はじめに
『タコスとお寿司の夫婦の会話』とは、高校で社会科を教えるメキシコ人の夫とイラストやデザインを生業とする日本人の私の、なんでもない日常の夫婦の会話をご紹介する連載です。
日本やメキシコ、その他の国で起こる様々な出来事に、育った環境や文化、受けた教育、職業も違う私たちが、それぞれどう感じ、何を話し合ったかをここに記録します。
『タコスとお寿司の夫婦の会話』とは、高校で社会科を教えるメキシコ人の夫とイラストやデザインを生業とする日本人の私の、なんでもない日常の夫婦の会話をご紹介する連載です。
日本やメキシコ、その他の国で起こる様々な出来事に、育った環境や文化、受けた教育、職業も違う私たちが、それぞれどう感じ、何を話し合ったかをここに記録します。
どうしたの?ついこの前まで、アメリカがメキシコから輸入する全ての物の税金を釣り上げるって言って、みんな大騒ぎだったのに!
そうそう、アメリカは、メキシコが不法移民対策に関して何か大きく行動を示さなければ、毎月5パーセントずつ、最終的には25パーセントまで、メキシコからの輸入品全てに関税をかけるって脅してたんだよね。
どうしてその関税の話はなくなったの?!
まず理由の1つは、ただの脅しだったってことがある。アメリカはメキシコの大切な貿易相手だけど、メキシコがアメリカに輸出してるだけじゃない。メキシコもアメリカから莫大な量の輸入をしてるし、アメリカのスーパーやレストランチェーンでメキシコに進出してる企業もものすごく多い。アメリカがメキシコの商品に関税をかけたら、メキシコだってアメリカの商品に同じことをするよね?そしたらアメリカだって困るのは、わかってたハズだよ。
たしかに、全ての日常品、お菓子や牛乳までアメリカ産の物がメキシコでも売ってるし、ウォルマートとかマクドナルドもメキシコにたくさんある。コカコーラの最大の消費国もメキシコだもんね。アメリカ産のものやアメリカ企業の商品が全部25%値上げされて、メキシコで誰も買わなくなったら、アメリカは大打撃だね。
それに、フォード(自動車)みたいにアメリカ国内で売るための商品を、メキシコの工場で作ってるアメリカ企業も多いんだよ。メキシコで作った製品をアメリカに持っていく時に25%関税をかけられたら、これまでと同じ値段で商品を作れなくなるよね。
そーだー!
でも、中国とアメリカは今すごい経済バトルを繰り広げてて、両方に打撃があるよね。どうしてメキシコには脅しだけで、実際に経済バトルは始めなかったの?
メキシコの大統領が脅しに完全に負けて、不法移民対策に事実上メキシコが莫大なお金を出すことを決めちゃったからだよ。
え?!壁作るの?ついに?!
メキシコとアメリカの国境は長すぎて壁を作るのなんてそもそも無理だと思うんだ。でも不法移民って、アメリカ大陸の南の方からメキシコを通って、アメリカへ渡って行く訳だから、メキシコの南の国境を閉鎖すれば、同じ効果が得られるよね。
あ、アメリカ大陸って中米の辺りは細くなってるもんね。つ、つまりもっと短いメキシコとグアテマラの国境に壁を作るってこと??
うん。物質としての壁じゃないけど、6000人のメキシコの軍人を配備して国境を警備させることになったから、見えない壁みたいなもんだね。
6000人?!すごい数なんじゃない?
そうだよ。メキシコのアンドレスマヌエル大統領が、国内の治安を良くするためにメキシコ全土に新たに配置するって約束してた軍人の数が1万2000人だから、その半分だね。
メキシコの治安対策の人員は国境警備のために半分になっちゃったんだよ。
がーん!メキシコが自分の国の治安を犠牲にしてまで国境警備のお金を払わされてるのね?!
お金だけの問題じゃないよ。メキシコの法律に矛盾することをせざるを得なくなったのも問題だと思う。メキシコには、ある一定の条件さえ満たせば、入ってきた外国人を誰でも受け入れるという法律があるんだよ。
一定の条件って、いわゆる不法移民と言われる人たちでも満たせるの?パスポートとかはいらないの?
