
自分の好きなことを仕事にしたい。憧れの仕事で成功したい。という夢を持つ女性にとって、ロールモデルとなる女性の存在は大きい。
しかし彼女たちのインタビューの内容はその“経歴”に着目されがちで、私たちはその成功の裏にある“ストーリー”を知らない。
彼女たちのストーリーを知ることができれば、私たちはそこから何かを得たり、励まされたりするはず。
この連載では、様々な分野で活躍中の自分らしく輝く女性たちのストーリーを紹介していきます。
ライター紹介

国際人権NGO勤務。博物館学芸員資格保持のファッションオタク。
“Empowered Women Empower Women.”

キャリアの為の学びから、人の内面を知る為の学びに/吉岡 利代

HER STORY vol.04
吉岡 利代
国際NGO職員/ Human Rights Watch東京事務所創設メンバー
子どもの頃の夢は?
小さい時はアナウンサーや保育士さん、宇宙飛行士など、なりたいものが色々ありました。その中でも、小学生の頃にイラク戦争やルワンダ難民のニュースをテレビで見たことがきっかけで、何となく人の役に立てるような国際的な職業に就きたいと考えていたと思います。
自分がやりたいことに気づいたのはいつ、どこで?
高校でアメリカに初めて留学して、そのままアメリカの大学に進学したときです。
高校3年生の大学の学部選びの際に、将来何をやりたいのかを具体的に考えて、小学生の頃から国際協力の仕事に興味があったのを思い出し、その分野でキャリアを積めるように、国際関係論を学ぼうと決めました。その頃は国連職員を目指していました。
ファーストキャリアはどう選んだ?
私は大学卒業後日本に帰国して、外資系金融会社の投資調査部に就職しました。
大学4年生の時にボストンキャリアフォーラム※で就活したのですが、当時の私は、国際協力の分野の中で自分は何ができるのかが分からず、どの方向に進めば良いか悩んでいました。国連に興味があったものの、国連に入るのは修士号や就労経験が必要なので、2ステップくらい先の話だと思い、国連に繋がる可能性を高められる新卒として就職し、どこに行っても役に立つ基本スキルを身につけようと考えました。
日本はアメリカと違い、新卒の研修制度が充実していたし、私が所属していた投資調査部は様々な観点から企業を調査して、どう未来予測するかといったことも求められたので、基本スキルだけでなく、世界のことを知る場所としてもとても良かったです。
その後役に立った駆け出しの頃の経験は?
新卒で働いた環境が自分の判断基準になり、スタンダードになっていることですかね。
ハードワークで有名な会社に入社したので、朝6時30分に出社して、20時に帰れたら早い方という感じの働き方をしていました。常に眠かった記憶がありますね。(笑)
新卒として働いた2年間、上司たちを見ながら「この人たちこんなに働くんだ」と思った経験が自分のスタンダードになっていると思います。それだけ聞くとなんかヤバイ人みたいですが‥。(笑)
金融会社退社後に働いた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所での勤務も、2009年から現在まで所属している国際人権NGOのHuman Rights Watch※の東京事務所立ち上げの準備をしていた時期も、ものすごく忙しかったのですが、「これくらいなら当たり前だ」という感じで乗り切ることができたのも、新卒の頃の経験のおかげかもしれません。
キャリアの中で経験した最大の成功や誇りは?
仕事の成果を成功と定義するのなら、Human Rights Watch東京事務所の働きかけにより、日本での社会的養護の面で法律が改正されたことや里親委託率が上がってきたことが挙げられると思います。
でも、最も自分自身の糧になっていると感じることは、仕事を通した人との出会いですね。
Human Rights Watchの活動でお世話になっている方の紹介で、世界経済フォーラムのグローバル・シェイパーズ・コミュニティ※の東京メンバーに選出していただき、2011年から5年間活動していました。社会起業家の方々など、分野は違えど、社会をより良くしていこうとする志や似たようなエネルギー感を持った人たちと出会えたことは、自分の生き方にも影響を与えてくれています。
Human Rights Watchで働いていなかったら無かった機会なので、そうした出会いに恵まれたことが、自分にとって1番の成功だと感じます。

