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チャリツモには、「これイイ本だなぁ!」と思った本を、みんなで持ち寄って作る本棚“これイイ本棚”があります。 ここではこの本棚に集まった本を、一冊ずつご紹介します♪

浪人候補者が綴る、選挙戦のリアル/井戸まさえ『候補者たちの闘争―選挙とカネと政党―』

こんにちは!チャリツモライターのばんです。 みなさん、今年2019年は選挙イヤーと言われているのをご存知ですか? 統一地方選と参院選という、2つの大きな選挙が行われるんです。

チャリツモでも、選挙についての記事を発信したり、選挙演説マップを作ったりしていますが、普段の生活では、選挙のことってなかなか意識しないですよね。 私自身も、選挙のことってあんまりよくわからない…ともやもやしていたところ、チャリツモ事務所の本棚で、政治家でジャーナリストの井戸まさえさんの著作「候補者たちの闘争―選挙とカネと政党―」を見つけ、手に取りました。

この本で描かれているのは、選挙ポスターや街頭演説だけではわからない、選挙の舞台裏。筆者である井戸さん自身も、候補者として選挙に臨み、当選も落選も経験したからこそ見える景色が描かれていました。

当選も落選も経験したからこそ見えるもの

筆者である井戸さんは、政治家を多く輩出する松下政経塾を経て、東洋経済新報社に入社。経済ジャーナリストとしてキャリアを積んだのちに、自身のお子さんが無戸籍となったことから「無戸籍問題」などの社会問題について執筆活動を続けています。

また、ジャーナリストとして活動をする一方で、2005年に兵庫県議会議員に当選、政界デビューを果たします。
また、2009年の第45回衆議院議員総選挙で、兵庫1区から民主党公認として出馬し、当選。国政の舞台に立ちました。

しかし、その後2012年第46回の衆議院議員総選挙では落選。さらに次の2014年に行われた第47回の総選挙でも落選を重ねます。どちらも民主党公認としての出馬です。
「候補者たちの戦い」の中でおもな舞台となっている、2017年の第48回衆議院議員総選挙でも落選し、“浪人”生活も6年になると言います。

何度も苦渋を舐めながら、戦い続けてきた井戸さんが、当事者として見てきた“選挙”の世界は私たちの多くが想像している以上に過酷で理不尽です。

党の公認を巡って行われる党内での熾烈な争いや、2017年選挙での突然の野党再編の流れの中で、翻弄され傷ついた候補者たちの姿が、克明に綴られている作品です。

井戸まさえさん『候補者たちの闘争―選挙とカネと政党―』表紙

ここから イベントレポート だよ♪

そんな書籍「候補者たちの闘争」の出版を記念し、この本の著者・井戸まさえさん(立憲民主党 東京都第4区総支部長)と立憲民主党代表の枝野幸男さんのトークイベントが開催されました。

神保町ブックセンター
神保町ブックセンターで「選挙のリアル」と題してイベントが行われました

会場は満員御礼。スピーカーのお二人が入場すると、温かな拍手が湧き起こります。 イベントのトークセッションも、本の内容に負けず劣らないぶっちゃけ話が満載。

常に椅子取りゲームの、厳しい政治の世界を生きてきたお二人から、政治家としての苦労や現行の選挙制度に対する問題意識などが語られました。

被選挙権について、考えたことありますか?

政治好きだった祖父の影響で、子ども時代から政治家を志していたという枝野さん。
「幸男」というのも、憲政の神様と言われ、祖父も敬愛していた「尾崎行雄」にあやかってつけられた名前なのだそう。

枝野さんが、代議士になる前に弁護士という職業を選んだことも、「政治家になりやすい」からという理由なのだそうです。
選挙に出るには多くの時間的・金銭的コストや労力がかかります。一般の会社員や官僚であれば、退職する必要があり、落選すれば、生活はかなり厳しくなります。
しかし、弁護士などの自営業であれば、参戦へのハードルが比較的低く、場合によっては出馬することによって仕事が増えるケースもあるのだと言います。

