3通目 ヨハネスブルグのばんちゃんへ/イランからの便り
チャリツモライターで南アフリカ在住のばんと、同じくチャリツモライターでイランに留学中のえな。
仲良しだけど、今は遠く離れているふたり。
このコーナーでは、そんなふたりがときどき交わす、手紙のやり取りを記録していきます。
登場人物
今回のお便りは3通目。イランに留学中のえなちゃんからのお便りです。
ばんちゃんへ
お返事ありがとう。
お手紙を書くのは昔から大好きだったけど、ばんちゃんとこうやってゆっくりお話ができるのは不思議な気持ち。
とっても嬉しいな。
イランは最近はだんだんと暑くなってきてます。でも、コム※は砂漠地帯なのでカラッとしていて、日差しを避ければ日本より過ごしやすいです。
この辺は、あちこちに美味しいフルーツジュース屋さんがあります。ラマザン※も終わったので、お昼休みに時々買いに行ったりしてるんだ。
学校のお庭の木陰でメロンジュースとかイチゴジュースとかを飲みながら、ぼーっと過ごすのがとっても気持ちよくて、贅沢な時間です。
今日は、お手紙でチャドル※について聞いてくれたので、イランの服装の話をしようかなと思います。
この国の決まりではざっくり言うと、女性は髪の毛と体のラインは隠さなきゃいけないという法律があります。
なので、私も手首と顔以外はほとんど布で隠された状態で、さらにお尻と胸は形が見えないように、上着を着たりダボっとしたズボンを履いたりして隠しています。
イランには体を隠すグッズが何個もあって、チャドル、マグナエ、ルサリー、ショール…などなど大混乱です。
でも前に手紙で書いていたアバヤというのはここの国では聞かないなあ…きっと他の国でもいろんな名前のものがたくさんあるんだろうね。
イランでは、こうした体や頭を隠すグッズを、「ヒジャーブ」と言います。もともとはアラビア語から来ているみたいで、意味はそのまま「覆い隠すもの」だそうです。
チャドルはね、実は私、二着も買っちゃいました。
前にも書いたけれど、このコムという街はイランのなかでも特殊で、ほとんどの女性がチャドルを着ているので、この街にいるときだけは私も真っ黒なチャドルを着て颯爽と歩いています。
とは言っても、体のラインと髪の毛を隠す布は別に黒くなくて大丈夫。
一緒に来た日本の留学生たちや、時々学校に来るパキスタン人やアゼルバイジャン人などは、それぞれ好きな色のスカーフを、お洋服と合わせて身につけていてとても可愛いです。
ちなみに、ほかの都市だと、チャドルを着ていない女性もたくさんいます。
コムでの生活に慣れた頃に、初めてテヘラン観光に行った時は驚きました。
チャドルをつけている人はほとんどいないし、なんなら髪の毛もほとんど隠していなくて、ふわっと頭に乗せてるだけとか、肩にかけてるだけの人がたくさんいるんです。
コムという街が、イランの中でもイランではないとよく言われる意味がわかりました。
間違えて、コム以外の街でチャドルを着て行ってしまうと「あなたは何でチャドルを来ているの??」と、いろんな人に質問されてしまいます。
言い訳が大変で、「楽ちんだからですよ」と答えると、だいたいの人は「絶対に楽じゃないよ!大変じゃん!」といってくるのがなんだか面白いです。
宗教的にもっと大事なものだと勝手に思っていたので、なんだか意外だなぁという感じです。
私は案外、チャドルを気に入っていて、中はノースリーブにレギンスとか、Tシャツに短パンとか、誰にも見えないから好き放題の格好をしてます。 なんなら起きてすぐ、パジャマのままチャドルをかぶって買い物に行ったりしちゃいます。
チャドルは同じ黒い布でもたくさん種類があって、流行りとかもあるみたい。
私も2着買っちゃったのには訳があって、1着目に買った伝統的なチャドルは、生地が分厚くで動きにくかったので、2着目はチャックとか袖が付いてる現代的なチャドルを買い直したの。現代的なものはとっても薄い生地でできてて夏でも涼しく、動きやすいです。見比べたらきっと面白いので、帰国したら見て欲しいな。
