私は岡山県に住む中学生です。昆虫や動物、山や海など自然が大好きです。
時々新聞やニュースで自然破壊や野生動物の問題を見かけます。アフリカなどの遠い場所の話のようですが、それは私たちの暮らしや日々の選択と無関係ではありません。
かわいそうな動物の写真に心を痛めながら、地球規模の気候変動に不安になりながら、知らないうちに実は自分もその悪循環に加担していることもあります。
知って、感じて、考えて、行動する。
そのひとつのきっかけとなれるようにこの新聞を発行します。
発行者:沖 メイ子
トラの現状と倍増計画 / 野生動物に迫る問題とわたしたちの選択(4)
世界最大のネコ科動物であるトラは、1種9亜種※のうち3亜種がすでに絶滅、残りの亜種も全てが絶滅の危機に瀕しています。
生息地は高山、雪が降る寒帯、常緑樹林、混合林、熱帯林、湿地、マングローブ林など多岐にわたっています。
20世紀はじめには10万頭を超えるトラがアジアに広く分布していました。しかし2010年には推定3200頭にまで激減しました。生息域は100年間で9割以上が失われています。トラを脅かしている問題はいくつもあり、連鎖し絡み合っています。それは私たちの普段の暮らしとも無関係ではありません。
トラ減少の要因
1.生息地の減少
トラの生息する森林は、農地などへの転換利用、インフラ開発、木材の調達等で次々に減少しています。森の多様性は失われ、トラをはじめとする様々な野生動物の生息地の減少や分断が起きています。
森林伐採の際に伐採道路が作られると、森の奥に人が入りやすくなり、密猟も起こりやすくなります。また、家畜の感染症が草食動物に広がり、トラの獲物も減ります。さらに伐採された木が放置されると、乾燥して森林火災の要因になることもあります。森林火災は元々自然下でも起こりますが、近年では地球温暖化の影響で雨が全く降らず、大規模な火災に発展し、森に深刻なダメージを与えています。森林火災により植物が消え、植物を食べる草食動物、そして草食動物を食べるトラにも波及します。
気候変動の影響で逆に大雨になると、野生動物たちは比較的雨が溜まりにくい道路に集まります。すると、容易に密猟されたり、ロードキル(交通事故)が頻発したりします。
またすみかがなくなり人里に降りたトラが、害獣として人間に捕殺されたり事故にあうこともあります。
人間活動による気候変動が森林減少を引き起こし、森林減少が更なる気候変動を引き起こす悪循環になっています。
2.密猟・違法取引
インド植民地時代、イギリス人やインドの地方有力者によるトロフィー(頭部を剥製にした壁飾り)目的のハンティングやスポーツ・ハンティングが数多く行われ、トラの個体数は大幅に減りました。
その後狩猟が禁止されてからは、密猟が横行するようになりました。トラは様々な部位が高値で売買されます。毛皮は上流階級の人々のステータスシンボルとして、壁掛けや絨毯に、爪や歯は装飾品やお守りとして人気があります。骨は「虎骨」という漢方薬として、主に中国やベトナムなどアジア地域で根強い需要があります。日本を含む多くの国でトラとその製品の取引が禁止されていますが、密猟・違法取引は止むことがなく、毎年100頭以上に相当するトラの骨や毛皮がアジア各国で押収されています。
またベトナム、タイ、ラオス、米国などにある営利目的のトラの繁殖施設も、需要を助長して密猟を誘発し違法取引の温床になっていると問題になっています。
トラそのもの、またトラの部位を手に入れたいという欲が、トラの生存を直接脅かしています。
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トラ倍増計画『TX2』
激減したトラの生息数を回復させるため、寅年の2010年、「世界トラサミット」という国際会議で、「次の寅年の2022年までに野生のトラの個体数を2倍にする (3,200頭から6,000頭以上へ)」 という国際目標が持ち上がりました。これがトラ倍増計画「TX2」です。
WWF(世界自然保護基金)協力の元参加したのは、トラが生息する13カ国、バングラデシュ、ブータン、カンボジア、中国、インド、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、ロシア、タイ、ベトナムです。
各国が目標を立て、生息調査や違法行為の監視、ワナの撤去、分断された生息地をつなぐ回廊(コリドー)の確保など、具体的な対策をして努力を続けています。
インドやロシア、ネパール、ブータンなどでは増加傾向にある一方、東南アジアでは減少が続いています。ベトナム、ラオス、カンボジアではほぼ絶滅してしまいました。しかしこのプロジェクトにより、何十年にも渡って減る一方だったトラの個体数は、全体として初めて増加しています。 今年後半、世界のトラの推定生息数が明らかになります。
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わたしたちにできること
トラ減少の主要要因は森林減少です。例えばスマトラトラやオランウータンなどが生息する、東南アジアのスマトラ島とボルネオ島は、今世界で最も急激に森林破壊が進んでいる地域です。大規模に切り開かれた土地は、パーム油や木材や紙、天然ゴムなどを生産するための農地に開発され、日本を含む世界中に輸出されています。1985年からの過去30年間でインドネシア・スマトラ島では56%、ボルネオ島では40%の自然の熱帯林が消失し、多様な野生生物も絶滅に追い込まれています。
パーム油