法律では、パスポートがなくても、メキシコに一旦入国した上で、滞在の申請ができることになってるんだ。軍人を置いて国境を塞ぐのは、僕に言わせればメキシコの法律を無視する行為だと思う。
せっかく外国から来た人、特に困っている人にとって開かれた国だったのに、アメリカの干渉で変わらざるを得ないのが悲しいね。
不法移民って呼ばれる人って、呼び方のせいもあって、ズルをして他国に入ろうとしてる悪い人って思われてしまいがちだけど、自分の住んでいた場所で治安が悪化したり経済が崩壊して、絶望的な状況から、国外へ逃げざるを得ない人がほとんどだもんね。メキシコは、そういう、人を助けて受け入れる国であろうとしてたんだよね。
うん。メキシコだってそんなに豊かな国ではないけど、それでも経済が崩壊して食べ物もないような状況になったベネズエラから逃げてきた人や、どうしようもない貧しさでホンジュラスからアメリカを目指したキャラバンの人達を受け入れて来た。
これまでメキシコは何千人ものそういう人達に、食べ物や寝床だけじゃなく、最終的に就労許可をあげて、メキシコで合法に働いて生活できるように支援してきたんだよ。
好き好んで自分の国や家族を捨てて、知り合いもいない、生活の保証もない、見知らぬ土地へ行きたい人なんているはずないもんね。余程の事情があってみんな来てるんだよね。
そうなんだよね。でも悲しいことに、最近はそうやって助けを求めてメキシコまでやっとたどり着いた人たちが、グアテマラからメキシコへ入ろうという国境まで来たところで、軍人に阻まれて入国させてもらえず、抗議したり、泣いている映像をニュースで毎日のように見るよ。
それってみんなホンジュラス人とかグアテマラ人なの?
前はアメリカを目指して旅してる不法移民はラテンアメリカの貧しい国の人がほとんどだったけど、今は、アジアやアフリカとか、他の大陸からも、ひとまずアメリカ大陸でビザが無くても入れる国へ飛行機で行って、そこから陸路でメキシコやアメリカを目指す人も多いから、色んな人種がいるんだよ。
そういえば最近、旅をして来てる感じのアフリカ系の家族が道路に立って小銭をもらってるのもチラホラ見るね。日本ではメキシコから入るアメリカへの不法移民は全員メキシコ人だと思われてるかもしれないけど、世界中の困った状況の人達が、グアテマラやメキシコを通ってアメリカを目指して旅するんだね。
そうなんだよ。陸路でアメリカとメキシコの国境を通って不法入国する人達の中で、最近はメキシコ人は本当に稀なはず。でもね、メキシコがアメリカに約束した新しい不法移民対策では、メキシコを通ってアメリカに入った不法移民は、どこの国の人であろうとメキシコの責任で国へ送り返すことになっちゃったんだよ。
ええ??責任って?
今までは、アメリカへ不法移民として入った外国人を、追い返すとしたら、アメリカがアメリカのお金でその国まで送り返さなきゃいけなかったんだよね。ホンジュラス人ならホンジュラスまで、中国人なら中国まで、ガーナ人ならガーナまでって。
送り返すのに交通費がすごいかかりそうだね。
そうでしょ。で、新しい決まりは、メキシコを通って、つまりアメリカよりも南の地域を通って陸路で入った不法移民であれば、アメリカがメキシコへ引き渡し、メキシコがメキシコのお金でその人の国まで飛行機なり何らかの交通手段で責任を持って送り届けなきゃいけないことになったんだよ。
アメリカは隣のメキシコに渡すだけならほぼお金かからないじゃん!
そう。全部メキシコの負担。だからメキシコも、不法移民がメキシコ経由でアメリカへ渡るのを必死に阻止しなきゃいけなくなったんだよね。
すごい取り決めだね、そりゃトランプ大統領もご機嫌な訳だよ。
見えない壁は、ほぼ完成しつつあるって感じだよね。
壁がついに…。もう、自分の国や地域が経済的に崩壊したり、紛争が起きたり、マフィアとか反社会勢力に支配されてしまった人は、行き場がないの?自分の国へ帰ったって絶望的な貧しさや恐ろしい治安の悪さしか待ってないんだもん。たまたまそういう国に生まれてしまった人は、どうやって生き延びたらいいの?不法移民って言うけど、実質は難民でしょ?
でももうメキシコも無限に外国人を受け入れ続けることは難しいと思うよ。これまでにたくさん受け入れたけど、もう数的にも限界が近いし、メキシコのみんなの気持ちも前よりもずいぶん否定的になってる。昔はそうやってメキシコへ入ってきた不法移民を、みんなもっと助けようって気持ちがあったのにな。
不法移民で旅してる人が、よくメキシコの貨物列車にこっそり乗って北へ向かうでしょ?あの線路の周りで炊き出しというか、食べ物をに手渡したりする活動をしてる友達の話を聞いたことがあるよ。
うん、個人や団体でのそういうボランティアもあるし、ホンジュラスのキャラバンが来た時は、食べ物や寝る場所をメキシコの中のそれぞれの州のお金でたくさん用意したんだけど、みんな自分達の税金を使って彼らを助けることに賛成してたんだ。
でもキャラバンで来たホンジュラスの人と、メキシコの地元の人達でかなり摩擦があったよね。それでメキシコの世論がかわって来ちゃってるのかな?