チャドルを着て暮らしてみた感想は、やっぱりあっちこっち気を使わなくていいのはとても楽ということ。全身布に包まれてると安心感があって、日本にいる時以上に神経質にならなくて済むのかなぁと思います。でも、おしゃれが好きな私としては、自由な格好や髪型で外に出れないことの悲しさを感じるときもあります。
チャドルの大変なところは、裾を踏んでころんじゃうことや、種類によってはリュックが背負えないこと、あとは慣れてないからか、裾を引きずってとれちゃったこともあります。着こなせるようになるまで、結構時間がかかるんですね。
はじめのころは、バスから降りる瞬間に後ろの人に裾を踏まれて、頭から派手に転んだことがありました。「くそう、ヒジャーブの洗礼を受けてしまった…」と、しばらく痛かったけど、階段やステップでは、ドレスみたいに裾を引っ張って歩かないといけないことを学びました。
学校の先生に、なぜ女性は体や髪の毛を隠さなきゃいけないのかと聞けば、「それは美しいものは隠すことが美徳だからですよ。」とか「女性は男性の目を惹きつけてしまうものだから隠した方が安全なんです。」とか、「コーランに書いてあるからです。」とか色々な返事が返ってきます。
「体を隠さなければいけないなんて大変だなぁ。自由におしゃれすればいいのに。」と思う人もいるのかもしれませんが、この国の人たち(特にコムの人たち)からすれば「美しいものを大切な人以外に見せるなんてもったいないなぁ。隠したらいいのに。」と思うのかもしれませんね。
自分が当たり前だと思っていた価値観が全部じゃないなあ、と日々思い知らされているけど、この服装に関してもそのうちの一つだなと思いました。
長くなっちゃったので、今日はここまで。
まだまだたくさん話したいことがあるなぁ。
みんなとの再会を楽しみにしてます。
それじゃあまた。
お元気で。
えな
イランに想いを馳せる(3)
イスラム教と女性
イスラム教の教えが書かれているコーラン(クルアーンとも呼ばれる)には「女性の美しい部分を隠すように」と読み取れる部分があります。
そのため、体のラインや髪の毛を隠す人も多いです。一部の国では、女性の露出について法律で定められていて、イランもその一つです。
文中に出てきたアバヤというのは、アラビア半島(サウジアラビアやアラブ首長国連邦、カタールやクエートなど)の伝統衣装のこと。チャドルのように、女性の体のラインを隠す服ですが、頭の上から被るのではなく、首から下を隠します。頭部は、ヒジャブと呼ばれるスカーフを付けることが多いです。
また、ブルカという服も聞いたことがあるかもしれません。ブルカは顔全体を覆うもので、現在はアフガニスタンなどの中央アジアでよく見られます。
一言でイスラム教、イスラム教の女性の服装といっても、地域や文化、家庭、個人によって異なります。同じ国でも時代によって流行り・廃りもあるんだとか。
ちなみに、イスラム教を信じる国に行ったら、外国人もヒジャブなどを着用しないといけないのでしょうか?
それは、国によって法律が違います。
外国人にも自国民にも寛容な国もあれば、イランやサウジアラビアのように、外国人であれ、髪の毛や肌の露出を禁じている国もあります。
また、どの国でも、モスクなどの宗教施設の入るときは、ヒジャブの着用を求められることが多いようです。
私自身も、いくつかのアラブ諸国に旅した際に、ヒジャブを付けて歩いたことがありますが、日差しが強く、砂っぽい気候の中で付けるヒジャブは、思ったよりも快適で、確かに人目を気にしなくてよいので、心地よいように感じることもありました。
ちなみに、髪の毛を見せていけないのは、親戚以外の男性のみ。なので、女性同士だと髪の毛を出していてもいいのです。
女の子だけで女子会をしているときは、みんな思い思いの格好で、ガールズトークを楽しむことも多いんですよ!