自分の好きなことを仕事にしたい。憧れの仕事で成功したい。という夢を持つ女性にとって、ロールモデルとなる女性の存在は大きい。
しかし彼女たちのインタビューの内容はその“経歴”に着目されがちで、私たちはその成功の裏にある“ストーリー”を知らない。
彼女たちのストーリーを知ることができれば、私たちはそこから何かを得たり、励まされたりするはず。
この連載では、様々な分野で活躍中の自分らしく輝く女性たちのストーリーを紹介していきます。
ライター紹介
国際人権NGO勤務。博物館学芸員資格保持のファッションオタク。
“Empowered Women Empower Women.”
この先自分の仕事がなくなることが理想です/みたらし加奈
HER STORY vol.06
みたらし加奈
臨床心理士
子どもの頃の夢は?
幼稚園の頃はお花屋さん。中高校生の頃はジャーナリストやアナウンサーになりたいと思っていました。社会や政治について中学生の時から関心があって、当事者意識を持って自分のブログに書いていました。ブログでは、投票率の低さや若者の政治参加について、友人たちとは話せなかったことを発信していました。他にも私生活のことや自分自身のメンタルヘルスについてパーソナルなことを書いていて、高校生ブログランキング10位以内に入ったこともありました。
今の仕事を知ったのはいつ?なぜ惹かれた?
臨床心理士という職業を知ったのは、ちょうど大学に進学するタイミングです。大学進学を前に芸術学部にするか文学部にするか考えていたのですが、親友が心理学部を検討していて、彼女から聞いて初めて「臨床心理士」という職業を知りました。結局親友も私も文学部に進学しましたが、そのことがきっかけで心理学の授業を他学部履修してみて、面白いなとは思っていました。ただその時は職業にしようとまでは考えてませんでした。
中高生の頃から社会や政治への関心があったので、テレビ局の報道部や政治部に努めることを目指し,大学生になってからはテレビ局のアルバイトやインターンをしていました。なので就職活動もテレビ局に絞っていました。
自分がやりたいことに気づいたのはいつ?
ただ、ちょうどその頃、知人が統合失調症を患ったと連絡をもらったんです。でもその時に何と声をかけていいか分からず、返信ができませんでした。何もしてあげられなかった自分の無力さに悔しさを感じたのを覚えています。
また、高校生の時に見た、精神病棟が舞台の映画『17歳のカルテ』をきっかけに臨床心理や精神疾患に興味を持っていて、また自分自身も過去の自傷行為から自身のメンタルヘルスを考えることも多かったので、臨床心理の勉強をしようと決めて、臨床心理士の資格が取れる大学院に進学しました。
キャリアの中で経験した最大の成功や誇りは?
私は、臨床心理士として自身のSNSでメンタルヘルスに関する情報発信したり、また同性のパートナーと一緒にYouTubeで自分たちの日常を配信したりしています。私の動画を見てくれた方が、「今まではメンタルヘルスの専門機関に偏見があったけど、行ってみます」とコメントをくれたり、「YouTubeを見ていたら、LGBTに偏見があったけど、普通のカップルと変わらないじゃんと思った」とかメッセージをもらうと嬉しいですね。
情報発信をする時は、決めつけたようなメッセージにしないように心がけています。コンテンツは言い切った方が視聴率は伸びやすいのですが、あえてそれはあまりしないようにしています。決めつけることによって、その枠から外れた人が疎外感を感じたりしてしまうのが嫌なんです。例えば、「女の子が彼氏にしてほしいこと5選」みたいな動画を見て、女性同士のカップルや、恋愛感情を持たない人たちが、それを見るだけで疎外感を感じてひとりぼっちになってしまう人もいます。
また、私は臨床心理士としては珍しく、あえて自己開示※をしています。それは、この人になら相談できる、と思ってほしいからです。自分が自傷行為に悩んでる時、よく知らない大人にやめなさいと言われても、お前に何がわかるんだって思いますよね。また、まだまだ今の日本にはメンタルヘルスに対してスティグマがあって、なかなか精神科に行ったり臨床心理士に相談したりすることが出来ないまま苦しんでいる人も多いと思うんです。
だから自分の個人的な経験もシェアすることで、私になら相談できるなと思ってくれたら良いなと思い、情報発信を続けています。
自分の仕事に必須な道具は?
カウンセリングをする時に必要なのはボードとペンと時間を図るもの。後は相手とコミュニケーションを取れる頭と口。
今後の展望は?
