5通目 ヨハネスブルグのばんちゃんへ/イランからの便り
チャリツモライターで南アフリカ在住のばんと、同じくチャリツモライターでイランに留学中のえな。
仲良しだけど、今は遠く離れているふたり。
そんな二人の文通を、ゆるゆるとご紹介するこのコーナー。
今回は、南アフリカのばんから、宗教や食事についての手紙が届きました。
サラーム(※) ばんちゃん!
お手紙ありがとう。南アフリカの宗教の話もすごく面白そうだね!
「宗教」とか「神様」って、日本ではなかなか感じることが少ないけど、多くの国ではあたりまえに信仰されているものなんだよね。多くの人々にとっては身近な存在なんだなと、日本を出てみるといつも思うなあ。
いろいろな国の宗教についてもっと知りたいなと最近は思っています。今度いろんなところの宗教について、ゆっくりお話しできたらいいな!
そして、こちらイランではペルシャ語の勉強が大変で、毎日毎日ヒーヒー言ってます。
今イランは夏本番。イラン人たちは「道路で目玉焼きが美味しく焼けるよ!」なんて言ってます。
だんだんわかってきたんだけど、イラン人は冗談が大好きみたいでいつも私たちを和ませてくれるんです。
言語の習得は大変だけど、もっと彼らの文化を知りたいなと思って頑張っています。
話は変わるけど、私は留学前にずっと不安に思ってたことが2つあったんだよね…。
それは、半年間お酒が飲めないこととラマダン月(断食月)があること!(※)
ばんちゃんは知ってると思うけど、私は食べることもお酒を飲むことも大大大好きなのでどうなっちゃうんだろうと、とっても不安でした。
これまでの海外経験はどれも短くて、最長で3週間くらい。だから海外のご飯も楽しめてたし、日本食なんて微塵も恋しくなかったけど…、イランに来て3ヶ月が経った今は、ちょっとだけ恋しいです。
今日はばんちゃんも手紙で書いてくれたラマダン月とか、「食」の話を書いていこうかなぁと思います。
まずはばんちゃんも手紙で書いてくれてたラマダンの話からしようかな。
日本でもよく知られているラマダン。よく誤解をされがちみたいなんだけど、ラマダンというのはイスラム暦の月の名前であって、ラマダン=断食ではないみたいなんだよね。
実はラマダン月中ではもっといろんなことをしなくちゃいけなくて、例えば寝ない、暴言を吐かないとか…そのうちの一つが断食なんだって。
ややこしいけど、さらに断食の期間中は喫煙、性行為なども禁止されているみたい。
あとは宗派によって断食の日数も違って、中には3日とか、1週間しか断食を行わないところもあるみたい。
ここはシーア派の中でも12イマーム派という宗派を信仰していて、断食期間は約一ヶ月ありました。
結果から言うと、私たち日本人留学生はイスラム教徒じゃないから断食はしなくていいよ!と言われました。しかも、日本人のためだけに特別に昼ご飯を作ってくれたので、食事には困りませんでした。
ただ、せっかくイランに来てラマダン月が被っているんだったら私もやってみたい!と思い断食を体験してみることにしました!
断食をした時の、私の1日の流れはこんな感じ。
ラマダンでの断食といえば、日が出てる間はご飯を食べてはいけないとありますが、正確な合図は1日に3回流れるアザーンです。 朝のアザーンがその日の断食始まりの合図で、夜のアザーンがその日の断食終了の合図になるのです。
私がいた地域コム(Qom)では、朝の4時半ごろに朝のアザーンが鳴り、20時半ごろに夜のアザーンが鳴るので、約16時間の断食をしなくちゃいけません。
やってみた感想は、とにかく暑いからご飯は割と食べなくても大丈夫だけど、喉がめっちゃ乾く!
そして朝ごはんのサハリを食べるための早起きが大事で、寝坊すると朝ごはんを食べ損ねるので大変です。初日に一生懸命食べていたら、ホテルのスタッフの人がもう食べちゃダメだよ!と言って食べ物を全部片付けられちゃったのは悲しかったなあ。
喋ったり、歩いたりしたら水分が飛んじゃう気がしちゃうし、一回喉が渇いたかも?って思っちゃうと、ずっとお水のことしか考えられません。ちなみに断食の最中は、喉を潤す目的で唾を飲み込むことも禁止されているらしいのです…。
あとは朝ごはんを食べるために早朝に起きるので、寝不足になります。授業が普通にあったので、眠いのが辛かったなぁ。
それでも断食の後にご飯を食べると、本当に美味しいと思えるし、でもまぁとにかくお水!お水に感謝ですね。水分はとても大切だと改めて感じました。
軽い好奇心で始めた私は、結局2日で断念しちゃいました。
言い訳をしちゃうと、断食期間中はみんなあまり働かないし、授業もほとんどないらしいのですが、私たち日本人留学生には特別に昼食が出されるし、通常授業だったんですね!(よくよく考えると先生も辛かったのかも…ありがとう先生!)