日常のなかで「選挙権」の行使について、議論されることはよくありますが、候補者として立候補する「被選挙権」について語られることは、あまり多くありません。
こうした被選挙権を行使することのハードルが、職業や働き方によって様々だという話は新鮮でした。

「どのような人が政治家になるべきか」という話になると、「政治家になるべき人は、政治以外の道でも一流になれる人が好ましい」と、枝野さんは述べます。
枝野さんのように、もともと政治家を志している人だけでは、良い政治はできないと言い、「望ましいのは、社会で生活をしていく中で問題意識をもち、なんとかしようと一念発起して政治家を志すことだ」と、社会生活を経てから政界に入って来る優秀な人材を求めていることを訴えていました。

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とりわけ過酷な選挙を強いられる浪人候補者

候補者といえども、現職議員に比べ、浪人している候補者は、生半可な覚悟で出馬できません。政治活動以外で選挙費用を稼ぐ必要があるため、働きながらの選挙活動となります。
また、候補者の立場はただでさえ非常に弱く、党の意向や政局などの外部要因に簡単に左右されてしまいます。

井戸さんは「候補者が安心して出馬できず、萎縮してしまうような状況では、政党は伸びない」と意見を述べました。特に、新人に対するサポートがあっても、元職(※)に対するサポート体制は少なく、井戸さんのような候補者は、一歩後ろのスタートラインに立っているような状況です。敗者復活ができない選挙の現状に、疑問を投げかけました。

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しかし「党に頼るようではいけない」と、枝野さんは反論します。
そもそも選挙は個人の力だけでは勝つことができません。選挙区やその時の勢いなど、現職/元職/新人かかわらず、個人の力ではどうしようもできない外部的な力も働きます。
そうした中、政党ができることは、あくまで候補者に勢いを与えることで、党に頼る感覚ではいけない、と枝野さんは主張しました。

枝野幸男代表

どうすれば若者は政治に参加するのでしょうか?

イベントでは日本の若者の政治参加についても語られました。
枝野さんは、全体の投票率を上げることは重要だとし、そのためには若者の参加率の向上は不可欠だといいます。

しかし、社会と自分の暮らしの結びつきは、年を重ねるごとに実感できていくものであるため、若者のほうが政治に関心をもちにくいのは当然だとも述べました。

「政治なんてつまんない、ダサい、胡散臭い、というものをどう払拭するかが大切です。若者でも、政治に関心がある人はものすごく関心がある一方、残りの95%くらいはほとんど関心がない」
「昔に比べ、大学生が学費・生活費の負担がものすごく増えているんです。でも当事者である若者は、その負担の増加に気づいていない。実は、若者は怒らないといけないはずなのです。」

また、来場者の一人で、フランスで幼少期〜高校時代を過ごしたという、帰国子女の大学受験生は、
「フランスでは、学生がカフェで集まって政治の話をすることはいたって普通のこと。日本でももっと気軽に趣味のようなかんじで、政治の話ができるといいのかもしれない」
と発言し、若者が政治の話題に触れようとしない日本の風潮について、疑問を投げかけていました。

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おわりに

井戸まさえさんの著書の中では、候補者が人間らしく選挙を戦う姿が描かれています。
有権者は、候補者の中から選び、選挙で投票します。
しかし、この本を読んで見えてくるのは、候補者もまた、所属政党の中で既に選ばれた存在であるということです。
政党のサポートを得られるかどうかが、選挙戦の有利不利を大きく左右するため、候補者になる段階で、既に闘争が始まっているのです。
この本を読むと、そうした個々人の見えない闘争を垣間見ることができ、その後の選挙が少し違って見えてくるかもしれません。

ただし、選挙は民主主義でとても重要な役割を果たしますが、“選挙後”も大切です。 選ばれた議員の方々には、議会でも職務を全うして、しっかりと政治が機能するためにも、有権者である私たちは、常にしっかりとアンテナを張っていきたいものですね。

今回ご紹介した書籍「候補者たちの闘争――選挙とカネと政党」はこちらからご購入いただけます!

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