私が理事を務めるmimosasは「知ることで変えられる未来がある」をモットーに、性別やセクシュアリティに関係なく、性被害に遭ったサバイバーが自分を責めず、安心して話せる場所や対処の方法を事前に知ることのできる社会を実現するために、弁護士や医師の仲間たちと一緒に立ち上げました。正しい情報や私たちの活動を知ってもらえるようなコンテンツを作っていくことが目標です。
私個人のSNSなどでの情報発信は、見てくださる方の年齢層を広げながら、メンタルヘルスについてより多くの人に知ってもらえるように活動していきたいです。
正直、この先自分の仕事がなくなることが理想なんです。自分が情報を発信しても、みんなその情報をもう当たり前のように知っている状況になっていて欲しいと思っています。世の中は少しづつでも変わっていると信じて、焦らず、気負いせず活動していきたいです。
あなたが日々大切にしていることは?
常に疑うことは忘れないようにしています。世の中が正しいと言っていることも、自分が正義だと思っていることも、本当にそうなんだろうかと、疑うようにしています。自分自身や社会に疑問を持ち続けられるように、自分の中で検証し続けます。例えばニュースで何かが報道された時に、みんな自分の中で自分は賛成か反対かとか考えますよね。その時に自分が賛成だと思ったとしても、世の中には反対の人もいるだろうし、反対の人の中でも意見は分かれるだろうし、賛成か反対かの二択じゃなくて、含みを持たせることが大切だと思います。全ての物事は0か100じゃないですし、いろんな可能性を持っていることを忘れないようにしたいです。
あとは意識的に休むことです。たとえば今日だけはニュースを見ないと決めて、頭や心を休ませたり。それと同時に、頭のどこかで自分の替えはどこにでもいるって思うようにしています。だからこそ、オリジナルの部分を出そうと工夫できますし、自分が1週間休んだところで、社会は変わらない。自分1人で背負いすぎないように、無理はしないように気をつけています。
自分の性格でいちばん好きなところは?
はっきりしているところですね。嫌なものは嫌、好きなものは好き、そこの感覚が素直で、言語化して人に伝えることもできます。
あなたが自分らしくいるためのモットーは?
無理をしないこと。できないことはできないし、頑張りすぎないことを意識しています。自分像をしっかり持って、自分のキャパシティを把握することが大切だと思います。自分が仕事のモチベーションを最大限上げられるように、3週間に1回は必ず私の臨床心理の師匠のもとに行って、教育分析※を受けています。
あとは、パートナーとの時間を大切にするようにしています。
自信をなくしたり苦境に立たされた時の立ち直り法は?
悩んだり苦しんだりしている時、自分では気づきづらいことだと思うのですが、実は人間は苦しいという感覚自体にはそこまで時間を使っていなくて、苦しみ続けるか、それとも前に進むか、自分で選べるフェーズやタイミングがくるんです。無意識に苦しみ続けていることに気づいて、外に出れるタイミングを持つことを意識しています。今自分は苦しみの部屋に入っていて、今は閉じこもっているけれど、どこかで自分からドアを開けて外に出ることができる、自分が選択肢を持っているんだと知ることが大切だと思います。
世の中にもっとあって欲しいものは?減って欲しいものは?
もっとあって欲しいものは「コミュニケーション」。感覚的な話なのですが、日本に住んでいると、コミュニケーションを取っているようで取れていない人が多いなと感じます。
以前どこかで見た調査で、親友の数は何人ですかと聞かれて、0人と答えた人が1番多かったのですが、それがどこか腑に落ちるんです。
私生活でいろんな友人とお話しする中で、私はいつも通りにコミュニケーションを取ったつもりでも、よく「こんな深い話始めてした」と言われることが多いんです。そうすると、いつもどんな話をしているんだろう…と思うこともあります。
私が中高生の頃に、友達と政治や社会の話ができないと思ってたいたのと同じかもしれません。もっとみんなが家族や友人と深いコミュニケーションを取って、心からの信頼関係を築けるようになってほしいです。
減って欲しいものは差別や偏見です。個人の心の中に偏見が生まれてしまうことは自然なことなのかもしれませんが、実際に人々に向けられる差別や偏見が社会全体で減ってほしいと願います。
“Empowered Women Empower Women.”
5年勤めた製版会社を退職し、フリーランスで活動中。 映画、韓国のカルチャー、猫が好き。
チャリツモの猫たちではビリー推し。
http://kameillust.com/
学生時代、中東地域やインドを中心に旅をしていた。
旅人マインドをもって気ままに生きてる。