そんななか断食をしていると体力的にも厳しいし、勉強にも集中できなくなっちゃったの。
実際、シーア派の教えの中では体の健康が第一として、風邪のひと、生理、妊娠中のひとは断食を行うことを逆に禁止しているそうです。無理をしないのが大事みたいだよ。
それ以外にも旅行中の人も断食はしないとか、いろいろと細かい決まりがあるんだって。
そして断食をしてみて感じたのは、まわりのみんなと「一緒に」断食をすることがラマダンを乗り切る秘訣なんじゃないかっていうこと。
私はなんだかんだ日本人しかいない部屋で生活していたし、周りの日本人留学生は好きにジュースを飲んだりお菓子を食べたりしてたし、ご飯は学校から配給されるものだったから、豪華なイフタール(※)をみんなで食べることもなかった。そして私は信仰心もないから、続けるのが厳しかったんだよね。
だけどイラン全体で見れば、昼間はお店もどこもやっていないし、周りの人もみんな断食をしていて頑張ろうと思えるし、夜にはお店が始まって賑わってくるし、お家で過ごす時も家族や親戚が集まってイフタールを食べて、ワイワイするのがとっても楽しい!
そうやってみんなで協力しながら、この一ヶ月を過ごしているのかな。
(そうすると、日本で暮らしているイスラム教の人たちは、どうやってラマダン月をこなしているんだろう…?)
さっきも書いたけど、断食明けの食事であるイフタールの時は、毎日のようにお家に親しい友人や親戚を招待してみんなで食べるのが習慣らしく、私も2回ほどイラン人の友達に呼ばれてイフタールに参加しました。
その人のおうちは大家族で、60人以上親戚が集まっていました…!びっくりだよね。
私は女性が集まるお部屋に連れてってもらって、そこで同世代のイラン人の女の子とワイワイ楽しくお話をしながらイフタールを食べました。
そういえばそのとき、みんなでお庭に出てスイカを食べながら、留学組の中にいる男の子の中で誰が一番かっこいい?彼の名前はなんていうの?なんてガールズトークで盛り上がったりもしたよ。 どこの国の人も変わらないなぁと嬉しくも思えた日でした。
今度イランの家族についても話せたらいいな。
ラマダンの話でいっぱいになっちゃった。
次は食事の話をしようかな。
イランに想いを馳せる(5)
イスラム教のいろいろ
今回は、ラマダンのお話でした。
手紙を書いているうちに、2人は気が付いてきましたが、えなちゃんのいるイランと、ばんちゃんが学生のこと旅をしたアラブ首長国連邦やヨルダンなどアラブ諸国のイスラム教には違いがあるようです。
イランの人々の多くが信仰しているのはシーア派。その中の12イマーム派です。今回のえなちゃんの手紙には、一日に礼拝(お祈りのアザーンの数)を3回すると書かれています。
それを読んで「あれ?」とおもったばん。彼女が知っているイスラム教徒の友達は、一日に5回礼拝をしているからです。
どうやら、スンニ派と呼ばれる宗派を信仰している人々は、一日に5回礼拝をするようです。
同じイスラム教ですが、いろいろ違いがありそうですね。
実は、ひとことでイスラム教と言っても、さまざまな宗派があります。大きくはスンニ派、シーア派に別れていますが、スンニ派・シーア派それぞれの中でも、さらに細かく宗派が分かれています。またこうした宗派を信仰している人からは「異端」とされていますが、イスラム教に系譜をもつ宗教(宗派)もあります。ドゥルーズ教やアラウィ―教などがそうです。
細かい宗派を扱うと日が暮れてしまうので、ここではシーア派とスンニ派の違いをお話しします。
シーア派を信仰している人は、世界にいるイスラム教徒のうちの10-13%だといわれています。残りの9割ほどがスンニ派です。シーア派の信者が多いのが、イラン、そしてイラク、レバノン、イエメンなどです。
イスラム教が、シーア派とスンニ派に別れたのは、預言者であるムハンマドの死後、6世紀ごろといわれています。ムハンマド亡き後のイスラム教の指導者を決める際に、ムハンマドの血筋を重視したのがシーア派、血統を重視しなかったのがスンニ派の始まりだといわれています。
そのため、おもな違いは指導者の考え方。教義自体にはそれほど変わりはないともいわれています。
違いのひとつとして「礼拝の数」があります。スンニ派では1日に5回礼拝するところ、シーア派では1日に3回。シーア派は礼拝の数が少ないですが、回数ではなく信仰心が重要だとされているといいます。