろう…。
OB訪問アプリだと、会社から認定されている人もいるのは大きな違いだけど、認定されてない人もたくさんいます。そのあたりのルールがはっきりしてないですよね。
個人と個人が直接つながれるというのは確かに便利だし、効率的な分、悪用する人も出てくるんですね。でも、そもそもOB訪問ってどうして必要なんですか?
OB訪問自体は結構前からありましたよね。私が就活をした2015年にもありました。その頃は大学のキャリアセンターに登録している先輩に連絡して、その会社について話を聞く、みたいな感じでしたね。必須という空気はなかったけど、商社とか一部の業界では「OB訪問しないと採用されない」みたいな噂がありました。
今でも、就活のシステムとしてOB訪問をしないといけない、ということはないんですが…どれだけWebサイト以上の情報を仕入れられるかが勝負になっているから、できるだけ多くのOBに会って情報を集めないと内定をもらえないっていう空気になってますね。
例えばグループ面接だとすると、5人くらいの学生が並んで質問に答えるわけですよ。みんなが同じWeb上から情報収集してたら、みんな同じ答えになっちゃうじゃないですか。いかにオリジナルでみんなが持ってない情報を出して輝けるかが重要。そのためにOB訪問して情報収集しないとっていうことみたいです。
あと商社とかだと確かに「◯人以上にOB訪問しないといけない」みたいな話はあります。10人以上にしないといけないって噂もありますし。これはみんなが知ってる話だと思いますよ。なんかそこまで行くと、OB訪問のスタンプラリーですよね。
とにかく学生は本当に死に物狂いですよ。インターン先の先輩は、OB訪問に授業にインターンにと、パツパツな生活をしてます。何のためにそんな頑張ってるんだろう…って思っちゃうときがあります。
今は売り手市場ですし、一人の学生が複数の内定をもらいますから、熱意があって、残ってくれそうな人を囲い込む目的もあるのかもしれません。
囲い込み、すごいですよね。早い人だと3年生の1~2月で内定が決まってますよ。それに最終面接で言われるのが「うちで(就活)辞めるよね?」です。3年の1月ですよ?
これ、私たちの頃も「オワハラ(就活終われハラスメント)」って言われてたなあ。
内定が出たらそこから内定者インターン。こういう囲い込み、結構あります。
私のインターン先の会社にも、内定者インターンがいます。でも月に240時間とか働いていて、見ていて「きっついなぁ」って思います。
本当にいつオフィスに行ってもいるんですよ!朝一で着て、終電帰り。立場が上の人とは仲良くなってたみたいだけど、大丈夫かなあ…。
正直そういうの見ると、その企業に対してマイナスイメージを持っちゃいます。
240時間ってギリギリ過労死レベルじゃないかな…。そんなに早くからインターンで働きまくって、ちゃんと卒業できるんですかね。
実際、卒論とインターンでイッパイイッパイになっちゃって、病んで大学をやめちゃった先輩もいます。
インターンと卒論の両立で地獄の4年生。それで留年したら、内定取り消しなんでしょうし…なんかめちゃくちゃじゃないですか?
内定後だけじゃないですよ。3年の秋のインターンとか平日開催が普通です。10月の月曜日から金曜日まで、9時から17時。授業を切ることが前提なんです。
教授もめっちゃ怒ってますよ。学業を優先するか、インターンを優先するかを見られているんだと思います。
とにかくみんな、就活でゼミに来ない。4年生の5・6月のゼミでは、僕と教授のマンツーマンだったことが結構あります。僕は就活しなかったので。
こないだの10月1日も入社式でみんないなくて「あ、1対1ですね」って笑。企業が囲い込みのために学生が勉強できない環境を作っているんですよ。
Z世代の就活事情 その2もはや裏ルートがメジャー?面接解禁時点で5割が内定。
現在、経団連が定めている就活のルールでは、「大学3年の3月から説明会を、4年生の6月から面接を解禁」しています。でも実際は、面接解禁時に学生の半数がすでに内定をもらっているなんて話もあります。
現在2年生のおけちゃんは、焦りとかありますか?