アブラヤシから作られるパーム油は、世界一多く使われている植物油で、スーパーやコンビニに並ぶ多くの商品に含まれています。パンやお菓子、即席麺、アイスなどの加工食品、洗剤やシャンプー、化粧品、一部のバイオマス燃料にも含まれています。私たちは一日中パーム油の使用されたものを使ったり食べたりしていて、生活には欠かせません。原料表示では、以下のような名称で表記されています。
植物油/植物油脂/ショートニング/マーガリン/グリセリン/界面活性剤 など
パーム油が熱帯林破壊をもたらしているからと言って、その使用を止めれば良いわけではありません。パーム油は最も生産効率が高く安定供給できる植物油で、他の代替作物の生産には更なる環境負荷がかかってしまいます。無責任な需要と開発を見直し、環境に配慮した生産方法に改善することが求められます。
世界的な人口増加や、開発途上にある国が生活を向上させるために、ますますパーム油は需要が拡大しています。しかし生産は熱帯でしかできないので、日本を含む多くの国は100%輸入に頼っています。
世界全体の生産量約7,300万tうち、インドネシア58%、マレーシア26%、タイ、コロンビア・その他と続きます。(※米国農務省穀物等需給報告 2019/20)
日本の輸入量約76万tの割合は、マレーシアから58.8%、インドネシアから41.2%です。(※財務省「貿易統計」2020年)
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持続可能な生産 「RSPO認証マーク」
パーム油には森林破壊やそれによる気候変動の問題以外にも、児童労働や強制労働、野焼きや湿地火災によるヘイズ(煙害)・CO2排出増加の問題もあります。
RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)とは「持続可能なパーム油のための円卓会議」という意味です。パーム油の問題を改善する8つの原則と43の基準があり、生産から流通までを監視し、持続可能な生産を認証しています。
紙製品
パーム油に加え、熱帯林破壊の主因となっているのは、紙の原料となるアカシアやユーカリを植えた植林地の拡大です。土中に大量の炭素を含む泥炭地にアカシアの植林をするために、水を抜き乾燥させることで、大量の温室効果ガスを排出しています。環境への悪影響と地域紛争が止むことはありません。
日本人は世界平均の約4倍の紙を消費しています。コピー用紙やノート、ティッシュペーパー、紙パッケージなど身の回りに紙製品は溢れています。市場で流通するコピー用紙の約4分の1はインドネシア産です。身近な国内大手企業でもインドネシア産の植林木原料を使用した製品がまるでエコであるかのように売られています。日本の企業や消費者の責任は大きいです。
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森林認証制度 「FSC®認証マーク」
紙の生産にもパーム油と同様のいくつもの問題があります。FSC(Forest Stewardship Council®:森林管理協議会)認証とは、持続可能な森林活用・保全を目的として生まれた国際的な認証制度です。消費者がFSC認証を受けた製品を選ぶことで、林業関係者、森林に由来する製品を製造・販売する企業、消費者が一緒になって未来の森を守ることができます。
これらの問題を知り、国際認証マークのついた商品を選ぶことは、世界の森林保全やそこにすむ野生生物の保護に貢献することになります。また、どんな未来にしたいかという意思表示でもあります。加工食品を減らして手作りをする、プラスチックだけでなく紙の使い捨ても減らす、森林再生や保全をしている企業の応援やNPOへ寄付をすることなども、できることのひとつです。他の国の自然や生態系、人々の幸福を奪って得られる豊かさや便利さについて考え直す時です。
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トラは、生息する地域の生態系ピラミッドの頂点にいます。トラが生きていくためには、餌となる草食動物、草食動物の餌となる植物、植物を育む広大で豊かな森が必要となります。トラを守ることはその森にすむ他の多くの生き物を守ることに繋がります。 (このような種を「アンブレラ種」と言います)
トラが繁栄する持続可能で健康的な生態系は、人間にも大きな恩恵をもたらしてくれます。わたしたちは自然をなくして生きてはいけません。森と無関係な人などいないのです。
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参考ページ
WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)と考える「トラに願いを。-トラの現状と保全活動-」、認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金「トラの保全のためになされるべきこと」、TRAFFIC「トラの違法取引、改善していないことが明らかに 新たな報告書発表」、Annual Report 2020 – Doubling Wild Tigers 、JSTOR DAIRY「How War Affects Wildlife」、WWFジャパン「残りおよそ3000頭。絶滅に瀕したトラを救うために。」「これを読めばトラ博士?!絶滅危惧種トラの生態や亜種数は?」、「パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの」、「APP社「森林保護方針」から5年 WWFからのアドバイザリー(勧告)」、「APP(エーピーピー)社、エイプリル(April)社と熱帯林の消失」、「森林保全と持続可能な紙利用」、「森を守るマーク 森林認証制度FSC®について」