kame cinema 03『チョコレートドーナツ』

はじめまして。
イラストレーターのkameです。
いつもはチャリツモで社会問題に関してイラストを描いている私ですが、このコーナーではわたしが個人的に大好きな「映画」について書かせてもらっちゃいます!
とは言っても…本数はそんなに観ていない。大して詳しいわけでもない。うまい感想も言えやしない。
ただ映画が大好き!という気持ちだけで、好きな作品のイラストを描いていこうと思っています。
今回紹介する映画は、2012年に作られたアメリカ映画。日本でも2014年に公開され、人気となり、東山紀之さんが主演で舞台化されることでも話題となりました。舞台の公演がちょうど今月から始まるということで、現在舞台化に伴いアンコール上映(2020年12/11(金)-24(木)ホワイトシネクイントにて)も行われているそう。日本公開から6年、また大きなスクリーンで観れるチャンスですね!

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「チョコレートドーナツ」
20年同居していた同性パートナーを殺害された男性に、「同性同士は事実婚と認められない」として遺族給付金が不支給となったニュースを目にした。
わたしはこのニュースを知り、愕然とした。
男と女でしか結婚は認められない、家族として認められない。
20年も互いを必要とし、愛し合い、寄り添ってきたふたりに、ただ「同性だから」。
それだけの理由でどうしてそんな酷な判決を下せるのか。
チョコレートドーナツは、今から40年も前の1979年が舞台のお話である。
母親に見捨てられたダウン症の少年と家族になろうとしたルディとポール。
けれど認められなかった。
ただ、「ゲイカップルだから」という理由だけで。
この当時はまだ同性愛は隠すものだとされ、同性愛者だという理由で職さえも失う。
主人公ルディはショーダンサー。自分に正直に生きようとし、同性愛者に対する偏見は「差別だ」と言う。
しかし、恋人で弁護士のポールは「差別ではなく現実で、同性愛が理解されるなんて理想論だ」と言っていた。
これを聞いて大半の人は、ルディの主張が正しいと言うと思う。
しかし実際はどうだろうか。
彼らが生きた時代から現在も、何も変わっていないのではないか。
恋愛や結婚、家族になるのは本当に「男女」でないと成り立たないのだろうか。
たしかに「子孫を残す」という意味では、同性では不可能だ。
だけど、愛情をもって子供を育て家族をつくる、ということに性別は関係ないとわたしは思う。
わたしは父親と母親に育てられ、幼少期はそれが「当たり前」で「一般的」で「普通」なことだと思っていた。
しかし大人になり、いろんな人と出会い、色々な経験をして色々な作品に触れて、その考えは変わった。
「当たり前」で「一般的」で「普通」なんてものはない。家族の形は人それぞれある。
同性カップルが結婚して養子を迎えて家族をつくる。
男女のカップルが結婚して子供を産んで家族を作る。
その違いは「血の繋がり」だけではないか。
はたして家族に必要なのは「血の繋がり」だけだろうか?
もっとも大切なのは「心の繋がり」ではないか?
この映画の主人公ルディは、ダウン症の少年マルコに惜しみない愛情を注いでいる。
ただ同じアパートの隣の部屋に住んでいただけで、全くの赤の他人だというのに。
「なぜ苦しまなければいけないの?あの子は何も悪くないのに」
その思いだけで、人生をかけてマルコを守ろうとした。
そして何よりもマルコ本人が、ルディとポールのもとにいることを望んでいた。
チョコレートドーナツと、ブロンドのお人形と、ハッピーエンドのお話が大好きな愛らしいマルコ。
育児放棄をした薬物中毒の母親とルディのどちらがマルコにとって必要かだなんて、誰が見ても明らかだ。
この映画の結末を観て、多くの人は憤慨し、遣る瀬無い気持ちになり、そして失望すると思う。
この世の中に「本当に正しいこと」があるのかはわからない。
けれど、当人にとっての「本当に正しいこと」はあり得るのだ。
それを、なぜよく知りもしない第三者が引き裂く必要があるのか。
冒頭で触れた20年連れ添ったふたりも、ふたりにとってはそれが正しく愛情に満ちた生活だったのではないかとわたしは思う。
ルディとポールとマルコは、たった1年とはいえ本当に素敵な家族だった。
性別も血の繋がりも関係なく、家族の愛情は芽生えるものだ。
わたしはそう信じているし、第三者に決められるでなく本人が一番望む生き方をするべきだ。
人生は自分だけのもので、一生に一度しかなくて、人間はみんな平等に死ぬ。
ならば、異性でも同性でも血の繋がりがなくても、本当に最愛の人と生きるべきではないのか。
劇中で、裁判官にルディがこう言っている。
「1人の人生の話だぞ。あんたらが気にも留めない人生だ」
2020年、現代はルディとポールが生きた時代よりは同性愛者にとって幾分かはマシになっているのかもしれない。
けれど、ふたりが今の時代を見たら「まだそんなことを言っているのか」
そう言うとわたしは思う。

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「チョコレートドーナツ」(2012)
監督/トラヴィス・ファイン
脚本/トラヴィス・ファイン、ジョージ・アーサー・ブルーム
あらすじ
1979年、ショーダンサーのルディと弁護士のポールはゲイカップルだった。
ダウン症である14歳のマルコはルディと同じアパートに母親と2人で住んでいたが、ある日、母親が麻薬所持により逮捕され、マルコは施設に送られてしまう。
孤独な少年マルコを救うために、ふたりはマルコと家族になることを誓った。