そうなんだよね。ホンジュラスのキャラバンの中には、メキシコが準備した寝床が気に入らないって言ってすぐに別の場所に移動するバスを要求したり、メキシコのその地域にとっては貴重な観光地で収入源となるビーチに居座ってしまって地域の人達が経済活動に支障をきたしたり、色んなことがあった。
あとあのYouTubeで有名になったホンジュラスのキャラバン(アメリカを目指して旅した不法移民の団体)の女の人ね。「メキシコはフリホーレス(豆のペースト)ばっかり食べさせてくる」って文句をぶちまけて…
そう、あれはインパクト大きかったよね。
まず、メキシコは、自分の国にだって食べ物がないくらい貧しい人もいる中、ホンジュラスから入ってきた何千人単位の人達に、何週間も三食、無料で支給してたっていう状況がある。
それでこの食べ物は嫌だとかもっと高級な物を食べさせろとか言われたらやっぱり困ってしまうよね。そんなこと言われるくらいならメキシコ人の飢えてる人に食べさせてあげればよかったってなっちゃう。
あとは、フリホーレスが侮辱されたってゆうのも大きいんじゃないかな。フリホーレスってメキシコの国民食というか、メキシコの食文化の象徴みたいなところがあるから。それを人間の食べるものではない粗末な物、みたいな言い方されて、メキシコ人はすごく腹が立ったんだよね。
そういうことだったの?!たしかに。もしも、日本で外国人に白米を振舞って、「こんなの人間の食べるもんじゃねー」って言われたら、自分達の食文化や生活レベル、全てを馬鹿にされたって感じるかも。
でしょ。その人はさ、厳しい旅でストレスがたまっていたんだと思うし、メキシコからの支援に不平不満を言ってたのはキャラバンの中でたった一部だったのかもしれない。でも、フリホーレスへの文句の動画がToutube にアップされたことで、すごく極端に言うと、「自分達はアメリカしか眼中になく、メキシコはただの通り道。メキシコが自分達に無償で交通手段や食べものを提供するのは当然の義務だが、メキシコ人は豚が食べるものを食べてる貧しい民族で、ここでは自分達の期待する待遇を受けられない。」みたいなメッセージとして広まっちゃったんだ。
移民や貧しさに苦しんでる人を助けるって、想像するより難しいんだよね。何かしてあげたら、きちんと感謝されて簡単に気持ち良い関係ができるって思いがちだけど、そう簡単にいかない。お互いにやっぱり文化や常識が違ってるからすれ違いもあるし、難しい状況にある人って、疑心暗鬼だったり、心に余裕がないことだって多いもの。
そうなんだよ。キャラバンとして入ってきた不法移民の中には、支給された食べ物を食べてもその辺にゴミを撒き散らしてしまう人が沢山いたり、メキシコの民家を強盗した人もいた。
そうなってしまうと、やっぱり強盗された人やその家族、近所の人たちは、不法移民=危険、と思うようになるし、不法移民や外国人を疑ったり嫌う気持ちも生まれてしまう。その気持ちはなかなか止められないよね。
困っている人達であることに変わりはないし、それに、ほんの一部の人が悪いことをしただけで、キャラバンの中にはいい人もいただろうし罪のない子供たちだっていた訳だけど、でも、強盗された人やその身近な人はやっぱりもう「不法移民にはメキシコに入って来て欲しくない」って思うだろうね。そうやって憎悪が大きくなって、差別や憎しみあいにつながってしまうんだね。
そうだね。なんだか最近、国や民族間の差別や憎しみがどんどん大きくなって、みんながバラバラになっていってる感じがするな。
この前まで、アメリカとメキシコの間の壁について騒いでいたけど、このままだと全ての国と国の間に見えない壁が出来ていっちゃうかもしれない!
はじめに 『タコスとお寿司の夫婦の会話』とは、高校で社会科を教えるメキシコ人の夫とイラストやデザインを生業とする日本人の私の、なんでもない日常の夫婦の会話をご紹介する連載です。日本やメキシコ、その他の国で起こる様々な出来…
アメリカ合衆国シカゴ出身。6年前に日本に移住し、デザイナー兼アーティストとして活動している。2017年には自身のファッションブランド「CLOTH™」を立ち上げた。
ドックさんは、日本に来てどのくらい経つのですか?