ありますね。私も「何かやり始めないと」という焦りから、1年生の後半にインターンを始めました。
就活が多様化してて、裏ルート※がたくさんあるんです。解禁時より前に、裏ルートで内定が決まっているんですよ。
昔は一部の人が「裏ルート」を使っていたと思いますが、今は「裏ルート」が当たり前になってます。「正直に正攻法で行くほうがバカを見る」っていう雰囲気がありますね。
裏ルートが裏じゃなくなって、マジョリティが早期選考を受けています。
裏ルートってどんなことやるんですか?
よくあるのはインターンからの早期選考ですかね。インターンは表向き「選考につながりません」※と言っていますが、実際は早期選考。「だまされた」って思っている学生も多いんじゃないかな。
早期選考につながるインターンは、1日だったり1週間だったりという短期のものが多いです。
そうしたインターンの中身は、ひたすらグループワークです。めちゃめちゃ時間をかけてディスカッションをやるんだけど、後ろで20人くらいの人事が見てて、メモをとったりしているんです。
思いっきり選考目的ですね。
私の時代には、人材系の企業によるグループディスカッションの講座とか練習会があったけど、そういう講座も受けるんですか?
3年生の6月くらいがグループディスカッションの本番になるんで、その前には大学からも「練習しろ」、「対策しろ」って連絡が来ますね。
合宿みたいに5日間くらいがっつりやるインターンもありますね。男女2人づつグループになることも多くて、学生間でのセクハラ被害も結構聞きますよ。
学生同士でも起こるんかい!
インターンマジックとか、リクラブって言葉もあるんですよ。就活生同士の恋愛のことを言います。
極限状態の中で、恋愛に発展する…吊橋効果かな。
インターンに参加するためには、OB訪問をしない仕組みになっているいけない企業もあります。OBに直接会った際にもらえる、特別なURLから申し込みをしないと、選考に通過しないんです。
だから、3年生の夏くらいからOB訪問しないといけないんですよ。
なんかRPGゲームみたいですね。行き詰まったところで、思わせぶりな町人に話しかけるとヒントがもらえるみたいな。
企業が学生との接点を作ろうとして、プライベートと就活の狭間がなくなってきてます。一回説明会に行くと、がんがん連絡が来ますしね。
リクルーター面談とかもありますね。「キャリア相談にのりますよ」っていう名目で、企業のリクルーターから定期的に連絡が来るんです。そしたら勝手に選考されていて、ある日突然内定が来る。
これは確かに、どこから選考なのか分からなくなりますね。
ルール無用の裏ルート天国だね。
Z世代の就活事情 その3新卒至上主義の中、ハラスメントを受けても「ひとりじゃ戦えない」
さっき、就活生同士のセクハラって話もあったけど、一番問題なのは、やっぱり力関係を悪用したもの。採用者と求職者の間のハラスメントだと思います。
学生同士だったら対等だし、断ることができると思うんですけど、それが採用者になったら…自分の将来に関わるんです。
まゆさんも就活をしていて、そうした経験がありますか?
私は現在就活中ですが、セクハラを受けることはよくあります。でも、それを指摘することはできません。
面接官の社員の人が下ネタを言ってきたときに、どんなに嫌でも相手に面白いと思われるように反応しないと…って思いになっちゃう。
この一言で人生が変わるっていうプレッシャーの中で、やらざるを得ないのは、正直すごくきつい。
自分を殺して、相手に合わせないといけないのは、つらいですね。そこまで追い込まれているんですね。
気持ちに余裕がないです。行きたい会社だったら、自分も下ネタを言ってしまいます。
相手にとっては軽い雑談なのかもしれませんが、「これがどう選考に関わってくるんだろう…」って違和感を感じながらも、プレッシャーに押しつぶされて相手に合わせちゃう自分がいます。
もともと“就活セクハラ”って言葉は知ってたし、それがいけないことだって頭ではわかっていても、実際に就活生の立場なってみると「私一人じゃ戦えない」と感じました。「ここで戦うより、その慣習に合わせないと」って思わされる。
一生に一回のチャンスだし、企業の型にはまらないと自分がはじき出される…こういうプレッシャーがあるんですね。
就活は一過性のものだから、いまだけ我慢すれば…という想いもあるのかもしれないですね。
内定が取れないことがすごく怖いです。卒業した後、無職になって路頭に迷う‥それと引き換えに交渉されているような気がします。
でも、そもそも新卒での就活って「一生に一回」で「一過性」のものなんですかね?
