知って、シェアして、混獲問題。

環境保護と平和を願って活動する団体「国際環境NGOグリーンピース」がある動画を公開しました。漁網をまとった2人のダンサーが、月明かりの下で踊り、やがて動かなくなってしまう…。幻想的な動画です。
ダンサーがまとう漁網の衣装は、ドイツから使わなくなった網を調達し、廃材を使ってコスチュームを作るデザイナー・谷公美子さんがデザインしたもの。動画は千葉県で撮影。
実は、この動画はただのファンタジーではありません。現在進行形で世界の海で起こっている環境問題についての物語なのです。
「混獲(コンカク)」を知っていますか?
消費者に美味しい魚を届けるため、世界中で漁が行われています。しかし漁の方法によっては、本来捕まえたい魚以外の生物も捕獲し、殺してしまうのです…。この、他の生物を捕獲してしまうことを混獲と言います。
混獲されてしまう生物として代表的なのが、ウミドリやウミガメ。毎年約16万羽のウミドリと約30万頭のウミガメが漁の網の犠牲になり、その多くが命を落としています。冒頭の動画で漁網ドレスをまとったダンサーは、混獲の被害にあうウミドリを表現しているのだそうです。
しかし、私たちの食事のためにウミドリやウミガメといった、食卓に上がらない生き物が犠牲になっていることは、ほとんど知られていません。
遠くの国の出来事だと感じるかもしれませんが、実はそうでもありません。
例えば、私たちに馴染みのあるマグロを取るための漁で、特に混獲が起こりやすいと言われているのです。
混獲を引き起こす「巻き網漁」
マグロは、巻き網漁(まきあみりょう)という方法を主流に捕られています。
子マグロには大型魚や海面に浮かぶ海藻や流木などの周りに群れる習性があります。巻き網漁ではこの習性を利用し、洋上に浮遊物を流して魚を1ヶ所に集めるFADs(ファッズ:人工集魚装置)と呼ばれる仕掛けが頻繁に使われます。
FADsで集めた魚の群れを、長さ約1km以上の巨大な網で、まるごととってしまうのです。その際に、そこに集まったその他の生物も一緒に獲られてしまいます。
世界のマグロ類の60%以上がまき網により獲られており、その多くがこのFADsを用いています。
FADは浮遊物の周囲に魚が集まる習性を利用した装置で、ブイや竹で組んだいかだ状の浮遊物などを洋上に流し、カツオやメバチマグロ、キハダマグロなどを寄せ集める。漁船に位置を知らせる発信機や魚群探知機が付いたものもあり、熱帯海域で大量に使われている。周囲に集まる大小の魚を巻き網で一網打尽にするため「乱獲」との批判がある。
日本人もよく食べるマグロのお刺身やツナ缶のために、関係のない海の生き物が犠牲になっているのです。
グリーンピースでは、混獲問題について世界規模のプロジェクトを進めています。その成果として、タイにある世界的に有名なツナ缶メーカー「タイ・ユニオン」がFADsを使った漁を減らす約束をしたことが挙げられます。これには、世界中の人たちの「声」が大きく関係していました。 2016年にグリーンピースが行った署名運動では、世界中で70万人もの人々が「自分が食べるツナ缶のために海の生物が犠牲になるのは嫌だ」という声を上げました。この署名がタイ・ユニオンを動かしました。消費者の声が企業に届き、漁の方法を見直すきっかけになったのです。この他にも、海外では消費者の声を受けて企業が人工集魚装置を控える動きが出てきています。では、日本はどうでしょうか。
調達方針すらもたない、日本のメーカー・小売店。
グリーンピース・ジャパンは、日本の大手ツナ缶メーカーとそれを扱う小売業者の計20社に調査を行い、ツナ缶の原料となるキハダマグロやカツオをどのように調達するかのルール(調達方針)があるかどうかをたずねました。その結果、回答があった15社のうち、きちんと調達方針を持っている企業はゼロだったといいます。
この結果からわかるのは、日本のツナ缶メーカーや小売店が、自分たちが売っているツナ缶の原料の魚がどのような漁法で獲られているかを把握していなかったり、責任を持ってルールを定めていないということです。
また、混獲についての海外との意識の差は、消費者側にも見られます。魚を獲りすぎず、自然を傷つけない方法で取られた持続可能な水産作物「サステナブルシーフード」と呼ばれますが、日本の消費者の95%がその存在を知らないのです。
マグロの例でいうと、FADsを使わない漁法や、一本釣りなどで獲られた、絶滅危惧種ではない種のマグロが「サステナブルシーフード」にあたります。
「サステナブルシーフードの前に、”混獲問題”を知らないと需要は生まれない。だからこそ、海がどういう問題に直面しているのかを知らせるために、今回の動画を制作しました。」
グリーンピース・ジャパンの林さんは話します。
海外に比べ日本では混獲問題への取り組みが遅れていますが、企業が重い腰を上げ、意識を変えるには、消費者の声が必要になるといいます。
「まずは、何も考えずに(動画を)見てもらいたいです。そして、気に入ったミュージックビデオをシェアするように、この動画をシェアしてほしいです。混獲という問題を消費者も意識しているということを企業にも伝えることで、社会も少しずつ変わっていくと思います。」
今回の動画プロジェクトの背景には、若者が共有・発信することで、新たな解決策が生まれるかもしれないという期待もあります。例えば、昨今話題にのぼることの多いプラスチック問題について、使い捨てのカップよりもおしゃれなタンブラーを使ったり、ストローを使わない方がカッコイイという新しい価値観を生み出し、拡散させたのも若者たちでした。
シーフードの世界でも、混獲問題が知られることで、「サステナブルシーフードがカッコイイ」という価値観が広がっていけば、企業が動き、世の中を変えられるかもしれません。
そのために、まずは動画のシェアから初めてみませんか。