日本には6年くらい住んでいるよ。今では自分のブランドも持っているよ。
デザイナーを始めたのは16歳の頃。音楽業界で、フライヤーなどの商業デザインから始めたんだ。
そこから徐々に、ストリートウエアのデザインを担当したり、仕事の幅が広がってきた。
ストリートウエアの仕事は好きだったなぁ。でもあるとき、自分が働いていたブランドが、ストリートウエアからメンズウエア中心にテイストを変えちゃった。
自分としては、もっとストリートウエアを作っていたかったから、そのブランドでの仕事は辞めたんだ。
そのあと日本に来てからは、アーティストのビデオの仕事に参加したり、ツアーグッズを作ったりという仕事をしたよ。
©️2VOX
©️2014 by.fritsukekagyou-air:man&TOKYO SHOSEKI CO.,LTD
なるほど。日本でマルチに活動してらっしゃるんですね。ちなみになぜ日本に来ようと思ったのでしょうか。
ヒトコトで言うと、アメリカから抜け出して日本で絶対に成功するつもりで来日したんだ。
自分がアメリカでデザイナーとして働いていたとき、ストリートウェアのブランドがたくさんあって、似たようなブランドが溢れていたんだ。同じようなブランドやデザインの中で自分が埋もれていってしまうんじゃないかと不安な気持ちになったんだ。
自分のデザインには日本のアニメーションが大きく影響しているんだけど、自分のオリジナルなデザインを追求する為にも、大好きだった日本に行きたいという気持ちが強まったんだと思う。
そんなある日、車に乗っているときに交通事故にあって、保険金を手にした。その時自分自身に問いかけたんだ。
「この保険金を使って、また車を買って、これまでと同じ仕事に戻るのか?」
「それか、このお金で航空券を買って、日本に行くか」
ってね。
このまま、好きじゃない仕事を続けることは考えられなかった。日本行きのチケットを買って、住んでいたアパートを引き払って、バックパックとスーツケース、そしてポートフォリオだけをもって、東京に降り立ったんだ。
チャーリーの家の黒板に、即興で絵を描いてくれるDOCさん
モチーフは黒猫ビリー
なぜ行き先が日本だったのでしょう。それまで日本に来たことはあったのですか?
日本に来たことはなかったよ。もちろん日本語もわからないし、日本人の知り合いもいなかった。初めのころは泊まる場所もなかった。カフェで寝たこともあったよ。
その頃、アメリカでは多くのデザイナーが日本のブランドとコラボしていた。僕もさらに日本の文化に強く惹かれていったんだ。
日本に行った後は、もはや戻るという選択肢がなかった。保険金があるといっても微々たるもので、40万円くらいかな。すぐにどこかに消えてしまう金額だよね。
日本で成功する以外、自分の道はなかったんだ。だから最初は何でもやったよ。ポートフォリオをもって営業をして、ステッカーのデザイン、洋服のタグ、そしてアーティストのグッズ…。とにかく何でもやったんだ。
僕は片道切符で日本に降り立ったとき、「もう成功するまでアメリカには戻らない」って思った。あえて自分を追い込んだことで、成功することができたんだと思う。
もちろん、運もよかったと思うけどね。
あっという間に素敵な作品が出来上がり!取材中にビリーがテーブルのカステラを盗み食いしようとしたときの表情を描いたのだそう。ファンキー&クール!
ものすごい決心で日本にきたのですね。まさに、JAPANESE DREAMをつかんだといえるドックさん。
最後にもうひとつ質問です。私たちチャリツモは“クリエイターが社会問題を伝える”メディアなのですが、DOCさんは日本の社会問題についてどう思いますか?
アメリカに比べると、それほどひどくないと思うよ。アメリカではマイノリティというだけで、その人権さえも揺るがされてしまうこともある。最悪の場合、差別感情が殺人につながったりね。
日本では、同性愛者だから、ハーフ・外国人だからって、発砲されたり殺されたりはしないだろう?
その点は比較的、さまざまな人が受け入れられていると言えるんじゃないかな。
でも日本には、社会問題を覆い隠すというか、社会的に見えないようにする傾向があると思うんだ。
在日外国人として感じるのは、日本にいる「外国人」は、何をするにしても『ガラスの天井』があるということ。
どんなに日本語が上手に話せても、成功の限界があるような気がする。
でも、自分の場合はクリエイティブ業界で生きているから、他の業界よりは「ガラスの天井」を割りやすいのかもしれない。
日本に6年住んでいても、ここで会社を設立するのは難しかったね。書類、印鑑・・・ これは外国人に限った話じゃないかも知れないけど。笑
日本では「殺される!」っていうほど強烈な嫌悪感や目に見える分断があるわけじゃないけど、かと言って『平等』と言える状況ではないと思うな。
長いリノベ生活を終え、ほぼ完成したチャーリーの家(=チャリツモオフィス)。 日々、制作活動をするチャーリーの家の住人のもとには、時たまお客さんが訪れます。 そんな素敵な出逢いを、インタビューにして記録する企画がこちら。 …
(テレビのニュースを見て)トランプがメキシコのことは友達だって言ってるよ(笑)