採用のプロセスって、その企業の価値観がでるし、我慢して入社しても、その先そうした文化の中で働くことになるので、本当の意味では一過性ではないような気もします。
学生のうちは「おかしい」と気づけていたものも、いったん組織に入ってしまうと、知らないうちに染まっていってしまったりしますよね。
そう考えると、学生が感じる「おかしい」って言う声に、もっと社会は耳を傾ける必要があるかもしれませんね。
今は人材不足で「売り手市場」とも言われますよね?学生側が会社を選ぶ立場でもあるのに、対等な関係になれないのはなぜなんでしょう?
やっぱり、新卒至上主義がある限り、仕方ないですよ。
僕は4年生だけど就活していないので、卒業したら無職の23歳になります。もう今後、新卒カードを使って就活ができないんです。みんなそれが怖いから、新卒カードを使えるうちに内定が欲しい。だから理不尽なことにもYesと言ってしまうんだと思います。
「新卒が絶対」っていう就職の風習が変わらない限り、学生は下の立場のまま。ハラスメントの構造は変わらないと思いますよ。
新卒でそこそこ大きい企業に入らないと次の転職が厳しいため、そんなに入りたくない企業でも、まず大手を狙う人もいます。半年でも良いから大手で働いて、そこから辞めれば良いと思っているんです。
日本のいわゆる“優良企業”の新卒・中途の採用割合を見ると、圧倒的に新卒枠に偏ってます。中途枠もあるけれど、単に他の大手からの人材を採用しているだけ。結局新卒の時に有名なところに入らないといけない構図になっているんです。
そうなると、学生はどこかの会社に迎合しないといけなくなります。
それほど好きでもない会社でも、就職しないといけないの?僕はいやだな。
みんな、履歴書の空白期間が怖いんです。卒業後に空白があると「ダメな奴」って烙印を押される社会なので、たとえすぐ辞めるとわかっていても、会社には就職します。空白期間があると、“その後の選択肢”が減るんです。
そうか…。僕は空白ばっかりだから、いい会社には行けそうもないな(苦笑)。
そもそも、みんなが考える「良い企業」ってどんな会社ですか?
スキルがつく、若いうちから成長できる、会社に入ったことで選択肢が広がる…そういう企業ですかね。
いつかは辞めるので、できるだけいろんなことが学べるところがいいんです。
昔は「就活は結婚」というくらい、企業と就活生の“ちぎり”のようなものだったけど、そういう信頼関係はもうないんですかね。
僕たちはリーマンショックを知っている世代だし、自分でスキルを持っているほうが安定、というのが定説です。
有名な財閥系の銀行に入るよりも、プログラミングなど自分のスキルを磨けるところのほうがいい。そのほうが結局は安定につながると思います。
すごいおもしろい!「安定」の定義が変わっているんだね。
僕たちみたいな昭和世代からしたら、同じ会社でずーっと雇用されていて、賃金も一定あるいは少しずつ上がってっていうのが「安定」でした。
でもZ世代のみんなにとっては、どこにいっても生きていける“スキル”を磨くことが「安定」につながる。これは大きな違いですね。
じゃあ、正社員の特権のように言われていた“終身雇用”や“年功序列”への期待もないんですか。
考えたことないです。
Z世代の就活事情 その4就活メイク、服装自由の罠、へんな慣習にまみれた日本の就活
ほかにも「これって就活ハラスメントじゃん」って思うことありますか?