キャリアの最大の転換点は?
2年前にアメリカの大学院に進学したことをきっかけに、1日3~4時間のパートタイム勤務に切り替えました。大学院修了後の現在もパートタイムで働いています。
大学院では、紛争解決の手段を心理学の観点から学んでいました。Human Rights Watchでは、人権問題を法律面で判断・解決することが多いのですが、日々の業務の中で、法律では扱いきれない人々の内面の部分、人権侵害の被害者にはどのような心理的影響が残ってしまうのか、加害者心理はどのようなものなのかといった事に関心を持ち始めました。
以前は国連に入るために役に立つ修士号を取ろうと考えていましたが、次第に人の内面に興味を持ち始めたことから、キャリアの為ではなく、自分の興味に導かれるままに大学院のプログラムを選びました。
また、若い頃は自分が成長し続けることを第一に進んできたのですが、キャリアを積んでいくにつれて、自分には忘れてきた感情があるのではと思うようになりました。
「自分がこれまで歩んできた道は、果たして自分らしさを生かした道だったのかどうか」自分自身に問うようになり、そういった意味でも心理学を学びたいと感じたのだと思います。

あなたに影響を与えた考え方は?
大学院で学んだ、ディープデモクラシー(深層民主主義)です。
自分自身の中にある強い感情・価値観や理念(主流派)だけでなく、現れ出ようとする自分の中の何か(少数派)にも注意を払うことが大切だという考え方で、私はこれにすごく共感しました。
本当の平和とは何か、自分自身の心の平和とは何か、といった事を深く考える上でとても参考になりました。
女性の多い職場で感じることは?
私が所属するHuman Rights Watchは、世界90か国にいる調査員のうち、半数以上が女性です。仕事で結果さえ出せば、それぞれの家庭の事情などに合わせたフレキシブルな働き方ができるので、女性にとってとても働きやすい環境だと思います。
人権問題を扱っているのだから、自分の家族も大事にするのが当たり前だ、といった風潮があるように感じますね。
同じ職種の女性の尊敬するところは?
強さと優しさ。
同僚たちは、人権侵害の調査や資金調達をする時、難しい問題に正面から立ち向かっていくタフさや強さがあります。
一方で、実際に人権侵害の被害者やドナーの方からお話を伺う時の、人の気持ちに寄り添う優しさもあり、その両方をとても尊敬しています。
周りに自分のロールモデルになる人ばかりの環境で、とてもありがたいなと日々感じています。
1日の良いスタートを切るために、朝いちばんにすることは?
ストレッチです。学生時代からの習慣ですね。
国連で働いている時に少しヨガを習ったりしましたが、今は完全に自己流です。(笑)
寝る前と起きた後に、ストレッチや瞑想をして呼吸を整えて、自然と一緒に呼吸をしていくことが理想です。
1日があと3時間増えたら何をする?
金融時代にこの質問をされていたら、確実に「寝る」と答えていたと思います。(笑)
今は新しいことを学びたいですね。人類の歴史は長いのに、自分は知らないことだらけだなと感じているので、哲学とか古典とかの本を読んだりして、今後自分がどう生きていくべきかを学びたいです。
世の中にもっとあって欲しいものは?減って欲しいものは?
減って欲しいものは、勝手なラベル付け。一つの尺度で物事や個人を捉えたり、メディアが実際の0.001%くらいの情報から、人や物事を白か黒か判断したりしているのを見ると、そんなに単純じゃないのに、と嫌な気持ちになりますね。
もっとあって欲しいものは想像力。人間は自分自身の経験から学ぶことが多いと思いますが、時間など色々な制約があり、全てを経験することはできないので、相手の気持ちや立場に立ってみたら、どういう風に見えているのだろう?どんな世界なのだろう?と考えることができる豊かな想像力があれば、争いが減るのではと思います。


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