こないだ大学で面接時の服装の指導があったんです。そのときの説明がすごくて!「採用者はおじさんが多いので、女子はスカートを履いたほうがいい」っていうんです。
私も合同説明会でびっくりしたんですけど、企業ブースと一緒に「就活メイク講座」があったんです。要は、採用者受けするメイクですよね。衝撃でした。
大学でも公式に「就活メイク講座」をやってましたよ。
迎合してるな~。
スカートを履くか否かで合否がわかれるようなところは、こっちから願い下げですけどね。そう思って自分が就活をするときは、なるべくスカートを履かないようにしてました。 今、就活ヘアを変えようっていうキャンペーンも、盛り上がってますよね。
「服装自由」を謳っている企業も増えてきましたよね。自分の好きな格好で就活成功した例は身近でありませんか?
なんだかんだ「服装自由」「奇抜な格好でOK」っていうところでも、結局ほとんどの人はスーツですよね。
仮に一般的な「就活スタイル」以外で内定をもらった話を聞いても、自分が大丈夫な保証はないじゃないですか。自分だったら安全な方をとってしまう気がします。
制服規定がない高校でも、結局みんなが制服を着ちゃうように、楽だから、就活スタイルになっちゃうんだと思います。
そうかもしれないけど、選ぶ自由があったうえでならいいけど、強要されると話は変わってきますよね。
でも私服OKってところで、本当に私服で来る人っていないよね?せいぜいオフィスカジュアルくらいじゃないかな?
私それで痛い目にあったことがあります。「服装自由」の外資系銀行の説明会だったんですけど、真っ赤なドレスにハイヒールで行ったら、周りはみんなスーツで。
しかもビルの入り口で警備員さんに「間違ってますよ」って止められました。説明を真に受けたら、痛い目に合うなって思いました。
Youtuberとかにやってほしいですね。「ドレスで面接行ってみた」みたいな。
でもそれって、みんな周りの目を気にしすぎている気もするなあ。企業側から何か言われたわけじゃなくて、自分たちで空気を読んでいるってことですよね。就活生同士の同調圧力なのかな。
どうしたら防げる?就活ハラスメント
みんなのリアルな声を聞いて、就活ハラスメントの実態は見えてきました。みんなは、就活ハラスメントをなくすためにはどうすればいいと思いますか?
今就活をしていて、本当に不安定な状況だなって思います。これまで経団連が就活のルールを作ってたけど、今の就活生は経団連に入っていない外資系やベンチャーなどを受けるようになっていますから、実質的にルールが機能していません。だから3年生の9月から、囲い込みが始まってしまう。
「就活自由化」※も、実際は無秩序の中の悪循環だなって思いますね。
そんな中で変わらないといけないのは大学側です。大学のキャリアセンターは旧態依然の就活システムに囚われていて、有効に機能していない。ハラスメントなどの問題にも、大学側が積極的に関わらなければいけませんよね。
大学側にしっかりと意識改革してもらう必要があるんですね。
学生側も、最低限傷つかないための知識が必要ですよね。
私は、今のインターンを探す時もアプリを使いました。でも今日の座談会で、アプリからのセクハラが多いって聞いて怖くなりました。実態を知らないで被害にあう学生は多いと思うから、なにか対策をしてほしいですね。
一部の企業は採用のツイッターアカウントに、アプリのリンクが張ってあります。そこまでくると、学生もアプリを使わざるを得ない。そこにしっかりとルールがあるといいですよね。
就活アプリの利用に関するルール作りが必要、と。
就活で面接を受けているうちに、イメージと現実のギャップに悩んでエネルギーを失って、就活自体を辞めちゃう友達もいました。
選考で何を見られているのかわからないとか、選考の開始が不明確とか、そういうのって疲れるし、時間の無駄。
もっと情報の透明性が上がって、学生と企業がクリアでいい関係が築けるのが理想かな。
もぎーも「正直ものが馬鹿を見る」って言ってたけど、裏ルートがはびこってる現状では、就活生も死にものぐるいで情報を得ようとしますよね。そしてその焦燥感が逆手に取られてハラスメントの被害を受ける。
就活生にもちゃんと情報が開示されて、フェアに就活に臨めるようにしなきゃ。
就活ハラスメントに対して活動されている、わかなさんからもありますか?
ハラスメントをなくすには、多くのステークホルダーにアプローチしないといけません。就活生、大学、企業はもちろん、あとは政府。
職場におけるハラスメントを防止するハラスメント法という法律があるんですが、この法律は労働者のみを対象としていて、就活生は守られていません。「就活生も保護の対象にするべきだ」というパブリックコメントが多く寄せられているにも関わらず、保護の対象から外されているんです。
2019年6月の改正でも、各都道府県にある労働相談グループのWebサイトに「就活ハラスメントの相談もできますよ」って記載されただけ。
そもそもその相談窓口って知られてないし、就活生も聞いたことないよね?
相談所については聞かないし、私だったら、相談したら私にリスクはあるのかな、会社にばれないかなって深読みしちゃいますね。
今の社会では、就活生にとって安全な場所はありません。なので、政府に問い続けないといけないと思っています。
企業に関しては、今でもきちんとしているところはありますが、ルールがなかったり曖昧のままの企業もたくさんあります。社員教育が行き届いてないところも多いので、しっかりルールを決めてそれを守るための教育が必要です。
もちろん、学生側のリテラシーについてもアプローチする必要があると思います。
最後は大学側ですね。大学は学生が所属している組織ですし、OB訪問時の注意喚起をするなど、大学側からの啓発も必要です。
とはいえ、就活自体を楽しいって人もいるんですよ。人それぞれ、いろんな意見があると思います。
なるほど、ありがとうございます。
今日は「就活ハラスメント」の話を通して、その根底にある企業と学生の関係性、若いみんなの勤労観なども垣間見えて、とても勉強になりました。
個人的には、就活制度の改善のためにやるべきことって、昔から変わってないなという印象もありました。
「就活のせいで学問ができない」なんて、もう何十年も前から言われているような気がしますし、ハラスメントもこれまで表に出ていなかっただけで、すーっと昔からあったことなんだろうと思います。もちろんインターネットやスマホが出てきて個人同士がつながることで、より広く横行するようになったとは思いますが。
けど、やっぱりどうして根本的に解決されていないのかっていったら、就活生の立場に立って継続的にアプローチするプレイヤーがいなかったからかな。そういう意味ではVoice Up Japanのように就活ハラスメントについて、社会に訴え続ける活動がとても大切だと思います。
社会に一歩踏み出そうとする人たちに力関係を利用してハラスメントをするって、ホントに最低で卑怯なことだと思います。その事実に、僕たち大人の一人ひとりが気付いて、話し合っていく必要がありそうですね。
あとがき
就活ハラスメントをテーマにざっくばらんに話をした今回の企画。学生たちの本音がさく裂しました。
終身雇用なんて考えたことがない、スキルを付けてキャリアアップすることを当然に考えている…そんな学生たちが、就活時に直面するのは、10年前とあまり変わらない採用基準と企業文化。
アプリやインターンなど、手法は多様になったものの、中身の文化は変わらない。
これまでの枠に囚われず、転職ありきで考えているけど、新卒主義を捨てて我が道を行くほどの自信はない。
こうしたなかなか変われない企業(と大学)と、学生の感覚のギャップが歪みを生んでいるのかもしれません。こうした歪みが見える形になったものが、ハラスメントなのかもしれません。
ハラスメントをしてまで採用した先、ハラスメントを我慢してまで入社した先には、いったい何があるのでしょうか? 企業はせっかく採用した人材を失い、学生は入社した先でもハラスメントにあうリスクを抱え、来年にはまた新たなハラスメントの被害者が生まれてしまうのは自明ではないでしょうか。
就職活動が、学生にとっての制約ではなく、未来につながる明るいものになるために、周りの大人や企業も耳を傾けることが、つまるところ企業や社会全体が前進するために大切なことなのだと思います。